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閑話 冒険者の話 2

 ◇




「あの、お客様? 大丈夫なんですか?」

「え? ああ、大丈夫大丈夫、ちょっと面白い話をしてただけだから」

「いえ、そうではなくてですね」

「「外での戦闘のことですよ、お嬢さん」」

「ああ、そっちか」


「確かにお客さんたちには、何かあった時に戦ってもらう代わりに料金を割り引かせてもらっていますが」

「そうなの? って、うわ!」

「……ええ、そういう約束にしていますよ、メイビー」

「そ、そんな怖い顔で言わないでよ、……それで?」

「で、ですが、それでもあの数相手では流石に危ないのではありませんか?

 誰かが大怪我をする前に、引き返すこともできますが?」


「何体くらいいるのさ」

「ざっと見ただけでも、三十以上はいたかと」

「ふーん、ま、大丈夫だって。

 ヘレンちゃんたちの実力は知らないけど、シューイチがいるからね。

 ものの数分で終わると思うよ」

「そ、そうですか?」


「「随分と、信頼しているのですな」」

「だって今更レッドキャップ程度じゃねえ。

 そりゃ、他のが追加で来たら分かんないけどさ。

 そもそもこの辺ってそんなに頻繁に魔物が出るの?」

「いえ、私もここで馬車を走らせて長いですが、二か月に一回出るかどうかといったところです」


「でしょ? じゃあ問題ないよ。引き返さなくてだいじょーぶ。

 それに、オジサンたちは半年ぶりに家に帰るんだし、邪魔する奴が出てきたら僕がぶっ飛ばしてあげるよ!」

「「これはこれは、なんとも頼もしいですな」」

「ふふん、任せといて!!」


「……えっと、お連れさんはあんな事言ってるけど、貴方はそれで大丈夫ですかい?」

「もちろんですよ。

 私もメイビーと同意見です」

「はあ、……それなら私もあの人たちを信じましょうか」

「是非ともそうして下さい」




 ◇




「だんだん戦闘音が聞こえなくなってきたね」

「そうですね、もうそろそろ終わるんじゃないでしょうか」

「ほ、本当にもう勝ったんですか?」

「多分ね」


「ただいまーっと」

「あ、お帰りなさい。

 片付きましたか?」

「おう、全滅させてきた。一匹だって残ってないよ」

「流石だねえ」


「それにしても良い剣だな、これ。

 デザイアが言うには特注品らしいが、不思議と俺の手に馴染むんだよな。

 重心も、切れ味も、強度もか、前の剣より段違いに優れてるよ」

「おおー、良かったね」

「しかも、片側の刃はデザイアが自ら波濤で削ってくれたらしくてな。

 まるで最初から片刃だったような滑らかさになっているんだよ!

 いやー良い! 実に良い!!」

「う、うん?」

「デザイアの奴がいきなり俺の事を友人だのと呼んできた時は何の冗談かと思ったが、うん、やっぱりアイツは良い奴だな!

 職務も真面目にこなしてるし、愛国心もある。人情に篤いし実力も抜群だ!

 いやあ、素晴らしいな!!」

「えっと……?」


「……よし、これぐらい褒めときゃいいだろ」

「へ?」

「今みたいに関係のないところでひたすら褒めることを、俺の故郷の言葉でステマと呼ぶんだ」

「……そうなんですか?」

「勿論だとも」

「……なんか、嘘言ってる時の顔してるように見えるのは気のせいかな?」

「気のせいだろ。

 あー、しかし思ったより疲れたな」


「レッドキャップってそこまで強くないでしょ?

 そんなに疲れるほど数がいたの?」

「数は全部で、…………三十六匹だったな。

 冒険者のアイツらが十五匹くらいで、後は俺が斬り伏せた」

「それじゃあ別に大したことないんじゃないの?」

「それがなあ、途中で別の奴が来てなあ」

「え?」


「多分、レッドキャップの群れを餌だと思ったんだろうな、空からいきなり鳥みたいなのがやってきて俺たちごと攻撃してきやがった。おかげで冒険者の盾持ってた奴以外が軽い怪我を負ってたよ」

