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目を開いたらもうすっかり明るい。昨日のことが嘘みたいに清々しい朝だ。'みたい'じゃなくて嘘だったんだと思う。そう、あれは嘘。
昨日あれからすぐさま逃げた。これまでに一番の速さで走ったと思う。とりあえず幽霊は追ってこないので、途中でコンビニに寄って塩を買った。家に入る前にこれでもかというくらい塩を自分にふりかけた。家に入ってから盛り塩を用意して玄関に置いた。そこまですると安心しきってそのまま寝てしまった。
現に今、昨日のワンピース姿で化粧もそのままである。ふと、携帯を手に取って開くと彼からのメッセージと電話の通知で埋め尽くされていた。連絡しないで、寝ちゃったから心配してくれたんだろうな。嬉しい。彼にすぐに電話をかけた。
「もしもし?」
「陽子!?心配したんだよ?昨日は大丈夫だった?」
「うん。帰ってきたら、疲れて寝ちゃったの。」
「うん、良かった。できるだけ帰ったら連絡してね。」
「ごめんね。ありがとう。」
電話を切って、ニヤついた顔のまま、まだ落ちていない昨日の化粧を落とすために洗面所へ向かった。
化粧を落とし、水で洗い流した。そうして、ゆっくり顔をあげた。すると、鏡の向こうに昨日の半透明の男が写っていた。私の口は大きく開いたがびっくりしすぎて声にならなかった。
「なんで、彼氏に嘘ついたの?」
第一声がそれ?そう思いつつ、振り向くと幽霊はニコリと笑った。
「襲われかけて怖かったっていえばいいのに。」
「い、今も充分怖い!」
「そんな怯えないでよー。」
「な、なんで家にいるのよ!」
「言ったでしょ?一目惚れしたって。」
「理由になってない!」
幽霊はただまっすぐ私を見つめる。
そして言う。
「好きです。」