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閑話 レイ 4

 ※ 本日四度目の投稿です。

 ◇




「…………んう」


 レイが目覚めると、そこは最近までお世話になっていたボロ小屋ではなく、どこかの宿の一室だった。


「…………」


 ボサボサに跳ねた茶髪に頓着することなく、レイはいまだ薄暗い宿の室内を見回し、それから隣に寝ている者の顔をジッと覗きこんで、ホッと息を吐く。


 隣で寝ているのは、言わずと知れた修一だ。



 ここは、首都に向かう街道沿いにある小さな村の一つ、その中のこれまたこじんまりとした宿の一室だ。


 テグ村とそう変わらない規模のこの村では、しかしテグ村のような事件は起きていないらしく、修一たちは宿の中で静かな夜を過ごした。


 また、ノーラたちは女性同士で固まって休息を取っているため、修一が気を張っておく必要もなく、だから修一は、何日か振りにまともな睡眠を取ることにしたのだ。


 そして、そこにレイがやってきて、一緒に寝たいと言い出したときは、全く躊躇なく、それを許可した。


 他の面々も、レイの両親の話を聞いているためそれを茶化したりすることもなく、修一は、抱き付いてくるレイの背をとんとんと叩きながら、レイが聞いたこともないようなお伽噺を聞かせてあげたのだった。


「…………まだ、はやい?」


 レイは、外がまだ暗く、起き出すには早すぎると分かると、再び修一の隣に潜り込んでいく。


 修一は、ここ数日分の疲れと睡眠不足を解消するべく、まるで泥のように眠っている。

 隣でレイがごそごそと動いても、起き出す気配はない。


「…………んん」


 レイは、修一の胸元に顔を擦り付けながら、甘えるように鼻を鳴らす。まるで子猫のようだ。


 そして目を閉じようとして、ふと思い出したかのように、自分の胸元にしまってあるモノを取り出した。


 それは、紐を通して首に掛けてあり、服の中にしまってあるモノだ。洞窟の中で、修一に回収してもらったモノでもある。


「…………うん」


 薄明かりの中で鈍く光るそれは、両親が大切にしていた結婚指輪(・・・・)だ。

 宿に残していた荷物は全て処分されていて、両親の遺骨も拾えなかったレイにとっては、もうこれだけしか両親の残してくれたものはないのだ。


 故郷に帰れば三人で暮らしていた家も残っているはずだが、元々借家であったし、この旅に出る際に大切な物は全て持ち出してあるので、帰っても大したものは置いてない。


 そもそもそこまで帰っても自分一人で生活することなど出来ないし、だから、帰るつもりもあまりなかった。


 それよりは、なんとかして修一に付いていく方がいいだろう、と考えている。


 きっと自分を守ってくれると、レイはそう信じている。


 それに、レイはこの指輪を受け取った時、確かに声を聞いたのだ。


 お父さんとお母さんの声で、「お前の幸福を願っている」、「貴女だけでも幸せになって」と。


 単なる空耳だったのかもしれないし、ひょっとしたら、そう言って欲しいのだという思いが聞かせた幻聴だったのかもしれない。


 でも、レイには、それが両親の願いなのだと理解出来た。


 だから、レイは修一に付いていく。



 それが一番だと、レイには分かる(・・・)から。



「…………おとうさん」

「んあ」

「!!」


 レイは驚くが、修一は一切起きようとしない。


「…………ぐうぜん?」


 偶然だろう。


 ただ、それでもレイは嬉しかった。


 だから、指輪を懐にしまうと、一際強く修一に抱き付いて顔を擦り付けた。


「…………おとうさん、」



 ――…………だいすき。




 ◇




「ねえ、シューイチ?」

「なんだ?」

「レイちゃんなんだけどさ」

「おう」

「……ちょっと甘やかし過ぎじゃない?」

「……そうか?」


「そうだよ、ノーラだってそう思うでしょ」

「え? いえ、私はそこまでではないと思いますが」

「だって、今朝のアレ見たでしょ?