「ヘレンちゃんも!?」

「ヘレンが誰か知らないけど、盾持った奴がそんな可愛いらしい名前じゃなければそうだな。

 まあ、そんなキツイ攻撃じゃなかったから、すぐに修道女っぽいのが回復してたよ」

「そっか、良かった。

 えっと、その空から来たのって、一体何だったの?」


「さあ? 名前は知らんよ。

 ただ、体中をキラキラさせて雷を落としてきやがったからさ、飛線で首を刎ね飛ばした。

 一撃で落ちてきたからそんな大したことはないと思うんだが、やっぱり奥義を使うと疲れるな。

 折角寝たのにまた眠くなってきたよ」

「雷、ってシューイチさん、それはもしかして――」


「……ただいま」

「あっ! ヘレンちゃん大丈夫?」

「うん、……平気だよ」

「そっかあ、良かったよ」

「心配、してくれて……、ありがとね」


「先輩、戻りました」

「戻ったよー」

「テリム、ウール、二人ともお疲れ様です」

「本当さね、まさか、サンダーバードが来るとは思わなかったよ。

 あー、ビックリした」

「やはり、サンダーバードでしたか」


「ああ、俺も肝を冷やしたよ」

「お、これで四人とも戻ってきたな。

 お疲れさん、なかなかやるじゃないか。

 四人での連携がきちんと取れてたから、俺は安心して目の前の魔物を狩れたよ」

「アンタ、一人でレッドキャップ十数体とサンダーバードを倒しておいて良く言うよ。

 しかもサンダーバードの雷撃を躱したかと思えば、訳の分からない攻撃一発で倒しちまったし」

「訳分からんとは失礼な、ウチの流派の奥義だぞ?」

「ということは、魔術じゃないんだろ?

 ますますもって訳が分からんよ」

「むっ……」


「「はは、皆さんありがとうございました。我々は皆さんの勝利を祈る事しか出来ませんでしたからな。深く感謝しますよ」」


「ん」

「おっと、そんな丁寧に言われると恥ずかしいな」


「えっとお客さん、もう馬車を走らせても大丈夫でしょうか?」

「ああ、剥ぎ取りも終わったし死骸も街道の脇に寄せてあるよ」

「それなら出発させますね。そちらのお二人の村まで行くためには、あまりここで時間を無駄にするわけにはいきませんので」

「「よろしくお願い致します」」


「……なあ、アンタらそうやって声を揃えてるのは、」

「ワザとだってさ、シューイチ」

「……そうかよ」




 ◇




「な、なあ、本当に、第四騎士団の団長さんと知り合いなのかよ!」

「本当だって言ってんだろ。ほら、この剣なんかデザイアから直接貰った物だよ」

「うおっ! 凄え! ドランキッシュ家の紋章が入った騎士剣じゃねえか!

 頼む、譲ってくれないか!?」

「馬鹿言うなカブ、友情の証に貰ったモンを人にやれるかよ」

「そ、そうか、そうだよな……」


「そんなに落ち込むなよ、代わりといっちゃあなんだが、倒した魔物の報奨金とかは全部やるからよ」

「いや、そっちの方が受け取れねえよ。

 半分以上アンタの手柄じゃないか」

「俺は騎士剣の性能を試せただけで満足だからな。

 遠慮するなよ、新しい町での門出を祝う俺からの祝い金だと思ってくれればいいからよ」

「そ、そうか? 済まないな」

「いいって事よ」


「先生、次はどうやって折ればいいでしょうか?」

「ん? ここを、こうやって、これを折り込んで行くんだよ」

「成程、この部分が耳になるのですね」

「そういう事だ。

 ふむ、テリムもノーラと同じくらい飲み込みが早いな。

 いやあ、教えるのが楽だ、どっかの不器用なエルフとは大違いだ」


「シューイチー、聞こえてるからねー」

「おっとスマン、でも事実だろうが」

「……まあ、事実だけどさ」


「先生、次をお願いします」

「お、次はだな、……っていうか、なんで先生なんだ?」

「人から知識や技術を学ぶのであれば、相手に敬意を払うのは当然でしょう?」

「んー、まあ、良いけどさ。

 そっちをこうやって、こことここを合わせるんだよ」

「おお、出来ました」

「それでだな、――」



「まあ、あっちは男どもでワイワイやってるんだから、あたしたちは女同士で仲良くしようよ」

「そうですね、仲良くなってくれるのは良いことです」

「……メイビー、って呼んでいいの?

