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プロローグ 姉ちゃん誕生の日
大嵐が過ぎ去った夜明けの頃。
朝烏の鳴き始める少し前。
ある一家のとと様が慌ただしく騒ぎ、集落中のばあさまを集め終わった時には。
そのとと様に、新しい家族が増えていたそうな。
ヘソが結ばれたばかりのの娘は、目を大きく開いて、かか様をにらみ、抱き上げるとと様をにらみ、首をぐるうりとまわして、天を睨んだ。
娘は、産声もあげず心配しているとと様たちを、もいちど睨み付けると、大きく息を吸い込み、そして初めて、赤ん坊らしく鳴き声を上げたそうな。
鳴き声は集落に響き渡り、川を超え、谷をまたぎ、森を吹き抜けた。
大嵐を名残惜しみ、ため息をはいていた風神さまも。
大嵐であばれまわり、お月様を隠していた雷神様も。
みーんな、その娘の鳴き声にびっくりして、逃げ隠れてしまったそうな。
朝烏が、くあぁ、といななき、雲の切れ目から朝陽がさしこみ、緩やかで暖かい風が、ふたつばかり吹き抜けて。
集落には、春が来たのだそうだ。