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12/24

魔法の練習

日刊ランキングに入りました! びっくりです。

これも、ブクマ、評価、を下さった皆様のおかげです。

ありがとうございます!

PVも大分増えまして、読んで頂けるだけでも大分嬉しいです。

この先、ご期待に添える話を書けるかどうかかなり怪しいですけれども、気が向いたら読んでやって下さいますと嬉しいです。

改めて、閲覧、ブクマ、評価、誠にありがとうございました!

そして、残酷描写タグつけました。途中での変更、申し訳ございません。

 あたしが魔法でできる事というのを、あたしはずっと模索していた。

 大気、水、火、土の元素(エレメント)による魔法はあたしにはできないから、あたしの魔法でそれを再現するにはどうすればいいかを考えなければならない。

 例えば風を起こす場合、ローアであれば、「こんな風」とイメージして魔法を使えば作れるらしい。ローアのイメージを受け取った風の元素(エレメント)がそれを具現化するのだとか。

 なんて都合のいい。羨ましい。

 あたしが魔法でそれをやろうと考えると、やっぱり「空気を動かす」という事になる。

 魔法で、物を動かす事ならできる。けれども、それは超能力者の念動力のように、自由に動かせるのでは無い。いや、沢山魔力を遣えばできなくもないけれど、凄く疲れる。

 多分、魔法は「どういう理屈で」「何が起こるか」を明確にイメージできればできるほど、スムーズに動くのだ。それが明確でない事もできなくはないけれど、その分大きな魔力を使う。

 念動力のように物を動かそうとした場合、「何が起こるか」はイメージできても、「どういう理屈で」が曖昧になってしまう。あたしの頭が堅い所為かもしれない。無理矢理やろうとすると非常に魔力を使うのだ。

 それと比べて、物を引き寄せることは簡単にできる。物と物との間に働く引力を想像すればいい。高校で習った万有引力を特定の物体の間に対してだけ強めると思えばいいのだ。自分と他の物体、というのが一番楽だけれど、自分以外の物と物でもできる。

 そんなあたしが風を起こすにはどうすればいいか。

 最初はボールのような空気をイメージしてそれを投げようとしていた。物凄く疲れるけれどできなくもない。けれども労力を使うのに「あ、今そよっとした?」程度の風にしかならない。団扇にも劣る。

 けれども引力と考えれば簡単に物を動かせる事に気が付いてから、やり方を変える事にした。

 集める。そして解放する。そうするしかない。

 その方向性でこっそりと練習して、ある程度の風を起こせるようになった。漠然と集めて漠然と解放するだけだと、風は起こるけれどそれだけだ。せめて吹く向きだけでもコントロールできるようになれないかと考えて、ある一方方向に向かって吹く風も作れるようになった。

 まず、自分の目の前に箱をイメージする。ボールでもいいんだけど、試行錯誤の結果あたしには箱の方がイメージしやすい事が分かった。その箱を魔力で満たして、その中の空気の引力を強める。空気に対してだけ作用する特別な引力だ。ボックスの外側には更に魔力の膜を張って、集まった空気が外に出ないようにする。この膜には結構魔力を使う。

 そうして風を向けたい方向にだけ出口を作ると、その方向に風が吹く。やっぱり微妙な具合になるけれど。

 本当は、魔力の箱で空気砲みたいな事をやりたかった。けれど、側面を叩く……つまり衝撃を与える、というのが上手くイメージできなかったのだ。自分のイメージ力の貧弱さに泣きたい。

