第5章 15
◇
深々と頭を下げる修一を前にして、ゼーベンヌは考える。
どうして彼はここまでするのだろうか、と。
もともと彼がこの村に立ち寄ったのは偶然らしい。夕刻、レイを交えて一緒に話をしていたときに、ノーラやメイビーから聞いた話では、彼は遠い故郷から出てきた男であり一緒に旅をしているのはほとんど成り行きによるものだと言っていた。
そして彼は、レイと出会ったときもほとんど会話らしい会話をせずに宿に入ってしまっていたし、だからこそ、先程ここに来たときにレイが修一に懐いている様を見て、思わず首を傾げたのだ。
そして今は、そんなレイのために恥を忍んで頭を下げている。この男は、一体何故、そこまでしてレイに肩入れするのだろうか。
修一の言っていた、優しくするというのとは少しばかり違うように思える。ゼーベンヌには、そう思えてならなかった。
そしてそれは、エイジャも同じであった。
何が、彼をそうさせているのか、それが分からないのだ。ただ分かる事と言えば、これは、決してレイのためだけに言っているのではないだろう事だ。
おそらく、これは修一にとっても大事なことなのだ。
自分たちには分からない、何かが、彼の心を押しているのだ。
――それが何かも分からないのに、友人だなんて、……まったく俺もひどい男だな。
エイジャは、内心で一人ごちた。そういえば、友人だと言ったのは自分が先だったか、とも。
ゼーベンヌもレイも、不安そうにこちらを見ている。
やれやれと天を仰げば、雲一つない空に、煌々と輝く半月が浮かんでいた。
「…………」
目に写る月は、何をするでもなく空に浮かんでいる。ただそれだけだ。だがエイジャは、まるで月に諭されたような、そんな不思議な気持ちになった。
なって、しまった。
これが、どういう気持ちなのか、エイジャがそれを言葉にすることはなかったが、代わりにエイジャは、自分への言い訳にはこれぐらいがちょうど良いだろうと思うことにした。
――お月様にまで言われちゃあしょうがない、かな。
――――と。
「……はあ、――分かった、付いてくる事を許可しよう」
「!! 本当か、エイジャ!」
弾かれたように頭を上げる修一に、エイジャが眉尻を下げて頷く。ゼーベンヌが何か言いたげにしたが、結局その言葉を飲み込んだようだ。
「ああ、そこまで言うなら仕方ない、二人とも付いておいで。――ただし!」
「お、おう」
「条件がある」
「……どんな?」
修一は、さもありなんと構える。無茶を言ったのはこちらの方だ。それ相応の条件は必要だろう。
だから、エイジャがどんな条件を付けてくるのか、修一は少しだけ緊張を滲ませながら続きを待つ。
「まず、さっきシューイチ君が頭を下げたこと、アレは見なかったことにする」
「おう、……へ?」
いきなり予想外のことを言われた修一は、間の抜けたような声を出した。しかしエイジャは、気にせず言葉を続ける。
「次に、君たちを連れて行くのはあくまでも俺が指示をしたからという事にしてもらう。これは、俺が騎士団本部に報告する際にそうさせてもらう事だが、君らにも納得してもらう必要がある。そして最後に……」
「……最後に?」
「この件が終わったら、一晩俺の相手をしてほしい。――もちろん言っておくが、変な意味じゃあないよ? 君の事を、もっとよく教えてほしいんだ。
だから、語り合おう。
大丈夫、一晩くらい寝なくたって人間死にやしないからさ」
「……えっと、それぞれ理由を聞いて良いか?」
エイジャは「もちろんさ」と頷いた。
「一個目は、二個目に由来する。俺が連れて行くことにしたのだから、君が頭を下げる必要はない。必要がないのなら、今の行為は見なかったことにしてしまって何の問題もないだろう?」
「それはまあ、そうだが……」
「二個目は、俺の職責に由来する。
