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閑話 冒険者の話 

 ◇




「それでは改めて自己紹介をさせていただきたい。

 俺の名前はカボレスト、仲間からはカブと呼ばれてる。

 一応、この冒険者パーティーのリーダーって事になってる」

「一応?」

「……他にまとめられる奴がいないから、仕方なくな」

「あー……」

「仕事は、主に壁だ。後ろの仲間に攻撃が届かないように大盾を構えながら剣を使ってるんだが……」


「どうしてそこであたしの顔をまじまじと見るんだい?

 おっと、あたしの名前はウールだよ。

 さっきはありがとね、タダでこんな面白そうなモン貰っちゃって。

 ああ、優しき二人に太陽神様のご加護があらんことを」

「いえ、お気になさらずに。

 それより、ひょっとして神官さんなんですか?」

「そうだよ。偉大なる太陽神様の敬虔な信徒さね。

 どうだい、アンタらもウチの神様を信仰してみないかい?」


「いえ、我が家は旅行と商売を司る風雲の神を信仰していますので」

「僕、というか僕の集落ではみんな妖精神様を信仰するようになってるから」

「なんだ、それなら仕方がないね」


「……ウール、こんな所で勧誘しないで。

 あ、わたしの名前はヘレン、です……よろしくね」

「えっと、ひょっとしてだけどヘレンちゃんって斥候術が使えたりする?」

「! ……どうして分かったの?」

「いや、僕も使えるから何となく分かるんだよ」

「そうなんだ……」

「あと、武器は腰に差してる二本のダガー?

 良い腕してるんだねえ、なかなか丁寧に使い込まれてるのが分かるよ。うん、素晴らしい」

「あ、……ありがとう、ございます」


「褒められ慣れていないヘレンが照れていますね。

 僕の名前はテリムです。

 標準魔術と、雷属性魔術が少々使えます。

 若輩者ですが魔術師ギルドに加盟させていただいています」

「おや、私と一緒ですね。私もギルドに加盟してるのですよ」

「なんと、それなら貴女は僕の先輩という事になるのでしょうか?」

「私が加盟したのが三年ほど前の事ですから、貴方がそれよりも後なら後輩ですね」

「僕は半年前の事です。先輩、先程はウールに便乗して失礼しました。

 この折り紙というものが非常に興味深かったもので、つい悪乗りをしてしまいました」


「テリム、さり気なく人のせいにするのは止めてくれないかい?」

「気にしてませんが、先輩というのはちょっと気恥ずかしいですね」

「いえいえ、僕は先達をきちんと敬うようにしていますので先輩と呼ばせていただきます」


「そうですか、それならこちらも自己紹介をしましょうか。

 私の名前はノーラと申します。

 そちらのメイビーと、」

「どうもー」

「そこで寝ているシューイチさんに護衛してもらいながら首都スターツにある実家に帰っているところです。

 貴方たちはどちらに向かわれているのでしょうか?」


「俺たちは、その手前にある港町ファステムに向かってるんだ」

「元々あたしたちはサーバスタウンの近くにある小さな村の出身でね。

 大きな町に出て一旗揚げてやろうと、ここにいる皆でパーティーを組んで冒険者として活動していたのさ」

「これまでサーバスタウンで活動を続けていましたが、数日前にもう少し大きな町に行ってみようという話になりファステムを新たな活動の場とすることにしました」


「えっと、ヘレンちゃんたちって、いくつなの?」

「……十七歳、……全員一緒、です」

「みんなシューイチより若いんだねえ、……やっぱり故郷じゃ働き口がなかったの?」

「いや、そんなことはないぞ」

「え?」 


「僕たちの村の近くには大きな川が流れていますので、そこでの漁業が盛んに行われています。

 働こうと思えばいくらでも働けました。しかし、」

「そんなの、つまらないじゃないか」

「えっと……?」


「あたしたちはね、あんな小さな村で一生を終えるなんて嫌なんだよ。そりゃあ、そこで静かに暮らしていれば依頼の度に命の危険を感じたりすることも無くなるんだろうけどさ、それじゃあ駄目なんだよ」

