第7話 それぞれの水泳の授業。
(酷い! 酷過ぎる!)
そう思いながらも、学級委員長の性だろうか。
いすゞが更衣室から出ると、唯香は手に持っていた白のショーツを水泳バッグの奥にねじ込み、代わりに紺のスクール水着を取り出して、フラフラと立ち上がった。
何はともあれ、授業には出なければいけない。
その思いだけで唯香は、もはや誰もいない更衣室の片隅で、巻きタオルをつけたまま、一人水着に着替え始めたのだった。
その頃プールサイドに現れたいすゞは、既に来ていた男性の体育の先生の側に行くと、事前に伝えてはいたけれど、再度見学する旨を伝えて、ゆっくりと女子側のプールサイドのフェンスの方に向かった。
「なんだ、橘さんは見学か…」
反対側のプールサイド、男子側の方で、平泉静と並んで座っていた長谷川悠利が、向かいのフェンスに背をもたせながらいすゞが座っているのを見て呟いた。
「ホントだ。彼女スタイルいいし、胸も大きいから、水着姿見たかったな~」
「きっとそれ、男子皆んなの願いだぜ。薄っすらブラの線が見えるスクールシャツもそそるけどな♪」
「なんだよお前、そんなとこまでチェックしてんのかよ」
この間から悠利がいすゞを気にしている事は知ってはいたが、そこまで意識していたのかと、静かは少し驚いた。
「当たり前だよ。だってあれだけの美人が、俺達のどちらかを好きなのかも知れないんだぜ。意識しちゃうに決まってるだろ。ウチの他の女子とではレベルが違うんだから」
「でもお前、この前委員長のパンツ見て勃っただろ♪」
「それはお前も同じ!」
ニヤニヤ笑いながら言った静かに、悠利は直ぐに言い返した。
「あれは生理的なモンなんだよ。橘さんと委員長を一緒にするな!」
「フーン、そんなもんかね~」
悠利の言葉にそう言いながら静は、あの時の、質感が伝わる程の至近距離で見た艶かしい純白のパンツを思い出しては、また下半身のモノが少し硬くなるのを感じた。
そしてその頃、橘いすゞアイドル化計画実行委員の面々も、男子側のプールサイドにまとまって座っていた。
「やはり俺達の情報通りだったな」
「ああ、今日の体育はいすゞちゃんは見学だ」
「水着が見れないのは残念だけど、こーやって向かい合わせで、必然的にいすゞちゃんを眺めていられるのはいいな。いつもみたいにコソコソ盗み見る必要がない♪」
上田・遠藤・小野は、橘いすゞの方を眺めながらそんな事を話していた。
「水着はまだ何度でもチャンスがある。それよりも、あっちを見てみろ」
そこに浅井が混ざって話し、顎で指し示した。
静と悠利の座っている方向だ。
「あいつらもニヤニヤしながら我らのいすゞちゃんを見てやがる」
「許せん! きっといすゞちゃんを見ながらエロい事でも考えているに違いない!」
自分たちの事を棚に上げて怒りを露にする井上。
「全く。何故いすゞちゃんがあいつらの方ばかり頻繁に眺めているのかは謎だが、それにしても許せん」
その言葉に上田も声をあげる。
「まーまー、それももう直ぐ終るさ。ちんこ丸出し。スッポンポンの悠利の奴を目の前で見たら、あまりの気持ち悪さにもう二度といすゞちゃんも、アイツの方を向く事はなくなるさ。フフフフ」
厭らしい笑い声を出しながら、浅井がそう言うと、メンバーもそれぞれ悠利の方を眺めて、ニヤニヤと笑い出した。
計画は確実に、動き出そうとしていた。
女子更衣室。
「フー」
着替えを終えた唯香は、小さな胸に片手を当てて、静かにゆっくりと息を吐いた。
それはまだ、結論が出せていなかったからだ。
結論が出ないまま、それでも委員長として、授業には行かなければと思っていた。
果たしてゆっくりと深呼吸をしたからとして、気持ちが落ち着いたかどうかは、唯香自身分からなかった。
ただ何処かで踏ん切りを付けて、行かなければと思っていた。
既に涙も乾いている。
「よし」
唯香は誰もいない所で、一人そう言うと、巻きタオルを手に取り、更衣室を出口へと向かって歩き出した。
いすゞの要求に心臓はドキドキしたまま。
そして水泳の授業が始まる。
つづく
読んで頂いて、有難うございます。
ブックマーク・評価・感想など頂けると励みになります