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初めての友達

 私の従姉弟たち…サラ・テシオドールとローア・テシオドールと初めて会った時の事は死んでも忘れられそうにない。私が四歳、サラが七歳、ローアが五歳の時の事だった。


 本来ならそこまで劇的であるはずの無い状況だった。私のお父様とサラのお父様、つまり私の伯父様との確執だったり和解だったり、私たちが初めて顔を合わせるに至るまでの経緯はそれなりに波乱に満ち溢れて居たらしいけれど、まだ幼い子供にそんな事が知らされていたわけでもなく、私たちはただ単純に従妹として紹介されただけだったのだ。

 あの日、私は伯父一家がやって来るのを待っていた。屋敷にはどことなく緊張感が漂っていて、掃除に晩餐の支度にと忙しい使用人たちも、いつもより少しピリピリしている。それでもそれは決して悪い印象を与えるものではなくて、充実した緊張感とでもいうべきか、どこかそう、屋敷全体で浮き足立っているような感覚すらあった。そしてきっと、あの時誰よりもわくわくしていたのはお父様だったろう。

 私はと言えば、当時から、それにつられて一緒にわくわくするような可愛げのある人間では無かった。今日来る伯父様は、お父様にとってどうやら大事なお客様であるらしい、だなどと考えつつも、どことなく他人事な気分でいた。従姉弟に紹介される、という事にすら少しうんざりしてすらいた。きっと、「仲良くしてね」とかなんとか言われるんだろうと思うと、それが嫌だったのだ。私は、子供同士で仲良くする、というのが何より苦手だった。

 我ながらどうしようもなく可愛げのない子供だ。

 やがて伯父一家の到着が知らされ、私はお母様に手を引かれて伯父様一家とお父様が待つ応接間へと向かった。


「紹介させてくれ。私の妻と娘だ。アーシェラ、リィリヤ、エリック、ご挨拶を」

 嬉しくて堪らない、といった様子のお父様に促されるまま、私は頭を下げた。滑らかに上品に、でも適度に親しげに名乗るお母様の声を聴きながら、頭を上げた私は目の前に居る姉と弟の兄妹を見る。

 こんな事に真っ先に目が行くなんて失礼かもしれないけれど、彼らは質素な服を着ていた。少なくとも貴族が着る物では無い。私には目新しい恰好だった。その頃の私は伯父様のお立場も良く知らず、使用人以外の貴族以外の人間と接したことすら殆どなく、従姉弟同士の身分差について考察するほどの意識も無かった。ただ、彼らがこれまで会って来た子たちとは少し違う子たちなのだな、という事だけは、何となく悟っていた。

 彼らは目を丸くして私を見ていた。元々彼らは、丸い大きな目をしている。彼らが目を見張っていると、目が零れ落ちてしまうのでは無いかと少し心配になってしまう程。そして、弟が姉に縋りつくようにして寄り添っていた。仲がよさそうで、少し羨ましい。

 お母様にそっと背を押されて我に還る。お母様の挨拶が終わったのなら、今度は私の番だ。エリックはまだ幼すぎて、自分で挨拶はできないだろう。

「リィリヤと申します。」

 お母様の様に如才なく挨拶できるわけでもなく、私はよろしくとも言わずにただ名を名乗る。この場合家名を名乗る必要は無いだろうと判断して、名前だけ。よろしくお願いします、とは言うべきかどうか迷って結局辞めた。よろしくしたいのかどうか、まだ分からない。こんな風だから、気難しいだなんてお母様に言われてしまうのだけれど。

 挨拶に頭を下げて、それから上げると、姉の方の目が更に大きく見開かれて居た。どうしよう、本当に目が零れ落ちてしまいそうだ。姉弟揃って愛嬌のある可愛らしい顔をしているけれど、彼女は目を見開き過ぎて寧ろホラーめいた顔になっている。

