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僕らの謎の転校生

ちょっと前に書いた短編の再録です。

 「アイツ、今日も見てるぞ」

 長谷川悠利が僕の机を挟んで反対側にしゃがみ込み、机に頬杖を付きながら、僕の顔を見上げる様にボソッと呟いた。


 アイツとは二週間程前に東京からこの地方の中学に転校して来た橘いすゞの事だ。黒髪の令嬢。顔も目鼻立ちもはっきりした、まるで人形の様な美人顔で、東京から来たとあってか、何処か都会的な雰囲気・気品がある女子だった。性格もどうやら見た目通りらしく、決して自分から話しかける訳ではなく、放っておくといつも自分の席に大人しく座っていた。本とかを読む訳でもなく、ただ前を向いて。

 そして同じ列である僕の席は、いつも橘いすゞの視線の先にあった。


 確かに先程から背中に視線の様なものは感じてはいるのだけれど、どうにも目が合うのが怖くて僕は振り返らないでいた。

 「またか…はーっ」

 僕は溜息を付きながら机に両肘を付き、机の上で組んだ腕の中に顔をうつ伏しながら、

 「気付かない振りをしよう。無視無視」

 と、僕の頭の直ぐ先にある頬杖を付いたユリに向かって言った。

 あ、ユリとは長谷川悠利はせがわゆうりのあだ名だ。本人は「百合じゃねえかっ!」て、怒って嫌がるけれど、面白いから僕はそう呼んでいる。

 「きゃはっ!くすぐったいよ~。しずちゃんの髪」

 ユリの変な声に僕は思わずうつ伏せていた顔を上げてユリの方を見る。

 ついでにしずちゃんとは僕、平泉静の事。クソ親父が何のファンか知らないが付けた、女の子の様な名前だ。この名前の所為で今までどれ程の苦労があったか…

 「ん?」

 「今、しずちゃんの髪が俺の睫毛や頬に一瞬掛かって、すげーくすぐったかった」

 中学二年の男子でありながら女の子みたいな顔をして、しかも変声期にもならない高い声で、ユリがコロコロ笑いながらそう言ったので、突如僕の中のふざけたい虫が騒ぎ出して、僕は椅子から立ち上がると、机に頬杖を付くユリのまるで男子とは思えない華奢で細い、白い両手首を激しく掴んだ。


 「良いではないか~! 良いではないか~! 近こうよれ!」

 お決まりのフレーズを言う。

 大名と町娘ごっこは僕ら二人の定番の遊びだ。

 どちらがどっちという役柄は決まっていないが、休み時間にどちらからともなく始まる遊びだ。僕ら中学生はちょっとエロイ要素が入ると、何でも楽しく感じてしまう年頃なのだ☆

 この遊びは町娘役を大名役が襲うのだが、当然町娘は抵抗するので、最終的にプロレス技の掛け合いへと発展して行き、体を動かした事によりストレスを発散する効果がある。僕ら中学生は普段ストレスも沢山抱えているのでこれはとても良い遊びだ。それから追記しておくと、これは二人の仲ではお決まりの遊びなので、決して喧嘩やいじめではない。

 「うわっ! ちょっとしずちゃん!」

 「しずちゃん言うな~!」

 しゃがんでいた格好から立ち上がり切れず、教室の床に尻餅を付いたユリの上に僕はそう言いながら覆い被さった。

 「へっへへへへ」

 完全に有利な態勢になった僕は、大袈裟に厭らしく笑い、

 「良いではないか~! 良いではないか~!」

 と、ユリの白いスクールシャツの両脇、胸部と擽った。

 「うわっ! やめ! やめろ! くすぐったい! いや!」

 悶絶するユリ。

 上に乗る僕を何とかしようと、バタバタと腕や足を動かして激しく抵抗するも、僕もそう簡単には落ちない。

 「良いではないか~!」

 ユリが僕の下でどれ程暴れようが、僕はもう面白さに興奮しちゃって、更に擽り続ける。

 「ヒー! マジやめて! 腹がよじれる! くすぐったい! いや! やめて! おねがい!」

 ユリはもう限界とばかりに叫び続ける。

 激しく暴れるユリと擽り続ける僕は徐々にお互い汗を掻いて来て、いつの間にかポタッポタッと僕の頬から落ちる幾つもの汗が下のユリの白いスクールシャツを濡らしては透かす。ユリ自身もシャツの襟まわりや脇の下辺りがびっしょりと汗で濡れて透け始めていた。

