第9話 何しに来たんだろう?
※注意 こちらの小説では何故かビジュアル面を考慮し、プールのシーンでの水泳キャップは使用していない設定になっています。但し、水泳キャップを被っている方がグッと来る! という方は、お好きなだけそう想像して読んで下さい。以上です。
いすゞがオペラグラスで探すと、プールの立ち上がり部分、端壁に腰を下して、唯香は足を水面に浸けていた。
その下には先程の木野すずめと、数人の女子が既にプールに入り、肩から上だけを出して唯香の方を向いている。
「アイツ、案外友達いるのね」
いすゞはちょっと詰まらなさそうな声で、そう独り言を言うと、オペラグラスを持った手を下に下げて、上を向き、青空を仰いだ。生ぬるい南風が僅かに吹いていた。
「なんかさー、あの転校生の所為じゃないの?」
「そうなの唯香?」
すずめから『今日の唯香は特に変だ』と聞いた仲の良い女子が、唯香の周りに集まり尋ねていた。
「そんな事ないよー」
下手な事を言えば、自分の事も言わなければならない様な状況になりそうなので、とりあえずはぐらかす。
「ホントに? じゃあ何で直ぐにプールに入らないの? 去年なんか一番乗りで入ったのに」
目を丸くして、無邪気に笑いながらすずめが尋ねる。
「えっ?」
それに対して唯香は、とてもプールで無邪気にはしゃげる状況ではないからだとは言えず、思わず言葉を失った。
あれからずっと唯香の頭の中は、食い込み水着と、撮られた脱ぎたてショーツの写真の事で一杯だった。
そしてそれは、万が一にもいすゞから指示が出て、水着を食い込ませなければいけない場面まで、唯香に想定させていた。
(体を濡らして、水着が肌にピッタリくっ付いている状態での食い込みよりは、なるべく乾いている方が、恥ずかしい場所の形もはっきり出ないかも知れない)
唯香はそう思って、プールに入るのを躊躇していたのだ。
「まー、プールは兎も角。マジであの転校生には関わらない方がいいと思うよ。唯香、この前話していたけどさ。正直女子は皆んな、彼女嫌いだからね。愛想悪いし、話しかけても無視するし。いっつも無表情で男子の方ばかり見てるでしょ」
「あ、この前なんかニヤニヤしてたよ。見ながら」
「気持ち悪~」
そんな風に皆んなが口々に言うのを聞き、すずめも笑いながら口を開いた。
「変な子だよね♪」
「変な子? すずめは嫌ったり怖がったりしないの? 変な子なの?」
その言い方がおかしくて思わず唯香は尋ねる。
「うん、唯香より変な子♪ だってあんなに美人なのに、わざわざ東京からこんな田舎に越して来たんだよ。しかも誰とも友達にならない。何しに来たんだろう?」
首を傾げながら言うすずめに、唯香は、自分を引き合いに出すな~! と内心ムッとしながらも、確かにその点は不思議だと少し話に納得した。
(ホントに、何しに来たんだろう?)
「委員長、意外とスタイルいいんだな」
「へ?」
プールサイドに並んで座り、女子のプールの見学をしていた悠利は、突然の静の言葉に思わず驚いた。
悠利からして見ると、スタイルといっても、ただバランスが取れている程度にしか見えなかったからだ。更に致命的に胸が薄い。正直クラスの他の女子と比べても、たいして変わらず、寧ろ胸が小さい分マイナスだった。
「そうか? この前間近でパンツを見て、急に意識する様になっただけじゃないのか? 止めとけ止めとけ。委員長は胸がないぞ。見ろよ橘さん♪」
そう言うと悠利は周りに気付かれない様に小さく指を差した。
静はその指の先に視線を延ばす。
「どうだよ、あの柔らかそうな胸♪ 『胸!』って感じだろ? あ~あの胸に顔を埋めてみたいよ~!」
悠利が指差した先の橘いすゞは、丁度手を両脇の地面につけて、膝を立てて座り、胸を前に出す様にして、空を仰ぎ見ていた。
「プールの水しぶきとか、橘さんとこまで飛ばないかな? そしたら白のスクールシャツが濡れて、透けて良く見えるんだけどな~♪」
ニヤニヤしながら続けて言う悠利の言葉に、静はあまり興味がなかった。
寧ろ静は、橘いすゞが見つめる先の、空の方に興味があった。
(なんだろう? 何か見えるのか? まさかUFO! UFOを見ている。それとも、呼んでいる?)
平泉静はまだ、橘いすゞが何か特別な任務を背負った謎の転校生だと、心の何処かで信じていたのだった。
つづく
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