結局、君たちを連れて行けばどうしたって俺の責任になるんだ。だったら最初から俺が頼んで来てもらったことにすれば手っ取り早い。君の力が必要だと思ったから、レイちゃんが付いてくるのを承知のうえで、俺は君たちを同行させた。その責任は、全て俺が取る。もしこれでレイちゃんが大怪我でもすれば、俺は下手すりゃクビ、良くて降格かな」
「そんな、お前……」
そういう言い方をされると、修一としても言葉に困る。勿論、そういうことになることも分かったうえでお願いしたわけだが、改めて言われると、やっぱり心にくるものがる。
「尤も、俺だってクビにはなりたくない。だから、君にはっきり言っておく」
「……ああ」
「――何があってもレイちゃんを守るんだ、シューイチ君。
君が、その手で、その子を守り切れ。
失敗は許さない。
絶対に。
君だって、それくらいの覚悟は出来るだろう?」
「……!!」
エイジャは、今まで見せたことのないような凄みのある声と表情で、修一に念を押した。修一ですら、思わず背筋がゾクリとした。それは、燃える建物の中でデザイアと言い合ったときに感じたモノに近かった。
多分それは、畏敬と呼ぶのが一番近い感情だったのかもしれない。
いまだ学生であった修一が、本当に仕事に対して誇りを持った大人を前にして何度か感じたことのある、ある種の憧れを含んだ、そんな感情である。
だから修一は、はっきりとエイジャの言葉を肯定する。
「おう、当たり前だろ、そんなこと。絶対に、守ってみせるさ。
レイには、指一本触れさせない」
「よし、それなら良い。そして三個目だけど、これにはそんなに深い意味はない。ただ、俺は君の友人として、君の事を知らなすぎる。だから君の事を教えて欲しい。
こっちも俺のことや、何ならデザ君のことを教えてあげようじゃないか。質問したいことは存分に聞いてもらって構わない。俺だって、君に聞きたいことが山ほどあるんだ」
「……」
「だから、語り合おう、シューイチ君。俺に、友人である君のことをもっとよく教えてくれよ」
「……分かったよ、――それなら、シュウ君でいいぜ」
「おや? 恥ずかしいんじゃなかったのかい?」
エイジャが、若干からかうように聞いてくるが、すでに修一は吹っ切っていた。この男は、一度そうだと決めればそれを受け入れることができる男である。
「いいさ、どうせその内呼んでやろうとか思ってたんだろ? なら、今からでも構わないと思ったんだよ」
「ふうん、……ま、それならお言葉に甘えようかね、シュウ君」
「ああ、そうしてくれ、エイジャ」
二人の、まるで本当の親友同士のように笑い合う姿にゼーベンヌは、えも言われぬ気持ちになった。
ただ、それが不快であるのかと聞かれれば、決してそうではないと答えただろう。
「…………」
いつの間にかこちらを見つめていたレイに微笑みを返し、ゼーベンヌは、いつか自分もあんな風になれるだろうか、と少しだけ、そう考えたのだった。
◇
虫の泣き声さえも聞こえないほどに静まり返った森の中を、四人は一列になって歩いていた。
いや、正確に言えば三人か。レイが、修一に背負われているのだから。先頭にエイジャ、その後ろにレイを背負った修一、最後尾にゼーベンヌである。
修一は、最近誰かを背負って歩いてばかりいる気がする、と考えているが、それはまあ、勘違いである。サーバスタウンに入る前にノーラを背負って以来、修一はそんなことはしていないのだから。
ともあれ、追跡は非常にスムーズに行われている。先頭を歩くエイジャが、自らの持ちうる斥候技術をフル活用し、逃げたオーガの痕跡を着実に捉えているのだ。
「それにしても、よく分かるな。血の跡なんて、森に入った辺りで途切れてたのに」
「まあ、向こうも素人みたいなものだからね」