 それどころか様子がおかしい。彼女は心配そうな弟や父親の視線を受けながらも、ふらふらと小さく前後に揺れている。そして、小声で何かぶつぶつと呟いているのだった。

「リィリヤ…リィリヤ? リィリヤ・ローゼルグライム? リヤ、氷の……」

 私の名を連呼しているような気がする。そして彼女は私の顔を凝視したまま尚もぶつぶつと何か呟きながら、心配する弟にゆすられるままにグラグラ揺れる。そして、

「きゅぅ」

 喉のどこから出たのかよくわからない声を漏らすと、そのままグリンと白目を剥いて倒れたのだった。

「お姉ちゃん!」

「サラ!!」

 場は騒然となった。彼女の弟など、泣いて彼女に縋りながらも私をキッと睨む。

「大丈夫ですか?」

 私もどうしていいか分からずにそんな質問をしてしまう。彼女を見れば、仰向けに倒れてピクピク痙攣している。明らかに大丈夫ではない。

「まずはサラをベッドへ! それから医者を呼べ!」

 お父様が良く通る力強い声でそう言った。そんな頼れる姿にほっとしつつ、彼女の様子を見ると、使用人に抱き上げられていた。そんな彼女を心配そうに見上げていた弟さんに睨みつけられる。

 まるで、私が悪いとでも言うように。

 もしかしたら、本当に私が悪いのかもしれない。だって彼女は、私の顔を見て倒れたのだ。

 流石に少し、胸が痛む。確かに私は無愛想な可愛げの無い子供だし、明らかに尋常な様子じゃない従姉の様子を見ても動揺する事すらできない。人と話す事が苦手で更に言えば子供同士の会話はもっと苦手だ。昔から表情を動かすのが苦手で、冷たいとか、お人形だとか、人間らしくないとかも、言われる。

 けれども仲のよさそうな彼らを見て、羨ましい、と思う程度には私は人間だ。目を丸くして私を見る彼らを、可愛いとすら思ってた。

 私は確かに、人付き合いが苦手だ。けれど……

 悪意なんて、少しも無かった。


 お医者様の診断の結果、従姉、サラに特に異常はないという事になった。お医者様曰く、しばらくすれば目を覚ますだろうとの事。サラの様子を見れば、白目を剥いていた目は普通に閉じられ、痙攣も収まっている。その事に安堵して彼女の近くに行こうとしたら、彼女の弟に睨まれた。

 その視線に思わず足を止め、無言で向かい会う。

 彼女の弟…私の従弟でもある、彼の名は、ローア・テシオドールと言うらしい。名前は彼からではなく、伯父様から教わった。彼は私を睨みつけたまま、私に一言も口をきこうとしなかったから。サラの名前を教えてくれたのも伯父様だ。

 姉のサラと同じ亜麻色の髪をしたローアは、淡い茶色の大きな丸い目の可愛い顔立ちの男の子だ。年は確か、五歳。私の一つ年上だ。

「お姉ちゃんに近寄るな」

 肩を怒らせ、こちらを睨む様子はまるで威嚇する猫のようだ。どうやら完全に嫌われたらしい。

 私の背後では、三人分のお茶とお菓子を用意したメイドがおろおろしている。私はこのローアと、まだ目覚めないサラと親交を深める為にここに来ているのである。お父様の提案で。でもこの状態から親交を深めるのは、無理なんじゃないかと思う

「私はサラ様に何もしていません」

 と、一応言ってみるけれど、やっぱりと言うか、彼は本気にしなかった。

「あっち行け! 魔女!」

 私に向かって怒鳴りつけるローアに、背後でメイドが気色ばむ。魔女、というのは侮蔑の言葉だ。女の魔法使いの中でも、邪道に手を染め、卑しい手段を好んで用いる。とくに童話の中に置いて、醜い悪役として良く登場する。

 彼の中では、私は邪まな魔法を使ってサラを気絶させた魔女になっているのだろう。

「……父に言われて、サラ様とローア様にお茶とお菓子をお持ちしました。よろしければお召し上がり下さい」

 私はぺこりと頭を下げて、メイドに道を譲る。彼女が戸惑い気味にお茶会の用意を始めたのを見て、またペコリと頭を下げた。

「では、私は失礼いたします。」

 メイドが困ったように顔を上げたけれど、私はそのまま部屋を立ち去った。お父様には一緒にお茶をするようにと言われているのだから、これは望ましい対応では無い。無いけれど、これ以上ローアと一緒の部屋に居る事が嫌だった。

