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第4章 デザイア

 お待たせ致しました。第4章開始です。

 ◇




 修一たちがパナソル最西端の町ベイクロードを発ってから、今日で五日目。

 ここはブリジスタの領土、その東端に程近い土地であり、最寄りの町サーバスタウンまで残り数キロメートルといったところである。


 朝方から歩き始めてしばらくしたところで修一は、街道を少し外れたところにある森に何かが潜んでいることに気付いた。


 森から街道までの距離はせいぜい二十から三十メートル程度であり、その間は短い草が生えるだけの平原となっている。


 潜んでいる何かが自分たちに対して明確に敵意を向けていることが肌で感じ取れたため、こちらに襲ってくる可能性が非常に高いと判断した修一は、そのまま道を進むのではなく平原で迎え撃つことにした。

 

 森に近付きながら、またもや盗賊が現れたのかと思っていたのだが、そこから飛び出してきた存在を目にして思わず眉を寄せる。

「なんだ、ありゃあ?」


 飛び出してきたのは、人間ではなかった。武器を持ち、人間と同じような体格であったため最初に認識・・したとき誤解していたのだが、その見た目は到底人間とは思えないようなものだった。


 土気色の肌に大きく伸びた牙、目は血に濡れているかのように赤く白目が見えない。

 その形相はさながら鬼の様であった。


 全部で五体ほど森から飛び出してきており、斧や棍棒のような武器を構えたまま、じりじりと修一たちに近付いてくる。


「うわ、あれってボガードだ」

「ボガード?」


 メイビーの呟きを聞きながら、剣を抜いて構える修一。

 そこにノーラが補足を入れる。


「ボガードというのは、人に近い姿をした魔物です。

 性格は残忍で凶暴、非常に好戦的で人間と見れば問答無用で襲ってくるような連中です。

 生産性は皆無に等しく、他の生物や人間からの略奪で生活をしています」


「ほう、それはそれは」

「……しかし、本来ならこんな町の近くの森に現れるような魔物ではないはずなんですが」

「でも実際にいるならしょうがないんじゃない? 退治しなきゃ不味いでしょ」


 メイビーも修一の二歩ほど後方で小剣を抜き、いつでも魔術が使用できるように準備をする。

 ノーラが戦闘に巻き込まれないように距離を取りつつ、振り向きもせずに修一は問う。


「とりあえずだ、アイツらは人間じゃなく、魔物なんだな」

「ええ、人間とは相容れない存在ですね」

「上等だ」

 手にした剣を回転させ、刃引きをしていない方で斬り付けられるようにする。


 ――人間じゃねえなら、手加減無用だ。


 口の端を吊り上げながら駆け出す修一。

 彼にとって、人間に害をなす生物は駆除されて然るべきものなのである。


「全員、ぶった斬ってやる」



 そしてボガードたちが反応するよりも早く、黒髪の男は集団に斬りかかっていった。




 ◇




 戦闘開始から数分が経過した現在、ボガードたちは極めて劣勢に立たされている。

 既に十数体が修一とメイビーに斬り伏せられており、残りは数体となっていた。


「しゃあああ!!」


 更に一体が、修一によって胴体を真っ二つにされ崩れ落ちる。

 本来、ボガードの筋力は一般的な人間と比べてはるかに高く、剣の打ち合いになれば自然と人間が不利になるものなのだが、修一の場合打ち合いにすらならないのだ。


 いくら筋力が高くても、敏捷性の面では人間とそこまでの差がなく、器用さなら人間に劣る。

 そんなボガードたちの剣を修一がまともに喰らうはずがなかった。

 敵の攻撃を躱し懐に潜り込めば、後は一撃で決着が着く。

 そんな一対一を何度も繰り返し数で囲まれる前に数を減らすことで、ほとんど一方的に攻撃し続けていた。


「せいやあ! ――“ウインドカッター”!!」


 メイビーに関しても、移動速度を上昇させる風属性魔術を使用することにより、小剣で斬り付けては距離を取り魔術での遠距離攻撃を打ち込むといった、ヒットアンドアウェイ戦法でボガードの攻撃を封殺していた。



「グガガ!」

 と、そこで、ボガードの一体が修一とメイビーに目もくれず、二人の後ろにいるノーラに狙いを定めた。

 棍棒を振り上げながらノーラ目掛けてボガードが突撃する。


 その様子を見たノーラは、一瞬だけ身構えようとしたが、


「そっちはダメだよ!」


すぐにその必要はなくなった。


 速度を上げたメイビーが戦っている相手から離れノーラに近付く魔物に接近すると、両腿を小剣で斬り付けて動きを止める。


「何してやがる! 飛線!!」


 そして、修一が目の前の敵を斬り倒すと同時に振り返り、両腿を斬られたボガードに向けて剣を振るう。

 そこから飛び出した斬撃は一撃で魔物の首を刎ね飛ばし、頭部を失った肉体はそのまま地面に倒れ伏した。


 申し訳なさそうにしながらノーラに駆け寄る修一。


「あ、ありがとうございます」

「すまん! 一体抜かしちまった。

 メイビー! サンキューな」

「いいよー」


 そう言いながらメイビーは、自分が置き去りにしたボガードに再び斬りかかり、最後は風刃魔術でトドメをさした。

 驚くべき移動速度であり、その様子を見ていた修一は感心したような声をあげる。



「ふう、これで全部かな?」

 視界内の敵を一掃したことで満足そうな声を出し、額の汗を拭いながら修一たちに歩み寄るメイビー。


「お疲れさん、と言いたいところだが、森の中にもう一体いるな」

 そこに修一からの警告が聞こえたためもう一度森の方向に目を向ける。


「本当?