 微妙だけれど風は風だ! と割り切って、風の魔法が使えるようになったとお父さんとローアに見せた。

 およそ一年前のことである。




 あたしが作った風を感じて、二人はいっそ戸惑っているようだった。

「これだけの為になんでそんなに魔力使うの?」

「サラ、難しく考え過ぎてないか?」

 そんな二人に、分かっていたとはいえ悲しくなる。

「でもほら、あたしも魔法使えたよ?」

 笑って誤魔化しつつそう言えば、それもそうか、と二人とも「おめでとう」と言ってくれた。

 お父さんに、

「これであたしも魔法学園入れるかな?」

 と聞いてみたら、お父さんは苦笑した。

「サラも学園に入りたいのか……どうだろうなあ、貴族の生徒の中にはサラくらいの事しかできない子も居たが……」

「魔法、向いてないのは分かってるんだけど……」

「サラも魔力は多いからな……。入る事はできるだろう。だが、入ったら苦労する事を覚悟した方がいい」

「落ちこぼれるだろうな、とは、まあ、覚悟してる……」

 火の魔法は、可燃物質(燃える物)があればそれに火をつける事はできる。けれど、ローアがやるみたいに空中に火の玉を浮かせたりはできない。

 土はさっぱりだ。物を動かすのにも苦労するあたしが土の魔法を使える筈がない。ローアみたいに土の壁を作ったりなんてまず無理だ。

 水の魔法は多分それっぽい事が少しはできる。空気中の水分集めたりとか。けれど、風を作るのと似たり寄ったりの微妙な物になるだろう。

「それでも行きたいのか?」

「魔法、好きなんだ。勉強したい」

 それは嘘じゃない。けれども一番の理由はリィリヤの死亡フラグをできるだけ折っておきたいからだ。

 お父さんがくしゃくしゃとあたしの髪をかき回した。

「稀に簡単な事ができないのに難しい事ができるという子は居るからな。サラも学園で広く学べば得意な魔法が見つかるかもしれん。魔力はあるしそれを扱う事もできているんだから、少しのきっかけで簡単にできるようになると思うんだがな……学園で学ぶ事がそのきっかけになるかもしれない。まあ、そんな悲観することも無いさ」

「そうだといいんだけどな」

 お父さんににっこりと笑いかける。それでも内心では、無理だろうな、と思っていた。あたしの魔法はそもそもこの国の魔法じゃない。この国の魔法を学んだって、上手くなる事はきっと無いだろう。

 あたしが、魔法を将来の仕事にするのは無理だ。

「魔法が得意じゃなくても、研究者として魔法に関わる人もいる。行きたいのなら試しに行ってみてごらん。魔法以外の事も色々な事が学べる場所だし、無駄にはならんだろう。それに、駄目だと思ったら途中で辞めたっていいんだ。

 精一杯頑張って、精一杯挫折するのもいい経験だよ」

 失敗してもいいからやりたいようにやってみればいいと、無駄にならないと、そう言って貰えて、少し楽になった気がした。

 魔法を将来の仕事にはできないであろうあたしが、十二歳から十八歳の六年間を魔法の勉強に費やしていいんだろうかと、不安だったから。

 ゲームの時系列が終わった後にだって、あたしにはあたしの人生がある。リィリヤの状況は既にゲームとは違ってきているし、あたしはどの道ゲームの時系列の頃には学園に居ない。それなのに、こんな選択をする事は間違ってるんじゃないかって、思ってしまうのだ。この国の魔法が使えないあたしが学園で上手くやっていけるかも分からない。

 それでも大丈夫だと、誰かに言ってほしかったのだと、言われて初めて気が付いた。

「ありがとう、お父さん。ローアとの魔法の練習、たまにあたしも参加していい? ローアと同じ事はできないと思うけど」

 お父さんに教わる事は、多分あたしにとって無駄だろう。それでもそんな事を言ったのは、少し甘えたい気分だったのかもしれない。

「勿論。好きにおいで」

 顔全体をくしゃっとする子供みたいな笑い方で、お父さんが笑う。ホントにこの人元貴族なんだろうかと思うような、真っ直ぐな笑顔だ。成人男性だと言うのに、可愛いとか思ってしまう。もしかしてかの公爵様(ブラコン)はこの笑顔にやられてしまったんだろうか。

 なにはともあれ、あたしはこうして、時々ローアとお父さんの魔法の訓練に参加するようになった。




 参加、と言っても、勿論ローアと同じ事ができるわけじゃない。どちらかと言うと見学だ。

 最初は家の中でやっていた魔法の練習も、練習する魔法の規模が大きくなるに従って家の中ではできなくなり、今ではちょっとした遠出をすることになる。王都の北の方に大きな公園があって、そこまで行って練習するのだ。

 お母さんが作って入れたお弁当を手に、城門近くから出る乗合馬車に三人で乗り込んで公園まで。ちょっとしたピクニック気分である。お母さんも一緒だったらいいのだけれど、お店があるからそう滅多に全員では行けない。偶に、お母さんとローアとあたしの三人で行くこともある。

