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ルポライター
「君は何故、薬を使ったりするのかな?」
「愚問だ。人は、現実逃避の為に酒を飲む。それと同じだ。」
「でも、それは法律では禁じられているわ。やってはいけないと言う認識があるの?」
「世間一般ではね。しかし、その社会の制約の中では救われない者も居るのさ」
「だからといって・・」
ここで美登の質問は遮られた。横に立っていたもう一人の工員風の男が言った。
「か、神田さんはね、と、東大出の、え、エリートだったんだ。お、大蔵省のお役人、さ、様よ。だがね、そ、その階級社会故に挫折した。い、いや、挫折させられたんだ。俺には判るさ。ど、どもりだから誰も自分を正当に、ひ、評価しない。そんな社会から、ほんの一時、ここで全てを、わ、忘れたいのさ」