エイジャ曰く、落ちた血の跡を消そうとすれば、今度は消そうとした痕跡が残るものらしく、エイジャはそういった痕跡を辿っているのだとか。
少し前にエイジャも言っていたが、斥候術の中には敵の追跡を振り切るときに使う技術というものもあり、優秀な斥候は例え敵に見つかっても、それを振り切って逃げ延びることが出来るものらしい。
かつてメイビーが、帝国の金貸し連中の追っ手から逃げ切れたのも、こうした斥候術を駆使したからなのだ。
逆に、そういった技術を持たない者がいくら痕跡を消そうとしてもそれは素人の浅知恵に過ぎず、斥候に対しては何の効果もないらしい。野伏あたりなら、野外での活動時において痕跡を消す技術もあるらしいが、そうでなければ大抵は無意味だそうだ。
生き物が活動をすればその痕跡は必ず残るものであり、それを不用意に消そうとすれば、より多くの痕跡を残すことになるのだそうだ。
「同じ斥候同士なら技量の高いほうが勝つけどね。向こうは人ならざる魔物なれど、野生の動物と比べればはるかに下手っぴだよ。逃げたオーガは間違いなく斥候技能を持っていないね。だったら、俺が見逃すはずないじゃないか」
「あんなこと言ってるけど、信じていいのかな、ゼーベンヌ」
「そうね、隊長の言葉はいつも話半分に聞いておくくらいでちょうど良いわよ」
「分かったそうするよ、ありがとな、ゼーベンヌ」
「いえいえ、とんでもないわ」
二人のあからさまな貶しように、「二人とも酷いなあ」とエイジャは嬉しそうに笑う。こういう軽口を叩き合える人間は本部に戻れば割かしいるのだが、残念ながら生真面目なゼーベンヌは取り合ってくれないどころか無視する場合が多いのだ。
だから、今みたいな遣り取りはエイジャにとっては望むところであるし、それどころかゼーベンヌまで乗ってきたのが嬉しくて仕方がないのだろう。
「あ、そこは踏むと危ないよ。足場に見えるけど、脆い枝木が重なってるだけで、踏むと真っ逆さまだから」
「分かってるよ、そんなこと。下がスカスカじゃねえか」
「えっ、それは見て分かるものなの?」
「言ったろ、俺は熱が見えるって。物体ごとに蓄熱量が微妙に違うから、構造物の形なんかもある程度分かるんだよ」
「便利ね、天恵持ちって」
そういえば、と修一は今までなんとなく疑問に思っていたことを聞いてみた。
「天恵持ちって、そんなに数が少ないのか?」
「そうね、一口に天恵といってもその効果は人によってまちまちだし、便利なものや、逆に使いづらいものもあるだろうけど、基本的に希少よ。それが、戦闘なり研究なりに役立つものなら、尚更といっていいわ。有用な天恵持ちなんて、一つの国に三十人もいないんじゃないかしら」
「へえ……、ちなみに、ゼーベンヌの知り合いには誰か天恵持ちっているのか?」
「そうね、……私の知り合い、というか、前の上司だった第五騎士団の団長は、確か天恵持ちだったと思うわ。使ってるところは見たことないけど」
「それってエナみんの事? あの人のは、普通にしてたら使う機会のないものだからねえ。それよりも使ってる武器の方が目立つだろうしさ」
「エナみん?」
「エナミ・イースヴィレットという名前なのよ」
「へえ」
聞けば、筋骨隆々とした四十路手前の男で、大槍を振り回して戦う武人気質の人物だとか。背丈は修一より少し高いぐらいで、浅黒い肌とキツイ訛りのある言葉、顔の真ん中に一本走った刃物傷が特徴らしい。
そんな男相手に『エナみん』などと、よく言えるものだと、修一はいろんな意味でそう思った。
「エナみんも別に怒ったりしてないし、むしろ笑ってるんだけどねえ」
「呆れてるんだと思いますけどね、私は」
「だろうなあ……」
「そうかなあ? ……そういえばデザ君も天恵持ちだよね」
「は? ……マジで?」