 北の公園は、公園と言うよりはむしろ森だ。一応散策できるような小道があるけれど、それほど広くない土の道で、凹凸も多い。貴族の貴婦人の裾の広がったドレスや細いヒールの靴で歩きやすいような道じゃない。だからここに来るのは平民ばかりだ。

 リィリヤに聞くところによると、貴族は専ら他の貴族の庭園に集まるらしい。

「王都の中にはそこまで大きな庭園は有りませんが、王都から馬車で一時間から三時間くらいのところにいくつか、大きな庭園がある貴族の別邸があります。そのうちのいくつかは公開されておりまして、決められた場所まででしたら、主人の許可を得なくても入る事ができるのです」

 あたしからすれば、リィリヤの家の庭も十分広いんだけど。何ともスケールが違う話だ。

 それはさておき。

 北の公園は入ってしばらくした所が広場めいた空間になっている。人が集まるのは主にそこだ。けれどもその奥にも幾つか獣道めいた小道が続いていて、その内の一つをしばらく行った所に小さな泉がある。泉と言ってもそこまで景観がいいわけでもないので、滅多に人が来ることは無い。

 そこがローアの魔法の練習場所だ。

 今、あたしがぼーっと見ている泉の上には、氷の板が浮いている。ローアでは無く、お父さんが出したものだ。ローアはと言えば、それに両手を向けて、集中した顔をしている。ローアの魔力が活性化して、両手の先からにじみ出るのを感じる。それからその魔力がグン、と氷の板にぶつかり、板が砕けた。

「よし! 硬化はもう大丈夫だな。けれども、発動に時間が掛かり過ぎる。これからはもっと短時間で発動できるように練習していこう」

 お父さんが手を叩いてそう言った。ローアがふう、と息を吐き、こくりと頷く。

 今、お父さんがローアに教えているのは風の魔法だ。単に風を起こすだけじゃなくて、大気の元素(エレメント)に「硬い」という性質を持たせるらしい。単なる風で氷の板は砕けない。

 あたしには絶対に無理な魔法だ。空気が硬いってどういうこと? 硬くなったらその時点で空気(気体)じゃなくない? 固体だよね? とか思っちゃう時点で救いようがない。物語(ファンタジー)の中だったら全然そんな事考えないのに。いざ実際に見たりやろうとしたりするとどうしても考えてしまう。悲しい事に、あたしには致命的に魔法の才能が無い。

 それはさておき、大気の元素(エレメント)の性質を変化させるこの魔法は、単純に元素(エレメント)にイメージを流して動かすだけの基礎魔法と比べて、数段難しい魔法であるらしい。ここまでできるようになるのにだって、ローアは随分苦労していた。

 お父さんがこれをローアに教えた事に、違和感を感じる。

 これまでずっと基礎の練習しかしてこなかったのだ。大事なのは自分の魔力の働きを感じて、それをコントロールできるようになることだと言って、ひたすら基礎をやらせていた。それにローアが密かに不満を感じていたことも知っている。

 なのに、いきなりこれを教え始めた。しかも、早く発動できるように? もう一つ、今ローアが練習しているのは土の壁を作る魔法で、それにも「より硬く」という性質付加と発動の速さを追及している。

 これまでやってきた基礎トレーニングと比べて、妙に実践的じゃないだろうか。

 今ローアがやっている風の魔法は、人にぶつければ充分危ない、攻撃的な物だ。あたしもローアも、普通の家の子供たちより大分自由にさせて貰っている。多分信頼してくれているんだろう。それでも、七歳児に敢えて人を害することができるような手段を与えたりするだろうか。