 私だって、傷つかないというわけではないのだ。


 沈んだ気持ちを抱えて図書室へと向かう。いつもの様にチラチラと視線を向ける使用人たちの視線をやりすごし、家族にも伯父様家族にも合わない様に道を選んだ。私は家族とですら話すのが得意ではない。私が一緒に居て緊張せずにいられるのは、この先の図書室に居る人ただ一人だった。

「ジーハス先生。お邪魔します」

「おや、お嬢様。今日は大事なお客様がいらっしゃっているのでは?」

 私の挨拶に応じて、ジーハス先生がにこりと微笑んだ。ジーハス先生は優しげな初老の男性だ。いつもの様に本を広げ、ピンと背の伸ばされた姿勢で座っている。そんな彼の仕事はこの図書室の管理と魔法の研究だ。私の話相手は、本来彼の仕事ではない。

 それでも、こうして頻繁にここを訪れる私を、彼が邪険にした事は無かった。

「ご挨拶が、終わったので」

 結局お互いの紹介もサラの気絶で大騒ぎになってしまったし、つつがなく終わったとは言い難い状態だ。今私に求められている役割は従姉のローアと仲良くなることで、それを放棄しているのだから、本当は私はサラが寝込んでいるあの部屋に戻らなければならない。だけれど、私に対してあからさまに悪意を向けてくるあの少年と同じ部屋にいるのは辛かった。

 いつもこうして私は、嫌な事から逃げてばかりいる。

 そんな私を見透かすように、ジーハス先生が片眉を上げた。落ち着いた老紳士のジーハス先生だけれど、どことなく茶目っ気の感じられる表情だ。

「従兄妹殿はどちらもリィリヤ様の年上でしたかな? どんな方々でしょうか」

 私が彼らから逃げて来たことを承知の上で聞いてくるのだから、性質(たち)が悪い。

「さあ……?」

 あまり話してもいないのだから、分かろうはずがない。

 ふむ。とジーハス先生は顎に手をあて、それから質問を変えた。

「一目見た時にどう思いましたか?」

 私は彼らを見た時の事を思い出す。

 可愛い、と思った。年下の私が思うのもおかしいかもしれないけれど、たぶんその言葉が一番近い。くりくりとした大きな目。亜麻色の髪と目は優しい色合いで、そう、彼らはきっと人に好かれる人なんだと思った。

 ああ、でも、そう言えばその前に思った事があった。

「彼らの着ている服が、貴族の着る服ではないと思いました」

 と私が答えた時である。

「平民で悪かったな!」

 と怒りを滾らせた声が図書室に響き渡った。

 振り向けば、図書室の入り口にローアとサラが立っていた。


 サラの姿を見て、私はとっさに顔を両手で覆った。サラは私の顔を見て気絶したのだ。今もう一度同じ事をされるのは嫌だった。そして私が顔を覆うのとほぼ同じくして、ゴン! と如何にも耳に痛い音が図書室に響く。指の隙間から目を覗かせて見れば、ローアが頭を押さえて唸っていた。

「この馬鹿! 謝りに来たんでしょ!」

 サラが怒っている。ローアが、そんなサラを上目づかいに見上げた。

「なんで……!」

「失礼な事をしておいて謝る事もできないような奴は碌な大人にならない!」

「何であんな奴に!」

「じゃあ魔女だなんて言ったあんたは何なの?」

「……う」

 どうもこれは、姉弟喧嘩であるらしい。

 指の隙間から彼らを見るばかりの私の後ろで、ふむ、とジーハス先生が呟いた。

「リィリヤ様もそうですが……サラ様もローア様も早熟でございますね。七歳と五歳のやりとりとは思えません。

 …………ところでリィリヤ様は何故、顔を覆っておいでなのですか?」

 私の隣に並んで訝しげに私を見るので、私は指の隙間からジーハス先生を見上げた。

「顔を隠そうと思いまして」

 ジーハス先生が、ふむ、と頷く。

「そうですか。それは何故ですか?」

 何故、と聞かれて、私はどう答えたものかと考える。何故と言われれば、サラが居るからだ。私の顔を見て気絶したサラが。


 私の顔は怖いらしい。

 その事を、私は一応自覚している。初めて会った人は大抵、私の顔をみてぎょっとする。そうして態度がぎこちなくなる。その原因を私は、私の性格…表情を動かしたり、人と話すのが得意ではない…にあると思っていたけれど、そうもそればかりではなかったらしい。


