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閑話 ゼーベンヌ 2

 ※ 本日六度目の投稿です。

 ◇




 ゼーベンヌは、激しく困惑した。


 あのリャナンシーは、間違いなく死んだはずだ。

 自分の手には、いまだにその時の感触が残っている。


 それに、よしんば瀕死の状態で生きていたとしても、その後他の遺体たちと同じように、修一の手によって氷付けにされていたのだ。


 動けるはずが、ない。


「おそらく、()を受けていたんだろうな」

「だろうねえ。

 ゼーちゃんに心臓を貫かれて、俺に脳味噌を吹き飛ばされて、それでもまだ動けるようになるなんて、アイツらの耐久力では不可能だ。

 もしかしたら、他に仲間がいて、蘇生(・・)してもらったのかもしれないけどね」

「あるいは、その両方か」


 苦い顔で何事かを話し合う二人は、尋常ならざる雰囲気を醸し出していて、おいそれと声を掛けるのは躊躇われるほどだ。


 だがゼーベンヌは、それでも聞かねばならぬと思い、二人に声を掛けようとした。


「あ、あのっ――」

「――エイジャ」


 その時デザイアが、真剣な表情で親友の名を呼び、


どこ(・・)かな?」


エイジャが、躊躇いなく、左腰の銃を抜いた。


 ゼーベンヌが、二人の遣り取りに疑問を挟む間もなく、デザイアが虚空を睨み付けた。


 幾つも並ぶ魔導ランプの内の一つ、そのすぐ傍の暗い影を、殺気の籠った目で睨み付けながらデザイアは、波濤に手を掛け、そして、言った。


「その影の、左側だ」

「了解」


 その瞬間、エイジャは四度引き金を引いた。

 乾いた破裂音が響き、弾丸が何もない空間に吸い込まれていく。


「グギヤアアアッ!?」

「なっ!?」


 醜い断末魔が、通路内に響き渡った。


 弾丸を撃ち込まれた空間が揺らめき、姿を隠していた化け物が、血を撒き散らしながらデザイアたちに躍り掛かる。


 ――インビジブルビースト、いや、インビジブルアサシンか、どちらにせよ……。

「温いっ!!」


 繰り出された爪を軽々と躱しながら、デザイアは、抜き放ち様に波濤を叩き込んだ。


「ゲブウッ!!」


 化け物は、目にも止まらぬ速さで振るわれた装飾剣の煌めきに、成す術もなく肉体を断ち割られた。

 そのまま地面に叩き付けられた化け物は、もはやピクリとも動かない。


 蒼銀色の刃は、化け物を骨ごと斬り割いたにも関わらず、その煌めきを微塵も損なっていなかった。

 ただ一振り、デザイアが血払いのために波濤を振ると、まるで何事もなかったかのように汚れの落ちた愛剣を、ゆっくりと鞘に納めた。


 その一瞬の戦闘を呆然と眺めていたゼーベンヌは、後ろから駆け寄ってくる大群の足音にようやく我に帰った。


 戦闘音を聞いた団員たちが駆け付けていたのだ。


「団長、今のは……?」

「ん? ああ、なんでもない、もう片付いた」

「しかし……」


 倒れ伏す化け物を見て何か言いたげな部下に、副団長が前に出る。


「大丈夫ですよ、君たちは最初の指示のとおり、そのまま活動を行ってください。――エイジャ君」

「なあに、ラパさん」

「住人の御遺体は、この通路の奥にあるのですよね?」

「そうだよ、シュウ君に冷凍保存してもらって、奥で眠ってる」

「分かりました。

 ――諸君、聞いたとおりだ。君たちは、このまま御遺体の運び出しと村までの搬送用務に就いてほしい。無論、御遺体に対しては細心の注意を払い、その尊厳を踏み躙ることのないように注意すること。また、洞窟内、山中ともに周囲の警戒を怠ることなく、団員及び御遺体に無用な損害を与えぬよう配意してくれたまえ。