 お父さんは何の理由も無くそんな事をする人じゃない。

 他にもまだ、気になる事がある。

 あたしは先日、ジーハス先生に言われたのだ。「もう一人でここには来ない様に」と。できればしばらく来ないで欲しいとでも言うような口ぶりだった。

 その他にも、これまで一人で行っていた様なお使いに、ローアを一緒に連れて行くように言われたり。

 お母さんに、日が暮れ始めてから出かける事を禁止されたり。

 そんな「これまでと違う」事を積み上げていけば、たどり着く結論は一つしかない。

 どうも公爵家関連の事情でか、あたしたちを取り巻く状況に不穏な兆しがあるようだ。


 ジーハス先生、カルアさん、ローア、あたし、と揃っていた時に、それについて聞いてみた。

 ジーハス先生が軽くため息を吐く。

「お気付きになりましたか」

「やっぱりそうなんですか? 何があったんですか? あたしたちには言えない事ですか?」

「いいえ。ただ、サラ様とローア様に言うべきことでも無いと旦那様(公爵)は判断なされたのでしょう。アーク様(サラとローアの父親)には事情を話しております」

 そう前置いて、ジーハス先生が教えてくれた。

 公爵様がとある貴族の不正を暴いた事。それによって王宮での役職が変わった事。それが実質出世である事。反対に、不正を暴かれた二人の貴族は、王宮での役職を追われ、貴族社会での地位も失墜した事。

「領地から収入を得るにしても、他の貴族や商人との取引は必要な物です。信頼を失う事は致命的です。両家とも、王城で問題を起こした人間を庇う訳にもいかなかったのでしょう。お二人とも弟君やご子息に爵位をお譲りになられたそうです。二度と元の地位に戻る事は叶わないでしょうね。

 それでどうやら、旦那様(公爵)は恨みを買ったようですね」

 カルアさんが苦笑する。

「王城からお戻りになる、リィリヤ様とエリック様が乗った馬車が襲撃されたりですとか、今回は少し深刻なのですよね」

 カルアさん、軽い口調だけど、今聞き捨てならない事を言わなかった!?

「襲撃!? リィリヤが!?」

 ぎょっとして問い返すのと同時に腕に痛みが走って、思わず横を見れば、ローアが真っ青な顔をしてた。あたしの腕を、拳が白くなるくらいに掴んでいる。

「リィリヤ様にもエリック様にもお怪我はございません。念の為にと護衛も付けておりましたし。襲撃者も町で雇われたごろつき風情。そんなものに後れを取るような公爵家ではありませんから」

 カルアさんの宥めるような言葉で、ローアの手から力が抜けた。あたしもほっとする。

「でもそれ、俺たちに関係あるの?」

 ローアが言ったことは、あたしも少し思う。あたしたちは確かにリィリヤの友達で従姉弟だけれど、公爵様への恨みで狙われる程近い間柄かというと、そうでもない。あたしたちが親しいのはリィリヤであって公爵様ではないのだ。

 ジーハス先生が首を振る。

「旦那様が心から慕っているアーク様()のお子と言うだけでも、狙われる可能性はございます」

 そう言われれば、そういうものか、と頷くしかない。

「何より、こちらが既に警戒している状態で、公爵家の人間に危害を加えるのは難しい事です。それは既に向こうも悟っているでしょう。

 それに比べて、あなた方(サラとローア)は無防備です。重々にお気を付け下さい」

 あたし達はパン屋の子で平民で、公爵様が護衛を付けられるような人間じゃない。そんな事をされても正直困る。パン屋にそんな護衛なんて物がつけられたら、商売に影響がでそうだし、何よりご近所に変に思われる。

 何度か公爵家の馬車が家に来た時だって、近所でしばらく何事かと噂されたし、詮索された。お父さんは自分が元貴族だと、頑として言わかなかったけれど。

 自衛の手段として、お父さんとお母さんには魔法がある。そして、それをローアにも与えようとしている。

 けれどもあたしにはそれが望めない。だからあたしが一人になる事に一際神経質だったのか。

 お父さんとお母さんに、ローアがあたしを守る要員にされていたらしきことを考えると、ちょっと複雑だ。七歳の弟に守られる九歳の姉ってどうなんだろう。体はあたしの方がでかいんだけどな。力も強いし。

 それでも、物理的な力よりも魔法は遥かに強力なのだ。少なくとも魔法が有ればローアがあたしより強い事は認めざるを得ない。風の魔法は実戦にはちょっと遅いけど、火の魔法だったら充分に使えるだろう。寧ろ火の魔法こそ人を殺しかねないからこそ、お父さんはローアに風の魔法を覚えて欲しいのかもしれない。

 まあ、つまり、家族の誰かと一緒に居れば安全だと思っていていいだろう。

 ……ちょっと窮屈だけど。

 そう思っていたあたしだけれど、それからしばらく後、その認識は甘かったと、思い知ることになる。



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