 ――あの子…本当に人間なのかしら。あのエリックを見ても笑いもしないのよ。自分の弟だと言うのに。それにあの子のあの顔……とても自分で産んだ子とは思えないわ。


 思い出すのは、お母様の声。私が眠っていると思っていたのだろう。お気に入りのメイドにぼそぼそとそんな事を言っているのを聞いてしまった。

 私はそれを聞いて初めて、自分の顔が怖いものであるらしい、という事を知ったのだった。

 鏡で見る自分の顔を見ても、どうしてそう怯えられるのかは良く分からない。自分ではそう悪くない顔だと思っていたのだ。美しいと評判のお母様にも、皆に愛される愛くるしいエリックとだって、似ていないわけでもない…と、思う。なのに何がいけないんだろう。

 けれどもここで悩んだところでどうしようもない。私が自分の顔が怖い事よりも遥かに早くに学んだこと、それは、私の考える事や感じる事はどうも当てにならないらしい、という事だった。自分で考えて行動すると、大抵呆れられるか、怒られるか、怖がられる。

 そんなあてにならない私の目に私の顔がそう悪く映らなかったとしても、怖いというのであれば、そうなのだ、と納得するしかない。

 ……流石に、気絶されるのは初めてだったけれど。

 何であれ、今日会ったばかりの従姉をもう一度気絶させるのは良くないだろう。

「隠せば、怖くないかと思いました」

 正しく言うのであれば、私が顔を隠すのはサラに気絶されるのが嫌だったから、だけれども、サラが私の顔を見て気絶した事をジーハス先生に言うのが怖くて、私はそう答えた。ジーハス先生に悪い子だとは思われたくない。

 果たして、顔が怖いのは悪い子に入るのだろうか。ジーハス先生も、私の顔を怖いと思っているのだろうか。

 そんな事を思いながらジーハス先生の顔を伺う。ジーハス先生は思案気に顎に手を当て、何をどう言ったものかと考えているらしい。そんなジーハス先生の言葉を少し緊張して待っていると、柔らかい手が顔を覆う私の手に触れた。