 よろしいか?」

「は、分かりました」

「では、活動開始」


 副団長の号令の下、団員たちは各部隊単位に別れ、通路の奥に向かう。

 その様子に、エイジャが楽しそうに笑い出した。


「あはは、やっぱりラパさんって、そうやっている方が似合ってるね」

「止めてください、エイジャ君」


 ゼーベンヌには、何がなんだかイマイチよく分からなかったが、それでも分かったことか一つ。


「あの、隊長?」

「どうしたのゼーちゃん」

「アイツは、死んでないということですか?」

「……そうだね、そういう事になる。

 そして、アイツの企みも、いまだ継続中ということになる」

「……」


 ゼーベンヌには、その企みというものがよく分からなかったが、それでもそれが、絶対に阻止すべき事なのだということは、分かった。

 なにより――。


「そうですか、では、隊長」

「なんだい?」

「――今度こそ、完膚なきまで叩きのめしてやりましょう。

 次は、二度と起き上がれないように、消し炭にしてやりますから」


 アイツは、絶対に許せない。

 決して、許さない。


 ゼーベンヌの瞳は、燃えるような決意に満ちていた。



 エイジャはそれを見て嬉しそうに笑うと、「そうだね」とだけ答えたのだった。




 ◇




「おお! これはなかなか面白いな!」


 洞窟の中で作業中の団員たちを残し、デザイアたち四人は山裾の平原まで出てきていた。

 そこでデザイアは、ゼーベンヌが二輪車収納用腕輪から取り出した予備のバイクに乗り、その乗り心地に興奮している。


 もちろん遊んでいるわけではない。


「よくそんな簡単に乗れるねえ」

「なに、馬に乗るのと比べれば、全てこちらの意思で動くバイクの方が単純だ」

「ふーん。

 まあ、これならデザ君も一緒に戻れそうだね」

「そうだな」


 エイジャとデザイアは、何を置いてもまず、騎士団本部に帰ることにしたのだ。


 あのリャナンシーが、今後どういう手段を取ってくるかは分からないが、その対策を行うためには一度本部に戻ったほうがよい。


 ただ、そのためには本来なら、馬や馬車で四、五日掛けて街道を走らなければならないのだが、出来ることなら時間を掛けたくない。


 そんな時ゼーベンヌが、万が一戦闘で故障したときの事を考えて武装してない予備のバイクを持ってきていると言ったため、取り急ぎ、運転訓練を行っているのだ。


 その結果、デザイアが僅か三十分ほどでバイクの操縦を覚えたため、ゼーベンヌとデザイアがそれぞれ運転し、首都まで急いで帰ることになった。


 デザイアの使うバイクには、武装がない代わりに魔力蓄積装置マナカートリッジが装着されているため、エイジャなりがそこに魔力を込めておくことで、デザイアでも長時間の運転が可能なのだ。


「ラパックス、お前はこの村での団員の指揮を頼む。諸々の活動が終了すれば、そのまま帰還するんだ。俺は本部に戻り次第、残してきておいた団員の指揮を執る」

「分かりました、団長」


「さて、俺は運転できないから、また宜しくね、ゼーちゃん」

「……デザイア団長(・・)の後ろに乗ればよいのでは?」


 ゼーベンヌが確認の意味を込めてそう聞いたが、エイジャは首を横に振った。


「流石に、今日初めて運転する男の後ろに乗るのは嫌かな」

「……それもそうですね」


 ゼーベンヌは納得し、ほんの少しの羞恥心を呑み込むことにした。



 別に、何の問題もない。

 来る時と、何も、変わらないのだから。



 そう自分に言い聞かせ、ハンドルを握る手に力を込める。


「多分、今から出ればシュウ君たちより先にスターツに着くかな」

「そうですね、それくらいだと思います」

「そうかそうか、なら、行くぞ」

「うん」

「はい」



 そうして三人は、風景を置き去りにしながら首都への帰還を急いだ。




 ※ 本日十八時に次話を投稿します。

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