 朝から、というか、寝る前からだったけど、シューイチにべったりで、何をするにしてもお父さんお父さんって」

「ええまあ、それは」

「別に、普通じゃないか」

「…………」


「そこまでならそうだけさ、トイレにまで付いていってあげることはないんじゃないの?」

「あー、……いや、ほら、レイが付いてきて欲しいって言うからさ」

「……いくらなんでも、それは断りなよ。

 代わりに僕らに頼んだっていいんだからさ」

「んん、そうか、そういうもんか」

「…………ねえ、」

「うん? レイちゃんどうしたの?」


「…………おとうさんを、いじめないで」

「……えっと、レイちゃん、これは苛めてるんじゃなくてね?」

「注意してるのですよ、レイ。シューイチさんが変な事をしないように」

「変な事って、そこまで言うのかよ」

「まあ、シューイチさんは張り切っているだけかもしれませんが、周りから見ればやっぱり変に見えることもありますよ。ただでさえシューイチさんは、私たちと考え方が噛み合わない時があるのですから」

「……気を付けるよ。――レイ」


「…………?」

「俺に出来ないことは、ノーラとかメイビーに頼むんだぞ」

「…………たとえば?」

「そうだな、トイレとか着替えとかお風呂とか、そういうのだ」

「…………わたしは、へいき」

「俺がダメなの」


「…………」

「そんな顔してもダメだ」

「…………むう」

「ほらほら、そんなにむくれていたら、折角の可愛いお顔が台無しですよ?」

「そうそう、子どもは笑ってなきゃ、ほら、にーっとしてみなよ」

「…………」


「……レイ、俺もお前には、いつでも笑顔でいてほしいかな」

「!! …………わかった。

 …………こう?」


「ふむ」

「まあ、」

「おお~、やっぱりそうしてた方が可愛いって」

「…………ほんと?」


「そうだとも、俺もそう思うよ」

「…………じゃあ、がんばる」

「ただ、まだちょっとぎこちないかな。

 もっとこう、ふんわり笑ったりは出来る?」

「…………よくわからない」

「それなら、ノーラに手本を見せて貰おうか」

「え? 私ですか?」


「うん、だって、ノーラが一番適任だと思うし」

「…………のーら、みせて」

「えっと、……こう、でしょうか?」


「!!」

「……へえ」

「流石ノーラだねえ、僕らとはオーラが違うよ」


「そ、そうですか?」

「…………すごい」

「ああ、マジで凄いな。

 不覚にもドキッとした」

「……それ、本気で言ってます?」

「もちろん」

「……」

 ――シューイチさんて、時々どこまで本気で言ってるのか分からないときがありますね。なんでしょうか、こう、嘘じゃないんでしょうけど、それだけじゃないみたいな。


「ところでノーラ」

「は、はい、なんでしょうか?」

「次の目的地も、昨日みたいな村なのかな?」

「ええ、そのとおりです。テグ村とほとんど変わらない規模の、河川漁業が主な産業の小さな村ですよ」

「そうか、まあ、静かに過ごせるならそれに越したことはないんだがな」

「まあ、そうですね」


「その次のファステムになると、そうもいかないだろうよ」

「ん? カブか、どういう意味だ?」

「そのまんまだよ、あの町は人が沢山いるからな、その分問題もよく起きるんだとよ」

「まあ、そのおかげで、冒険者に対する依頼も多いそうですし、だからこそ僕たちもそこへ向かってるんですが」

「港町だけあって、他の国からやってくる人も多いんだってね。

 あたしも気合いが入るよ」

「……」


「あれ、どうしたのヘレンちゃん? 浮かない顔してるよ」

「うん、……ちょっとね」

「はっは。

 ヘレンはね、ファステムに着いたらメイビーと別れなくちゃならないんだ、って思って落ち込んでるんだよ」

「ウ、ウール!!」

「そうなんですか?」

「だとさ、メイビー」


「……ヘレンちゃん」

「な、なに? ……って、うわ!?」

「ありがとー! そんな風に思ってくれて嬉しいよー!!」

「わわ、メイビー、く、苦しい」

「あ、ごめんごめん。

 でも、本当に嬉しいよ、僕」

「メイビー……」


「今は、お母さんを探さなきゃならないし、ノーラの護衛もあるから駄目だけど、いつか一緒に、冒険に出るのも悪くないかもしれないや」

「本当?」

「ほんとーだよ」

「……やっ、た」

「良かったじゃないか、ヘレン」

「うん……!」


「女同士の友情ってやつか。

 ……なあ、カブ、テリム」

「なんだ?」

「なんでしょう?」

「……あー、いや、何でもない。

 やっぱりいいや、気にしないでくれ」

「なんだよ、気になるな」

「そうですよ、言って下さいよ」


「……いや、なんか、お前らのヘレンを見る目が、妙に温いなー、と思ってな」

「ああ、その事か」

「まあ、仕方がないことですね」

「どういう意味だ?」


「内緒だ」

「内緒です」


「……まあ、良いけどよ、別に」

「…………おとうさん、げんきだして」

「いや、落ち込んでる訳じゃないんだが……」

「…………ほんとう?」

「本当だよ」

「…………じゃあ、しんじる」

「…………ありがとよ、レイ」




 本日十六時に次話を投稿します。

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