エイジャが「なんだ聞いてないの?」と意外そうに言うが、そんな事は聞いていない。まあ、聞く機会もなかったと言えばそうだが。戦っている間はそんな事話すはずもないし、火事の後始末のときもそうだ。
一緒に千羽鶴を折ったときは、上手く折れずに四苦八苦してたデザイアを放っておいて、ノーラやラパックスに他の折り方を教えていたし。
「まあ、見たことはあると思うけどね。デザ君の『勘』は」
「ああ、あれなのか」
「ただあれは、ちょっと特殊なんだよね。体質とも絡み合ってるから、純粋な天恵とはまた少し違うみたいだし」
「そうなのか?」
「デザイア様も、そうだったんですね」
「……様?」
「何か可笑しいかしら?」
「いやいや、別に……ん?」
不機嫌そうに睨み付けてくるゼーベンヌの追及を躱していると、背中に乗っているレイがぺちぺちと頬を叩いてきた。修一の肩の上から首を前に出して、修一の目を見つめてくる。
そして、自分の顔を指差した。
「何だ? ……ひょっとして、自分も天恵持ちだって言いたいのか?」
「…………うん」
「レイ、お前、天恵が何か分かってるのか?」
「…………?」
疑問符を出して首を傾げられたので、それ以上の追及は止めにした。多分、話に加えて欲しくて言ってみただけなのだろう。
というか、そんな天恵持ちばかりと会うことなどそうはないだろうし。
「ちなみに、俺は持ってないよ」
「知ってますよ隊長。そして私も持っていません」
「はいはい」
◇
「おや? ……おかしいな?」
「どうした、エイジャ?」
「いや、ここまで続いていた痕跡が、ここでプッツリ途切れてるんだ」
「何だと?」
山中を歩き始めて三十分ほど経過した現在、修一たちは、森のかなり奥深いところまで来ていた。先程ゼーベンヌが目標探査機術を使ったところ、オーガたちのアジトまであと僅かというところまで来ているらしい。
ところが、エイジャが言うにはここで痕跡が途絶えているのだ。
なんの前触れもなくプッツリと。
「見落としは?」
「あるわけないだろう。ここまで綺麗に続いていたものを、そんな簡単に見落とすもんか」
「なにかの罠である可能性は?」
「それもない。罠を残すなら、それ相応の痕跡が残る。そんな跡も一切ない。ただ唐突に、オーガの痕跡だけが途絶えている。……何故だ?」
念のためと、周辺を更に念入りに調べ始めるエイジャ。修一が黙ってその様子を眺めていると、不意にゼーベンヌが声をあげた。
「あら、これって?」
「どうした、ゼーベンヌ?」
ゼーベンヌが、手に持った探査盤を見せてくる。修一と、その背中に乗ったレイが、揃って盤上の光点を見つめる。ただ、いまいち意味が分からない。
「……これは?」
「今、何か分からないかと思って目標探査機術の他にも生命探査機術や魔力探査機術を使ってみたのよ。そしたら……」
「そしたら?」
「この岩、魔力の反応があるのよ。それも、結構規模の大きな」
そう言って指差した先の岩は、痕跡が途切れた地点から二メートルも離れていない場所の、岩壁の一部分だった。それをチカラを使って見た修一は、「マジか」と呟いた。
岩壁の奥に、空間が広がっていたのだ。
まるで通路のように伸びているそれは、少なくとも修一が知覚できる範囲を超えてずっと伸びている。
緩やかに下に向かっているようだが、どこまで下がるのか見当も付かない。
「おーい、エイジャ!」
「なんだい?」
随分遠くまで行っていたエイジャを呼び戻し、ゼーベンヌと自分が発見した岩壁の奥にある空間を教えると、エイジャは岩壁に張り付いて、その表面をじっくり観察していく。
そして、見つけた。
「……あった。二人とも、お手柄だよ。ここに、巧妙に隠されてるけど、取っ手がある。これは、ドアだ」
「ドア? ……これが?」