 僕らは普段中にTシャツとか着ているのだけれど、前の前の授業が体育で、やはり凄い汗を掻いたので、体育終了後脱いでしまっていた。なので、汗で透けたスクールシャツは肌に密着して、ユリのあまり健康的とは言えない、薄い肌色の肌を所々露にしていた。

 「ちょっとマジ、汗とか汚ね~!」

 僕の汗を嫌がり叫びながら暴れるユリは、偶然にもそこで体をくるっと回して、うつ伏せになる事が出来た。

 (汗のおかげか?)

 「あっ!」

 思わず僕が声を出した時にはもう遅くて、ユリはうつ伏せから床に手と膝を付き、四つん這いになると、上半身を力任せに起こし、馬乗りになっていた僕をふるい落とした。

 「へへ、今度は俺だ!」

 そう言うとユリは床に倒れた僕の右腕を掴み、腕を両足で挟む様にして、更に自分の手で僕の右腕を引き伸ばし始めた。所謂プロレス技。『腕ひしぎ十字固め』というやつだ。

 「あ~!」

 腕に激痛が走り、余りの痛みに僕は声を上げた。

 「どうだ? 降参か?」

 「チョーク!! チョーク!」

 形勢逆転に涼しげな声で言うユリに僕は反則だと叫ぶ。

 「いや、反則じゃないし。いつもやってんじゃん。しゃーねーなー」

 腕が引きちぎられそうな痛みの中、冷静なユリの声が届く頃、僕はユリが少し腕を引っ張る力を弱めたのを感じた。そして痛みに閉じていた目を開けると目の前にユリの顔があり、笑っていた。

 「しずちゃんどっちだと思う?」

 目が合った瞬間嬉しそうに小声でそう尋ねて来たユリに僕は何の事か分からなかった。

 「何が?」

 「橘さん。さっきからずっと俺達の事見てる。偶に一人で笑ったりして。見られている事に気付いてからもう四日目だけど、俺達二人でいる時は必ず見てる。なあ~、どっちを好きなんだと思う?」

 「はっ? 何お前、そんな事考えてたの」

 「だって橘さん超美人じゃん。モデルやってたとか噂あるし。雰囲気大人っぽいし。そんな子に毎日じっと見られてて、意識しない方がおかしいだろ?」

 「毎日見られてるっていうのは不思議だけど、それはないんじゃないかな」

 「何でだよ。しずちゃん」

 「だって彼女、俺たちより身長高いじゃん。160以上あるだろ」

 僕らはクラスでも1、2を争う身長の低さだった。お互いに154センチ台。

 そんな僕らを僕らより背の高い、謎の美少女転校生が好きになる訳がない。僕は当たり前の様にそう思っていたので、ユリがそんな事を考えていたのは予想外だった。

 「かー!身長の事は言うな~!」

 僕の発言にユリが突然また腕を締め上げる。

 「ぎゃー! チョーク! チョーク!」

 僕はお決まりの台詞を吐いた。




 橘いすゞは自分の席に座ったまま、四つ程先の平泉静の席の側で、床に倒れ込みふざけている静と悠利を眺めていた。無言で、時には目を大きくして、時にはほくそ笑んで。


 「橘さん。さっきからずっと見ていないで、止めなきゃ駄目じゃない」

 突然脇に立ち、声を掛けて来たのがクラスの学級委員長・片倉唯香だと、いすゞは直ぐに気付いていたのだが、そちらを向く為に目線を前から逸らすという事は、一瞬たりともしなかった。