 年上、なんでしょ?」

「全然いいよー、僕は気にしないし」

「……えへへ、ありがとね」


「ところで、どうしてメイビーはヘレンのことをちゃん付けで呼ぶのですか?」

「いや、なんか親近感が湧くんだよね。

 使ってる武器とか、斥候術が使えるところとか、年の割に小柄なところとか、……大いなる存在が仲間にいるところとか」

「! ……メイビーも、分かるのね」

「勿論だよ、ねえ」


「えっと、どうして私を見るのですか?」

「ヘレン、そんな目で見たってあたしの胸は小さくならないよ?」

「へ? そういう事なんですか?」

「当たり前じゃないか」


「……むう」

「うーむ、いつ見ても凄いや」

「そんなにまじまじと見つめられると、少し恥ずかしいのですが」

「ははは、照れることはないよノーラ、逆にもっと見せつけてやろうじゃないか、……おや?

 シューイチがこっちに来るよ? 一体何だろうね」


「ノーラ」

「はい、なんでしょうか」

「俺さ、さっきの戦いのせいでまた眠いんだよ。だからさ、テグ村に着くまで寝ててもいいかな?」

「ええ、もちろん。それくらい、私に許可を求めなくても――」

「それでだ、その、えっと……」

「何ですか?」


「……カブ、テリム、本当に言わないとダメか?」

「おうよ」

「勿論ですよ先生」

「……ノーラ、それでだな、良かったらなんだか」

「……はい」


「……その、…………膝を、貸してくれないかな、と」

「はい、…………はい?」


 ――おい、なんか呆気に取られてるじゃねえか、本当に大丈夫なんだろうな!?


「……! ねえねえノーラ、そういえば折り紙を教えてもらったお礼はしたの?」

「へ? え、あの……?」

「したの、してないの、どっち?」

「してない、です?」


「おっと、それは良くないねえ。こんな凄い物貰ったら、あたしならその人のために全力で祈ってあげちゃうよ。それを何にもしてないってのは、お天道様が許さないねえ」

「? ……二人とも、何を言っ、ムグっ!?」

「(ヘレンちゃん、今は静かにしといて)、さあノーラ、今こそお礼のときだよ! 折角シューイチの方から申し出てくれたんだから、それを有効活用しようよ!」

「…………」

「えっと、ノーラ? どうしても嫌っていうなら、さっきのは聞かなかったことにしてくれていいからな?」

「……………………」


 ――おお、表情だけで内心の葛藤が透けて見えるとは。なんとも弄り甲斐があるねえ。


 ――ノーラ、頑張れ! 何か、もう一押しできるものは……!


「モガモガ、ぷはっ、シュ、シューイチさん」

「ん? えっと、ヘレンだっけ? どうした」

「えっと、わ、わたしと、ノーラさんだったら、……どっちに膝枕、してもらいたいですか!?」


 ――ヘ、ヘレンちゃん!? 一体何を!?


「えっと? それならやっぱり、……ノーラだな。ノーラの方が良い」

「!」

「……だ、そうです、よ?」

「……そうですか、それなら、いつもお世話になってるシューイチさんに膝枕ぐらいしてあげるべきでしょうね」


 ――おお! これは!

「(……メイビー、これで、いい?)」

「(もちろん!)」

「(えへへ……!)」


「さあどうぞ、ここで寝て下さい」

「え? マジでいいの?」

「はい」

「それじゃあ、……遠慮なく?」

「…………んっ」


 ――やべえ、思ったよりも気持ちいい、恥ずかしくて寝れるわけないと思ってたけど、これは……。


 ――どうしましょう、シューイチさんの体温が太股から伝わってきます。なんだか気持ち良さそうにしてますし、寝顔も良く見たら可愛らしいような気がしてきました。あ、頭とか撫でてあげてもいいんでしょうか? で、でも、そんなことまでするのは流石に恥ずかしいような……。




「おや、見て下さい」

「何ですかな? おやおやあれは」

「微笑ましいですなあ」

「若いですなあ」


「「全く持って、羨ましい」」




 次話から第5章に入りますが、またしても書き溜めがなくなりました。

 書き溜めが出来次第投稿を再開したいと思っております。

 それでは皆さん、良いお年を。

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