 ……あー、なんかデカいのが出てきたね」


 森の中から出てきたのは、先ほどまで相手をしていたボガードたちより二回りほど大きな身体のボガードだった。

 剣と盾を両手に持ち、他の個体よりも上等な防具を身に付けており、赤く濁った眼で修一たちを睥睨しながら、ゆっくりと近づいてくる。


「あれは、……ボガードコマンダー、ですね」

「なんだそりゃ?」

「この連中は強い者が群れを統制する習性があります。

 そして、通常のボガードより身体が大きく戦闘能力の高い個体を区別するために、このような名前が付けられています」


 修一がノーラとメイビーの前に立ち、二人を庇う。


「それじゃあアイツは自分の部下が全部やられるまで黙って見てたのかよ。

ボスとしてどうなんだ、それは?」

「まあ、人間に負ける部下なんていらないと思ってるんじゃない?」

「随分と慕い甲斐のない上司だな、おい」



「グガアアア!!」

 修一の前に来たボガードコマンダーは、怒りを孕んだ眼を向けながら大声で吠えた。

 剣と盾を打ち合わせ鈍い金属音を響かせながら威嚇をしてきているが、修一はまるで意に介していない。

 威嚇なんかしてないでさっさとかかってこいよと思いながらも、相手に言葉が通じるとは思えなかったので無言で剣を構えただけだった。


 やがて威嚇を終えた魔物は、左手の丸盾を前に突き出し、右手に持った武骨な剣を後ろに引く。半身になり、力を溜めるような構えとなった。


 ――掛かってこないのなら、俺から行くぞ。


「オラあっ!」


 修一が袈裟懸けに斬りかかる。

 魔物はそれを悠々と盾で防ぎ、そこからお返しとばかりに後ろに引いていた剣を振る。

 上段を通って振り下ろされる魔物の剣は、まともに受ければ剣ごと叩き斬られそうだ。


 もちろん、まともに喰らうつもりはない。

 修一は体ごと半歩横にずれて剣を躱す。

 そのまま地面に叩きつけられた武骨な剣は大きな音とともに地面に深々と刺さり、攻撃を躱されたボガードコマンダーは不機嫌そうに唸りながら剣を引き抜く。


 半ばまで地面に埋まっている剣を何の苦もなく引き抜いた魔物は、再び盾を前に突き出す構えを取る。

 どうやら、盾で相手の攻撃を防いだ後、力を溜めた剣でカウンターを取る、というのがこの魔物の戦闘スタイルのようだ。


 群れを統制する「司令官」の名を冠するだけあって、他の個体と比べて知能も高いのだろう。

 自分が使っている武器をきちんと活用することが出来るらしく、先ほどの連中のように闇雲に突っ込んできたりはしない。

 修一は盾を使った戦い方を見たことがなかったが、自らのおぼろげな記憶から、さながら古代ローマのグラディエーターみたいだと感じていた。


 阿呆のように斬りかかるのは良くないだろうと思った修一は、いきなり斬りかかるのではなく何度かフェイントを挟んでから魔物の首を目掛けて突く。

 しかし、魔物はフェイントに惑わされずに盾で修一の剣を跳ね上げると、今度は一歩踏み込みながら剣を横に大きく払い、修一の胴体を狙ってくる。


 喰らえば間違いなく体が真っ二つになるであろう攻撃に対し、修一は弾かれた剣を魔物の剣に向けて振り下ろしながら後方に跳ぶ。

 突きを繰り出すために深く踏み込んでしまい、普通に下がっただけでは間に合わないと判断したのだ。


「うおっ!?」


 剣と剣がぶつかる鈍い音が響き、その衝撃を利用して自分が跳んだ以上に後方へ下がる。

 直撃は避けたが、代わりに打ち合わせた剣が心配になった。

 チラリと目を向ければ、打ち合わせたところが大きく刃こぼれをしており、更にそこから小さく亀裂が走っている。


 ただでさえ修一の使っている剣はベイクロードの一件でガタがきていたのだが、先程の一撃で更にひどくなってしまったらしい。


 ――次に剣を打ち合わせたら、そのまま折れるんじゃないか?


 そんな不安を感じながらも、再び同じ構えを取っていた魔物の剣を見る。

 修一の使っている剣と比べて切れ味は悪そうだが、肉厚で長大な剣はそれだけ頑丈であるらしく、少なくとも先程の衝撃程度では何の異常もないようだ。


 軽く舌打ちをした修一は、魔物が持つ盾と剣に交互に視線を送り、剣を構えたまま数秒ほど動こうとしなかったが、やがて何事かを呟いたかと思うと、


「まあ、人間じゃないし良いか」


と結論付け、左手一本で(・・・・・)剣を振り上げた。



 半身に構えたまま修一の攻撃を待っていた魔物は、修一が剣を振り上げたのを見て盾を握り直す。

 そのまま真っ直ぐ振り下ろされた剣を先程と同じように盾で受け止めたのだが、残念なことにその衝撃が今までと比べてはるかに小さなものであることに疑問を抱かなかった。


 そこから、溜めた力を開放し目の前の小さい人間を今度こそ殺してやろうと思いつつ剣を振ろうとして、


 ――――パチン

「グガ!!」


 自分が握っていた盾と剣が、いきなり(・・・・)高熱を帯びた(・・・・・・)事に驚き、思わず手を離してしまった。


 そして、その隙を修一が見逃すはずはなく、


「おりゃあ!」


半身でいたため前に突き出されていた魔物の左足の膝を体ごと沈み込みながら切り裂き、返す刀で剣を振り上げることで突き出されたままの左腕を斬り飛ばした。



 そして修一は傷口から噴き出す血を躱しながら、足を斬られたせいでバランスを崩し前のめりに倒れ込む魔物の首を、一撃で斬り落としたのだった。




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