「ダメなの?」

「駄目さ。

 あたしはね、小さい頃に太陽神様の啓示を受けて信仰に目覚めたんだ。

 それ以来、よりたくさんの人に太陽神様を信仰してもらうのがあたしの目標なんだよ。

 でも、あの村では別の神様の信仰が盛んだからこれ以上信者を増やせないんだよ」


「成程、だから新しい町へ行って勧誘の機会を増やしたい、と」

「そうさ、――まあ、カブやテリムが同じように村を出たがってたから、それに便乗して冒険者になるって言って村を出たんだよ」


「便乗ってお前……、えっと、俺は騎士団に入りたいんだ。

 そのために鍛練もしているが、やはり実戦の中で鍛えるのが一番早いと思ってな。

 なかなか俺の後ろにいてくれない奴もいるが、それもまあ、練習だと思ってる」

「へえ」

「だから、そこであたしを見ないでくれよ」


「僕は偉大なる魔術師になりたいと思っています。

 そのために高名な魔術師に弟子入りしたいのです。

 独学で魔術を覚えるのはどうしても効率が悪いですから」

「熱心なんですね」

「魔術師ギルドに加盟したのもそれが目的です。

 ギルドに加盟したうえで魔術師として活動していれば、他の先輩方の目に留まりやすいですからね。

 そうだ、先輩は僕を弟子にしてくれたりしませんか?」

「えっと、ごめんなさい。私も他人に教えられるほどの技量はありませんので……」

「そうですか、それなら仕方がないですね」


「……わたしは、村にいても良かったんだけど、……みんなに誘われたから」

「それで良かったの?」

「うん、……みんなといると面白いもん」

「ふーん……」


 ――ノーラの言ってたとおりだ、皆故郷で暮らすだけじゃ物足りないから、大きな町に出て行っちゃうんだなあ。



「まあ、しばらく一緒に移動することになりそうだから、その間はよろしくね」

「はは、こちらこそよろしく頼むよ」

「カブ、よろしくはいいけど口説こうとするんじゃないよ? そんなことしたら神罰を下してやるからね?」

「なっ、バカ! 滅多な事言うんじゃねえよ!」

「はんっ、鼻の下伸ばしてる奴の台詞じゃないね」

「伸ばしてねえよ!! それにそんなこと言ったらテリムだってそうだぞ!」


「カブ、僕を巻き込まないで下さい」

「そうだよ、テリムは口説いたしないさ、そんな度胸無いからどうせ一人でコッソリと――」

「ウール!?」


「? ……一人で?」

「ああ、ヘレンは気にしなくていいよ。まだ早いからね」

「……わたしたち、同い年なんだけど」



「…………んう、騒がしいな」

「あ、シューイチさん」

「賑やかだけど何かあったのか?」

「いえ、そちらの方たちと仲良くなりまして」

「ん?」

 ――金属鎧の男、皮鎧の女、杖を持った男、修道女っぽい女、……ああ、一緒に乗った冒険者? ってやつか。仲良くなるのはいいんだが……。


「すまない、もう少し静かにしてもらえねえかな。昨日は一睡もしてなくて眠いんだ」

「あ、ああ、こちらこそ騒がしてしまって申し訳ない」

「おう、頼むよ、…………む?」


「どうしたの、シューイチ?」

「……多分もうすぐしたら、この馬車止まるぞ」

「え、それって、うわっ!?」


「な、なんだい!?」

「これはっ!?」

「「なんと!」」


「きゃ、……あれ?」

「ノーラ大丈夫か?」

「あ、受け止めてくれたんですか、……って」

 ――シューイチさん、か、顔が近いです……!


「おいおい、本当に止まっちまったぞ?」

「……どうして?」


「み、皆さん、大変です!!」

「御者さん? どうしたの?」

「街道上に、大量のレッドキャップが!!」

「なっ!?」


「ノーラ、レッドキャップってなんだ? ……ノーラ?」

「……へ、あ、えっと、レッドキャップというのは」

「真っ赤な頭髪がまるで帽子のように見える事からその名が付いた、凶暴な魔物ですよ。

 人間の子供くらいの体格ですが、集団で襲ってくればそれなりの脅威になります」

「お、そうか、教えてくれてあんがとよ」

「いえ、なにやら先輩が動揺しているようですので僕が代わりに」

「先輩?」

「ええ」


「カブ、どうする?」

「どうするもこうするもないだろ」

「だね。よっし、あたしの信仰心で燃やしてやるよ!」

「あ、コラ! またお前は一人で突っ込む気か! ヘレン、テリム、行くぞ!」

「はい!」

「うん……!」


「よし、俺も行っとこうかね」

「僕も必要?」

「ん、――いや、そこのオッサン二人は戦えないんだろ。

 御者とノーラもいるし、メイビーはここで待機しといてくれ、どうしてもヤバかったら呼ぶから」

「りょうかーい」


「さて、貰った剣の使い心地を確かめようかね」




「ノーラ、大丈夫? 顔赤いよ?」

「はい、大丈夫です……」

「…………んー、……これさ、もっと後でシューイチを弄るのに使おうと思ってたんだけどさ」

「はい、……はい?」


「一昨日さ、ノーラが気絶してシューイチが背負って歩いたって言ったでしょ」

「え、はい、言っていましたね」

「その時のシューイチってさ、――あ、耳貸して」

「はい……?」


「(ノーラの胸が背中に当たった途端、嬉しそうな顔してたからね)」

「!!? な、何を――」

「(僕が見てるのに気付いて顔を引き締めてたけど、その後もちょこちょこ顔が緩んでたからバレバレだったよ。あと、身体を支えてた両手も太股とお尻の間の際どいところ触ってたし、多分わざとだね。なんだかんだ言ってシューイチも男の子だから、多分ドキドキしながらノーラを背負ってたんじゃないかな? ノーラの身体って柔らかいもんねえ、ついつい指がいやらしく動いても不思議じゃ――)」

「~~~~っ!?!? メイビー!!!」

「おお、ノーラの顔が一瞬で真っ赤っ赤になった」

「ど、どうして今、そ、そんな話をするのですか!?」

「いや、ノーラの顔が赤かったから」

「へ? いやいや、意味が分かりませんよ!?」

「このネタでシューイチを弄ろうと思ったらノーラが一緒にいないといけないんだけどさ、そしたら今みたいにノーラの方がダメージ大きそうだったからねえ。

 今の内にノーラには話しておいて、いざという時に備えようかと」

「いざって、……一体どんな場面ですか?」



「決まってるじゃない、――残ったおかずの取り合いだよ」

「…………」

 ――……絶対に、絶対に、……そんな場面では使わせませんよ!!




 * 明日十二時に次話を投稿、したいです。頑張ります。

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