 「なんで? 勿体無い」

 静かに小さな声で、唯香にだけ聞こえるかの様にいすゞは言った。

 「何でって。駄目じゃない教室でプロレスごっことか、暴れたりしたら」

 「キラキラと光る雫が、ポタポタと白いシャツに滴るの。見ていて綺麗」

 「はっ?」

 意味不明な言葉を呟くいすゞに、それまで二人のプロレスごっこの方に目を向けていた唯香は、思わす声を出していすゞの方を凝視した。

 「貴女達には物の価値が分らないのね。東京でもこれ程のカップリングは先ず見ない。二人ともちっちゃくてとても可愛い。まるで小動物が戯れているみたい」

 「何の話?」

 怪訝そうな顔で唯香が尋ねると、今度はいすゞはちゃんと顔を唯香の方に向け、上を向いてしっかりと唯香の目を覗き込んだ。

 「真面目な人も好き。唯香さんとは友達になれるかもね。それであの二人をどうするの?」

 いすゞの言葉は、仰ぎ見て話している筈なのに、立って下を向いて聞いていた筈の唯香には、寧ろ逆に上から聞こえて来た言葉の様な錯覚を感じさせる所があった。

 「どうしたの?」

 一瞬ボーッとしてしまった唯香はその言葉で我に返る。

 「えっ? ああ、勿論止めに行くよ」

 唯香はそう言うと、いすゞの側を離れ、静と悠利の方へと歩き出した。

     カタッ

 それを見ていすゞも座っていた椅子を後ろに押すと、立ち上がり、直ぐに唯香の後ろを付いて歩き出した。


 「あなたたち!」

 床に寝転がりプロレスごっこを続ける二人の前に着いて、唯香は厳しい声で二人に向かって言った。

 二人は動きを止めて、目の前で仁王立ちしている唯香の顔を見上げた。隣には並ぶ様にいすゞの顔も見える。

 「なに?」

 大体の察しはついていながらも、悠利が声を出した。

 「教室でプロレスごっことかは禁止になっているでしょ。ほら、周りの机とかも、えっ!」

 その時、唯香の話を遮るように、隣に立ついすゞが唯香の耳元で、彼女にしか聞こえない様に何かを囁いた。

 思わず声を出す唯香。

 そして次の瞬間、いすゞは有ろう事か唯香の紺色の制服のスカートを鷲掴みにし、持ち上げた。

 純白の唯香のパンツが露になる。

 床に寝転がっていた二人にとってそれは、足の根元から仰ぎ見る形となり、間近で見るパンツの肌へのフィット感は、薄っすらと大事な所の形すらも伝わる程の艶かしさであり、角度であった。

 目を見開いて黙ったまま凝視する二人。ただひたすら全ての映像を頭に記憶するかの如く。

 その後自分達の下半身の変化に気付き、慌てて手で隠そうとするのは、三秒後のいすゞが唯香のスカートから手を離してからの事だった。

 その間唯香はただ「なっ…な……」と、しか声を出せず。ほぼ放心状態で固まっていた。

 それはいすゞがスカートから手を離して、元に戻ってからでも同じだった。

 あまりの出来事に放心状態のまま、何も言わず反転して肩の力を落として戻って行く唯香。

 いすゞはこれもまた呆然としている二人を、黙々と鋭い目で全身凝視してから、唯香と並ぶ様に追いかけて行った。

 「素晴らしい。あの二人の目を大きくして驚いた時の顔。素敵だった。滅多に見られない奇跡の表情よ」

 「なっ、なんで、あんな事を…」

 横に並び興奮冷めやらぬ声で、しかし周りには聞こえない様な小さな声で唯香に話しかけるいすゞに、唯香はまだ気が動転した状態だったので、定まらない言葉でそう言うのが精一杯だった。

