第1話 口に出して言おう
何を勘違いしたのか、某ぐりんさんの言葉を信じて、変態?小説、不定期連載始めました。(笑)
「ちんこちんこちんこちんこ」
「はっ?」
昼休みの生徒会室。
誰もいない事を確認して、片倉唯香は橘いすゞを此処に連れ出した。
正面に黒板が備え付けられていて、それと垂直に並ぶ二列の良くある濃い木目調の折りたたみ式の会議テーブル。そしてそこに向かい合う様に座る二人。
「ちんこちんこちんこちんこ」
「だから何なのよ!]
思わず叫び声をあげながら唯香はテーブルに手を付き立ち上がった。
睫毛の長い、切れ長の二重の瞳でいすゞは、それを冷ややかに眺める。
「貴女も言いなさい。そうすれば気持ちも落ち着くから」
「は? あんた馬鹿! そんな下品な事言える訳ないでしょ! 大体なんで連れて来られたか分ってるの? 私は怒ってるんだけど!」
「大体は。貴女のスカートをめくったから」
憎しみを前面に押し出した様に叫ぶ唯香に対して、いすゞは理路整然と答えた。
「そ、そう」
想像していた答えとは違かったのか、少し動揺した様にそう言うと、唯香は腰を降ろし、椅子に座り直した。
「分っているなら。何であんな事するの。それもわざと男子に見せる様に。信じられない。もしあの二人が好きなんだったら、話しかければいいだけでしょ」
「私は干渉したいのではなくて、観察したいの。あの二人の天使が組んず解れつしている様を。それもなるべく布地は少なく。貴女のパンツはいい仕事をしたわ。二人の股間を大きく膨らませた。あんなあどけない顔をした小さな体で、あんなに大きくなるなんて。ああ、思い出しただけで堪らない」
そう言いながらいすゞの表情は恍惚の彼方へと変わって行った。
「変態! そんな事で喜んで、そんな事の為に私のスカートをめくって!」
いすゞの話の馬鹿らしさにまたも唯香は叫んだ。
「でも、貴女も見たんでしょ? 委員長。さっき教室で私が尋ねた時貴女言ったわよね。『私のパンツで大きくなった』って」
「そ! そんな風には言ってないし! 大体私があまりの出来事に茫然自失している所にいすゞさんが訊いたからつい答えちゃっただけで!」
「でも貴女は確かに言ったのよ」
唯香の言葉にいすゞはそう答えると、スカートのポケットからスマホを取り出して、唯香に見える様に少し掲げて持った。
「さっきの貴女の言葉。録音していたの。聞きたい?」
「なっ…」
その言葉に思わず唯香は言葉を失った。
「ちんこちんこちんこ。貴女も言いなさい」
いすゞは目を細め、微笑みながらそう言った。
「きょ、脅迫? 何でそんな厭らしい言葉を言わなければならないの? いすゞさん、あなた頭がおかしいよ」
「私は至って普通の中学生。ネットやツイッターとか見ないの? ツイッター上には中学生の呟く『ちんこ』が溢れているのよ。女子中学生の殆どはちんこちんこ言って笑っているのよ。貴女みたいに頭の中でちんこちんこ言っている方が不謹慎・不健康なのよ」
「言ってないし! 頭の中でも言ってないし! それにこの辺りではまだ中学生でケータイやスマホを持っている人は殆どいません! 学校にも持って来ちゃいけないんだから! それ、没収よ!」
「どうぞご自由に。貴女が厭らしい事を言っているボイスも、先生に聞かれちゃうわね。フフ」
「くっ…」
またも唯香は言葉を失った。
「貴女はなかなかいい体を持っている。見込みもあるわ。さっき教室でも言ったけど、私の友達、仲間としても合格よ。だからそんな貴女が、ストレスを溜めてイライラしているのは見ていて忍びないの。さあ、口に出して言ってみて、『ちんこ』と。きっと眉間の皺も消えて、すっきりした気分になるから」
そう言いながらいすゞは椅子から立ち上がり、両腕を横に広げ、全てを受け入れるかの様にして見せた。
「な、なんで私がそんな事を」
「躊躇わないで。此処には今私しかいない。貴女が何を言おうが、クラスの誰にも分らない。安心して声に出して。言えば必ず今まで感じた事のない開放感を得られる筈だから。大体、そんな言葉一つ口に出来ないなんて、貴女は相当屈折して来ているのよ。たかが言葉じゃない。さあ、言ってごらんなさい」
腕を広げ、そう語るいすゞの姿が、一瞬、ほんの一瞬だけだが、唯香には女神に見えた。
そして口が自然と開いた。
「ち…ち…んこ」
口からその言葉が出た瞬間、確かに唯香は開放感の様なものを感じた。
しかし、いすゞはそれでは納得していなかった。
「駄目! もっとハッキリと。続けて連呼して言って! まだ恥ずかしさが残ってる!」
いすゞの激しい言葉にまたも唯香は飲み込まれて茫然自失となっていた。流されていた。
「はい。ちんこ…ちんこ、ちんこ」
たどたどしく言う唯香の言葉が終ると同時に、いすゞはテーブルを迂回して両腕を広げたまま走り込んで来た。
次の瞬間、唯香は体を激しく締め付けられるのを感じた。
いすゞが両腕を唯香の腰に回し、激しく抱きしめていたのだ。
唯香の小さい胸は、いすゞのCカップ近くある胸に押し潰されていた。
「やれば出来るじゃない! 本当にもう、可愛い子!」
その言葉に呆然としながら唯香が見上げたいすゞの瞳からは、涙が溢れていた。
「何で…泣いているの?」
思わず唯香は尋ねた。
「嬉しいのよ。貴女が頑張って、ちんこって言った事が。嬉しいのよ」
「いすゞさん?」
唯香を抱きしめながら、肩に顔を付け、泣きながら喜んでくれているいすゞに、唯香は少しだけ温かいものを感じた。
つづく
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