第5話 次はショーツを。
「フフフ、これでもう諦めたでしょ、橘さん。さっさと更衣室から出て行って、男子の海パンでも見て来なさいよ。ほら、あなたの所為で着替え終わってないの、もう私だけなんだからね」
唯香は周りを見回す素振りをしながらいすゞに言った。
「ぶー!」
しかしいすゞは、バスト85センチ、Cカップの胸を抱え込む様に腕組みしながら、相変わらず納得のいかない顔で唯香を睨んでいる。
「もう、しょうがないな~」
いすゞの威圧感に圧倒されて、唯香はそう言うと視線を外して下を向いて、モゾモゾと巻きタオルの中で白のショーツに手をかけた。
「勝手にしなさい。女の私なんか見てたってしょうがないと思うけどね~。橘さんは可愛い男子が好きなんでしょ」
言いながらショーツを下げる為に膝を少し曲げる。
その時だった。
「今ショーツを脱ごうとしてるわね!」
突然叫ぶいすゞ。
「へ!?」
思わず驚いて動きを止めると、いすゞの方を見る唯香。
「正面に黄色いリボンの付いたハイカットタイプの白のショーツ。ちゃんと憶えているわよ♪ 何処まで脱いだ? お尻を半分くらい出した所まで? それとも全部脱いじゃって、一番恥ずかしい所まで露にしちゃった?」
「ななな、なっ!」
唯香は思わず顔を真っ赤にして、驚きを隠し切れない様子で、いすゞの顔をハッキリと見ながら叫んだ。
「なんて厭らしい言い方をするのよ! この変態!」
「あらあら怒っちゃった♪」
「当たり前でしょ! これから水泳の時間で、私は水着に着替えるの! これは授業なの! なんでそれをそんな厭らしい表現で実況してるのよ! 橘さん、あなた本当に頭おかしいんじゃないの!」
顔を真っ赤にしたまま、怒りをいすゞにぶつけると、唯香はバスタオルの中で途中まで脱いでいたショーツをしっかり両手で持って、プイッと横を向いた。
その様子を微笑みながら見ているいすゞ。
「頭がおかしくて、変態ね。フフフ、まるで飼い犬に噛まれた様な気分だわ。まったく」
そう言うといすゞは、そっぽを向いている唯香の方へ、一歩近付いた。
「来ないで!」
気配に気付いた唯香が叫ぶ。
「近付いただけよ。何もしないわ。それよりも早く着替えないと、授業が始まっちゃうわよ。もう皆んな行ってしまったわ。残っているのは私達だけ。学級委員長が遅刻してもいいの?」
「でも、あなたが側にいたら着替えられない。信用出来ないから」
いすゞは唯香のその言葉にニヤリと笑った。
「約束するわ。ただ見ているだけ。もう決して着替えているのを実況したりしないし、間違っても貴女に触れる様な事はしないわ。これは最大の譲歩よ」
その言葉を聞き、しげしげといすゞの顔を見る唯香。
確かにこのままハブとマングースの睨みあいを続けていたのでは埒があかない事は、唯香も重々承知していた。
だから、「ホントに?」と、疑いながらも尋ねたのだった。
そしていすゞの答えも単純なものだった。
「約束するわ。私の貞操を賭けて」
「賭けなくていい~!」
そういう訳で、唯香は直ぐ側に立つ橘いすゞに見守られながら、着替えを再開する事にした。
半分の信用と、半分の諦めを、その小さな胸に仕舞い込んで。
途中まで脱ぎかけていたショーツを、片足を上げて片方脱ぐ。
それから今度は、もう片方の足を上げてショーツを脱ぐ。
こうすれば手からショーツを離す事はない。
万が一にもいすゞに脱ぎたてのショーツを盗まれる心配はないという訳だ。
巻きタオルの中でショーツを脱ぎ終え、スッポンポンの状態の唯香は、今度は急いでしゃがむと、サッとショーツを握り締めた手をバスタオルから出して、急いで水泳バッグに入れようとした。
カシャ カシャ カシャ
その時だった。
フラッシュの眩しい明かりと、シャッター音が二人だけの更衣室に響いた。
「なに?」
何事か分からず、唯香はまだ手にショーツを握ったまま、いすゞの方を振り返り、呟いた。
「貴女のおパンツを写真に撮らせて貰ったわ」
スマホを片手に持ちながら、いすゞは微笑んで言った。
「なにー!」
驚く唯香。
「実況もしていないし、貴女にも触れていない。それに撮ったと言っても手に握られたショーツのアップよ。誰のかまでは立証不可能でしょう。あ、でも黄色いリボンは写ってるわね♪」
スマホの画面に手をあて、ズームにして見ながら話すいすゞ。
「……」
何が目的か分からずただ不安だけが募る唯香。
「貴女のだと断定出来ないのだから、この写真をA4サイズくらいでプリントアウトして、教室の黒板に貼ってもいいわよね。きっと男子が股間を膨らませて喜ぶわ♪」
「だっ駄目! 絶対駄目~!」
しゃがんだまま唯香は、手に持ったショーツを一層強く握り締めながら叫んだ。
「ただ黒板に貼っておくだけで、貴女のだとは言わないのよ。何度も言うけど、この写真からでは誰のショーツかは特定出来ないし。それでも嫌なの?」
困った子ね、と言わんばかりに言ういすゞ。
「当たり前でしょ! それでも嫌に決まっているじゃない」
唯香はもう、半分泣きそうな声で叫んだ。
その答えに満足したのか、いすゞは満面の笑みで微笑む。
「そお。それじゃあこの写真を破棄する代わりに、貴女にも頭のおかしい変態になって貰おうかしらね♪」
「えっ?」
相変わらず嫌な予感しかしなくて唯香は聞き返す。
「この前の話覚えてる? 男子の前で水着をワザと食い込ませるの。きっと皆んな喜ぶわ~フフフ♪」
いすゞの話を聞きながら、唯香は気が遠くなりそうになりながらも、気絶しない自分を恨んだ。
つづく
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