「ああ、魔導機械で出来た、擬装扉だ。表面をまるで岩肌のように擬態させている。そして、その上から土属性魔術の石壁魔術を重ねて、本物の岩肌との継ぎ目を消している。どおりで痕跡が消えてるわけだ。ここでこの中に入ってドアを閉じたから、その先の痕跡が覆い隠されてしまってるんだ」
修一が顔を近付けてみても、全く分からない。取っ手だと言われた部分も、よく見ればそう見えないこともない、といった程度で、他にある岩の窪みと違いが分からなかった。
「ゼーちゃん」
「はい」
「俺は、普通の扉と鍵なら目を瞑ってても開けられる自信があるけど、擬装扉には鍵穴があるわけじゃないよね?」
「はい、使用者本人か、使用者から渡される専用の扉解錠機が必要になります」
「やっぱりそうだよねえ、……俺の、言わんとすることは分かるかい?」
「勿論ですよ。――私が、開けなければならないんですよね?」
ゼーベンヌは、おもむろに岩壁に近付くと、そこに手を当てて何かを探り始めた。エイジャは邪魔にならないように、修一の横に並んで待つ。
一分か二分ほどそうしていたゼーベンヌが、小さく「ここね」と呟くと、彼女は腰のポーチから、小さな板を取り出す。「“アナライズ”」と唱えると、手にした板が淡い光を発し、それを見たゼーベンヌが、板の上で指を滑らせていく。しばらく操作してからその板を岩壁に押し付けると、甲高い電子音に似た音が鳴り、板の光が消えた。
「……よし、これで魔導機械としての機能は全て破棄されました。あとは、岩壁と同じ強度の、鍵の掛かった扉があるのと変わりません」
「それは、どうするんだ?」
「こうするのよ」
ゼーベンヌが壁から距離を取ると、岩壁の前の平坦な場所を選んで腕輪からバイクを取り出した。重量三百キロ近いようなバイクがあんな小さな腕輪の中に納まっているなど、何度見ても修一には冗談にしか思えなかった。
そしてバイクに跨ったゼーベンヌがエンジンスイッチを入れると、「離れていてください」と告げる。
エイジャと修一は、嫌な予感がしたため素直に従った。
修一たちが十分に離れたのを見計らったゼーベンヌは、発射装置を操作して擲弾砲機術を岩壁に向けて撃ち込んだ。ほぼ水平に打ち出された二発の砲弾が岩壁に命中し、大きな音とともに爆炎をあげる。
岩壁は一瞬で炎と黒煙に包まれた。
「うおっ!?」
「わぁお!」
「…………!!」
三者三様に驚きの声をあげ、周りの木に燃え移りそうになっている炎を修一が慌てて熱を集めて消した。バイクから降りて腕輪に収納したゼーベンヌが「ごめんなさいね」と言ってきたが、顔は全く申し訳なさそうにしていない。
――こいつ、案外危ない奴なんじゃないのか?
修一が不安に思っている横で、エイジャは面白いものを見たとばかりに手を叩いてゼーベンヌを褒めていた。どうやらエイジャも見るのは初めてだったらしい。部下がこんなもの持ってることはきちんと把握しとけよと、思わなくもなかった。
ともあれ、砲弾二発を喰らった岩壁は、もはやなんの役にも立たぬゴミと化した。
空いた穴から中に入れば、洞窟内のようなひんやりとした空気が肌を刺し、意外に滑らかな、明らかに人の手が入っていると思わせられるような岩壁の通路が奥へ奥へと伸びていた。
三人は、その通路をひたすら奥へ奥へと歩いていく。
通路は緩やかな下り坂になっており、途中で何度かカーブしながらもずっと一本道であった。
罠でもあるかと思えばそれもなく、それどころか途中から魔導ランプが等間隔に設置されており、まるで招かれているような雰囲気ですらあった。
「まるで秘密基地みたいだな」
「まるで、じゃなくて、まさしくそのとおりだと思うよ。オーガたちが何をしてるか知らないけど、ここは奴らにとって、隠れ家なんだよ」
そして最後のカーブを曲がると下り坂が終わり、直線になった通路の先には、大きく広がった空間が見えたのだった。
* 明日十二時に次話を投稿します。




