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出会い
由利子の質問も、初対面の相手に対して少し愚問気味で馴れ馴れしかったかも知れないが、加藤の人を少し突き放した様な、無粋な言葉に再び不機嫌になった。しかし、由利子のそんな心情に気づかぬ風に彼は言葉を続ける。
「ジャズは、俺にとっての青春であって、すなわちソウルなんです」
少々不機嫌気味の由利子は、皮肉っぽく言った。
「あら・・本来のジャズって、元々黒人達の奴隷時代の貧困に対する辛さ、苦しみ、悲しみ、そう言う心・・つまりソウルじゃなかったかしら?ビリー・ホリデイの奇妙な果実なんて、木にぶら下がった奇妙な果実・・それは奴隷の事だと言う身震いするような詩、いいえ、それこそ心臓にピストルを撃ち込まれるような衝撃。でも、どこか力強い生命力も感じる・・それこそジャズのソウルじゃないかしら。ビル・エヴァンスのような、都会的な洗練されたジャズも勿論いいわ。貴方は当然その対象も含めてジャズ=ソウルと言っているのでしょうね?」