 「何を言ってるの? あれくらいの事であの二人の珍しい表情や仕草が見れたのよ。騒ぐ事じゃないでしょう。それに、ちゃんと貴女にも教えてあげたじゃない。見たんでしょ?」

 「えっ?」

 唯香は突然の言葉に驚き、思わず声をあげた。

 先程いすゞがスカートめくりをする直前に耳元で囁いて来た言葉の事だ。

 唯香は思い出すと、自分でも少し頬が赤く染まっていくのが分った。

 「ふん。見たのね。見たんでしょ?」

 その表情に確信を掴んだいすゞは、唯香の手を取り、自分の席を通り過ぎ、教室の奥の外窓の方の隅へと歩いて、更に唯香に問いただした。

 「ここなら周りに人はいない。見たものをちゃんと言って」

 それは力のある声だった。

 だから唯香は恥ずかしそうに小さな声で、いすゞの顔は見ず、下を向いたまま小さく頷いて話した。

 「二人のアソコが、大きくなるのを見た」

 「そう」

 唯香の言葉にいすゞは満足そうにそう答えると、更に尋ねた。

 「なんで、二人は大きくなったの?」

 「へ? それは…」

 「言いなさい。何で大きくなったの?」

 今にも恥ずかしさに消え入りそうな唯香に、いすゞは容赦なく問いかけ続けた。

 「たぶん…私のパンツを見たから…」

 その言葉に途端にいすゞの顔が綻ぶ。

 「合格よ。貴女は私の友達になれる。貴女の体は利用価値がある。この世でもっとも崇高で美しいものを見続けるために。私達は今日から友達になるのよ」

 「え?」

 何の事か良く分らないまま、唯香は次の瞬間いすゞに抱きしめられた。

 そしてそれは、当然クラス中の人達が見ていた。

 全てはいすゞの計画通りに動き始めていた。




 暫くして僕らは下半身が大きくなっている事に気付いて、慌てて手で隠し、小さくなるのを待った。

 とにかくこういう時は、ひたすら真面目な事を考えていれば良い。

 しかし実際には先程見た片倉唯香のパンツが頭から離れずに、それどころかドンドン頭の中の比率は大きくなって来ていた。

 「ちょっと、食い込んでなかった?」

 「馬鹿ユリ! そんな事言ったら余計おさまらない」

 「ああ、そうか」

 僕らは『腕ひしぎ十字固め』の崩れた格好のまま、結局次の授業開始寸前までその場で、下半身の治まりを待っていた。

 それはやっと治まったかと思っても、一瞬のHな想像で元に戻る苦難の道だった。中学二年の一番Hな事に関心の高い時期に、クラスでも可愛い方の女子の生パンツを至近距離から見たのだ。雑誌のグラビアの比ではない。それはまるで体温すら感じるのではないかと言う、あっ、そんな事を考えていたらまた立って来た。僕も馬鹿だ~。

 「ところでさー、橘いすゞ。何を考えていたんだと思う? 俺たちの前で、片倉さんのスカートめくって」

 突然のユリの真面目な話。確かにそうだ。

 「謎の転校生だからな。本当に謎だらけだ。ユリ、お前好きならいっそ気になる事全部訊いて来いよ」

 「えーっ、橘さんって、ちょっと話しかけ辛いじゃん。何か住む世界が違うって言うか」

 「ははは、それじゃ本当に謎の転校生だ」

 ユリの言っている事には一理ある。僕も橘いすゞにはそんな印象を抱いていた。

 だからスカートめくりにも只の悪戯とかではない、きっと深い意味があったのかも知れない。

 例えば彼女は未来から現代の何かの危機を救いに来たとか?

 例えば宇宙から何らかの危機にある地球を救いに来たとか?

 きっと本当に謎の転校生なんだ。

 そしてそんな彼女と僕らの活躍の話も、きっといつか出来る日も来るに違いない。


 今は下半身の治まりに苦心しているけど。





                おわり


読んで頂いて、有難うございます。

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