新章 西条との再会から・・
島の顔が硬直した。恐らく島の著書、論文には色んな媒体からのコピーが自分の言葉のように記載されているのだろう。しかし、内容が全く同じと言うのは即ち盗用にあたる。三木未優は、そう言う矛盾をつくのが天才的なのである。美登は舞台袖で聞いていて、唸った。凄い・・と。島の化けの皮が剥がれて行くように思えた。どんな人間にも応用や記述はある。当然だ。それで教育も行われ、その教科書・資料に沿って知識を得るのだ。だが、永井のように、例えば、また沢木 純氏の話になるが、鉱物組成、植物組成、昆虫、粘菌に至る鉱物・動植物世界は、全て分析によって成り立つと言う事だ。そこに虚飾等は無い。経済論とは、いかに個人感によって違うものであるかを教科書にしてはならないと言う考えだ。その資料は必要で、経済の成り立ちや学問は必要だが・・
島はそう言うしか無かった。後は、殆ど三木未優は自説と断りながらも、現在の日本の立ち位置とは、人を養成する、呼び込む、売り込む事よりも経済侵略・・つまり、その国に指導的役割を担う良い意味での人材育成が必要では無いかと述べたのだ。日本で出来ない事を海外でやる。しかし、中国のような労働人材を自国から送り出す事では無い。その国の者を養成するのだと。そこには、当然の利益がその国にもたらすようにする事。それまでの施策とは、自分の国に利益を誘導する事にあった。その結果として利益を求める企業は海外に出て行った。安い労働賃金、豊富な労働人員確保で、自分達の製品コストを下げる為にである。それでは、どんどんとその国は確かに安定した賃金を得られ、労働人口が確保出来たにせよ、自国の産業等育たないし、次にはもっと安く賃金で働ける国に企業が移ってしまうのだと。そこで唱えたのが、SKA方式の人材養成事業なのだと述べたのだった。所詮今行われた経済論等は目先の事に過ぎず、それを論じ合った所で、近未来における人口減では、何も未来方向の話にならないのでは?と切って捨てたのであった。これが三木経済論とも言われ、今注目されているものであった。美登は総身が痺れたのである。
しかし、自分のプライドがある島は、こう反論した。
「確かに三木未優さんの新経済論は、後進国等の経済環境にとって有効な部分もあると思います。私も著書を読ませて頂きました。その上で敢えて申し上げたい事は、侵略戦争が起きている今高騰化する石油等の資源に対し、その資源的環境の無い我が国では円安により、現在の状況ではそこまで見る事は、理想論に近いと思われませんか?」
恐らく精いっぱいの反論だったのだろうか、美登すらも、今更そんな底の浅い反論は、自分の底すら披露しているようなものだと呆れたのだった。しかし、三木未優は全国放送のされているこの場を壊す事はしなかった。あっさり、
「まあ、ここは討論の場、そう言うご意見も十分承知いたしますわ。しかし、円安が害悪と言う概念と、むしろ円安によってドルの保有額が数兆円の含み益を得ている事もあります、むしろ、確かに物価高騰の中で給料も上がらず、生活に直結する物価高は容認出来ません。ですが、その中で代替えエネルギー分野は急速に進み、産油国は危機感から将来の産業基盤を他分野に向けつつあります。当然今の石油依存の傾向は続くでしょう。ただ、それが切り替えられない訳では無い。コストも抑えられる資源が実は日本にある。ご存じでしょうか?」