兎
私はいつの間にか兎になっていた、ある朝目が覚めると巨大な虫になっていたグレーゴル=ザムザの様に。
彼の罪がなんであったのか、私の罪がなんであったのか。彼は責任を背負う事のない日常を望んだ。平穏で、患わされる事の無い日々を。そして私は孤独を望んだ。彼と同じく、平穏で、誰にも患わされる事のない日々を。
そうして今、私は死ぬだろう。そうだったのだ、兎は一匹では寂しくて死んでしまうという話は真実であったのだ。此まで、他者と交わる機会は何度と無くあった筈だ。けれど私は願ったのだ、一匹の孤独なウサギであることに。だが、それは本当に望んだ事だったのだろうか。
胴体にリンゴが食い込み、幾本もある足はやがて萎え歩くのも窮屈になり、やがてザムザは死んだ。触れがたきモノとして扱われ、疎んじられ、孤独に死んだザムザ。彼の罪は?そして私の罪は?この感情は、この寒々しい感情はなんというのであろうか。しかし、それでももうどうする事も出来ないのだ。そうだ、そうな
※読み切り新聞、10月11日夕刊一部抜粋。
都内M市でアパートに暮らしていた一人暮らしの男性(69)が死亡していた事が10日、分かった。警視庁によると、死後数ヶ月が経過しており、一部白骨化していた。なお死因は病死とみられる。
M市によると、近くの住人から「部屋から音楽がなりっぱなしになっている、最近姿を見ていない」と連絡があり、8日朝、市職員らが部屋へ入った所、男性が亡くなっていたのを見つけたという。男性には友人や家族はおらず、さらに近隣の住人との接触を避けていた為に、発見が遅れたという。