 いつの間にか目の前に、サラが居る。

 優しい手がそっと顔を覆う私の手を取って下させる。サラの大きな目が私の顔を真正面から見た。

 また気絶されたらどうしよう、と身を強張らせる私にサラが微笑んだ。優しい笑顔。大丈夫だよ、と安心させるかのような。

「さっきはごめんね」

 サラが言った。ローアに怒鳴った時とは別人のように優しい声だ。サラの手がそうっと私の髪を撫でる。

「あたしね、君の顔が怖かったんじゃないんだよ。ちょっとびっくりして…ええっと、あと色々思い出して、というか、それでなの。ごめんね」

 屈みこんで私と視線を合わせ、慰めるかのようにサラが言う。こうも真っ直ぐに目を見て話しかける人などジーハス先生くらいしか知らなくて、少し戸惑ってしまう。

 私は頷いた。

「大丈夫ですか?」

 倒れた彼女の様子は尋常じゃ無かった。今は平気そうに見えるけれど、本当に大丈夫なんだろうか。

「大丈夫だよ! 心配してくれて、ありがとう!」

 にっこりとサラが笑う。こんな風に笑いかけられたことは今までにない。

「……」

 どう答えていいか、分からない。

「あと、お茶とお菓子、ありがとね! なのに、ローアが馬鹿な事言ったって。ごめんね?」

 満面の笑顔から一転して、申し訳なさそうな顔。くるくると変わる顔が新鮮で思わずまじまじと見つめてしまう。

「お茶は、お父様が……あと、ローア様が怒るのも、当たり前、です」

 彼はサラが倒れたのが私の所為だと思っていたのだから、それは怒るだろう。そう思って言ったのだけれど、サラはそれを聞いて大きく目を見開いた。

「当たり前?」

 そんな不思議そうな顔をされても困る。私の感性はやっぱり人とずれているんだと思ってしまう。どう言えばいいんだろう。

「……その、サラ様を心配したから? ですし……私の所為だったのかと思いますし、勿論私はサラ様に酷い事をしようとしたわけではないのですが、あの……」

 思わずしどろもどろになる私を前にして、サラが目を見開き、何故かどんどん顔を赤くしていく。何となく身の危険を感じて後ずさりかけた私に、サラがガバリと抱き付いた。

「ああああ、何この子! 何この可愛い生き物! いやああああ神様ありがとう!」

「お姉ちゃん!?」

 叫びながら私をぎゅうぎゅうと抱きしめるサラをローアが慌てて引きはがした。

「何やってんだよ!」

 ローアに怒られ、サラがはっとしたようにして、それからしゅんと頭を垂れた。

「ご、ごめん……。リィリヤも、ごめんね?」

「いえ……ありがとうございます……?」

 可愛い、と言ってくれたのだから、ここはお礼を言うべき場面な気がする。けれども私のその言葉を聞いて、サラは顔を覆って悶え始め、ローアは吃驚したような顔で私を見た。

「お姉ちゃんが、ごめん。あと……魔女って言って、ごめん……」

 ローアのその言葉に、どこか胸が温まるような気がした。この二人は、お互いの為に謝るのだ。ごく自然に庇い会い、寄り添う様子が美しいと、そう思った。私とエリックは、こんな風にできない。こんな風にできるくらいに仲良くなれる気がしない。

「いえ……仲がいいんですね」

 ふわふわと温かい気持ちでそう言ったら、ローアが目を大きく見開いた。元々丸い目が真ん丸になる。

「笑った……」

 言われて自分の口元を触る。確かに綻んでいた……かもしれない。

 良く分からない。

「私は笑わない子だと良く言われるのですが」

「ああ……そんな感じ。でもさっき笑ってたよ。ちょっとだけど」

「そうですか……」

 では私は、笑えないわけではないのだろう。私はローアに頭を下げた。

「ありがとうございます」

 ローアが奇妙な顔をして私を見る。

「何で、ありがとう?」

「おかけで私は笑えるのだと知りましたから」

「……うん。お前、変な奴だな」

「そうらしいです」

 何を考えているのか良く分からない、とか、変な子、だとかはよく言われる。

「……ローア・テシオドール」

 そう言って、ローアが手を差し出した。そう言えば、お互いの挨拶はまだちゃんとしていなかったんだと思い出す。

「リィリヤ・ローゼルグライム、です」

 そう言いながら私は、ローアの手を握る。ぎこちなく握手をして、それからローアがふっと笑った。

「よろしくな」

 よろしく、という言葉は社交辞令としてたくさん使われる言葉で、そう言われたからと言って本当にこれからよろしくしてくれるとは限らない。そう知っていても、ローアの笑顔はこれから仲良くしてくれるのかもしれない、と思わせるものがあった。

「はい。よろしくお願いします」

 そう答えると、サラがにっこりと笑いながら私の手を取った。

「あたしも! あたしは、サラ・テシオドール。よろしくね。リィリヤ!」

「はい。よろしくお願いします。サラ様」

「サラでいいよ! あたしもリィリヤって呼ぶし!」

「ありがとうございます。サラ」

 名を呼び捨てる事は一定以上の親しさを表す。それをサラが許可してくれたことが嬉しかった。そう言えば最初からサラは私の事をリィリヤと呼んでいた。

 仲良くしてくれようとしていたのだと、今更ながら気付く。

「ねえ、あたしたち、友達になってもいいかな?」

 サラが言う。

 嬉しかった。


 サラ・テシオドールとローア・テシオドールと初めて会った時の事は死んでも忘れられそうにない。

 彼らは私の従姉弟であり、初めての友達だった。



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