閑話 家族の話 3
※ 本日二度目の投稿です。
◇
「…………」
――眠れない。シューイチさんとメイビーは、もう眠ってしまったのでしょうか。
――シューイチさんは、あの話をするのを嫌がっていました。当然です。身内の死など、軽々に他人に話すことではありません。無理矢理聞いてしまって、ひょっとしたら、いえ、間違いなく怒っているでしょう。笑いながら話していましたが、……目だけは泣きそうになっていましたから。
――どうしたらいいでしょう、興味があるからと聞いていい話ではありませんでした。謝るべきでしょうか、いえ、謝るのも何か違う気がします。それに謝ったところで、また笑いながら、気にするな、とか言いそうです。……内心がどうであれ。
――シューイチさんが元の世界に帰ろうとしているのは、お父さんを残してきているからなのでしょう。私だって、家族に会えないのは辛い。だからこそ、こうして旅をしているのですから。メイビーだってそうですね。思えば、私たちは皆同じ理由で行動しているのですね。
――家族に会いたい。
「――ねえ、ノーラ」
「っ!?」
「あ、ごめんね、驚かせた?
今、機密会話魔術で話しかけてるから、離れてても会話が出来るし、……シューイチには聞こえないよ」
「そ、そうなのですか? いや、わざわざ魔術を使わなくてもいいと思いますが」
「んー、ノーラがいつまでもゴソゴソしてるから、シューイチの事で寝つけないのか、一人でお楽しみ中なのかどっちだろうと思って。
寝つけないならちょっとお話ししようよ。
……もしかして、一人でお楽しみ中だった? それなら僕も遠慮するから、どうぞ続きを、」
「ち、違います!! なんて事を言うんですか!?」
「まあまあ、軽いジョークだよ、半分くらいは。
それで、違うという事はやっぱりシューイチの事かな?」
「半分……、コホン、
そうです、シューイチさんの事です。」
「やっぱりね。
ノーラったら話が終わった後、ずっと思いつめたような顔してるんだもん」
「……そんな顔をしてましたか?」
「うん、僕にお母さんの話を聞いた後のシューイチくらい辛そうな顔してた」
「うっ……」
「ねえ、そんなに気にする事ないと思うよ?」
「へ?」
「僕もさ、シューイチに言ったでしょ、悪気があったわけじゃないんだから気にしなくていいよって。
シューイチだってそこまで気にしてないと思うけどな」
「い、いや、しかしですね」
「第一、僕だってお父さんの顔を見たことないし会ったこともないよ。
条件としては、シューイチと同じじゃない?」
「それは……、」
「まあ、死んでるのと、生きてるか死んでるか分からないって違いはあるけどさ。
別に親が片方いなくたって、それが最初からなら気にならないものだよ。
だから、ノーラが気に病む必要はないし、同情されるのは嫌だっていうんだから、シューイチが言ってたとおりにしてあげようよ」
「シューイチさんの言ってたとおり、ですか?」
「うん、悲しい話を明るく聞いて、悲しくなんかないんだよって解ってあげて、……不謹慎かもしれないけどさ、笑い飛ばしてあげるんだよ」
「でも、それは……、」
「それに、本当に嫌だったら最初から話してくれなかったと思うよ。
僕の話を聞くまでは自分から話そうとしてたみたいだし、……多分だけど、僕たちに聞いてほしかったんじゃないかな」
「……」
「まあ、本当のところは分からないけどね。
とりあえずノーラに出来る事は、早く寝る事と、――明日の朝、シューイチに笑顔でおはようと言ってあげる事じゃない?」
「はい? どうしてそうなるのですか?」
「あはは、ノーラの一番の武器は笑顔だよ。
もし、本当にシューイチが今日の話を気にしてたとしても、ノーラの笑顔を見たらそんなのどうでも良くなっちゃうって」
「いえ、そんな訳はないと思いますけど」
「あはは、……あっ、そろそろ機密会話魔術の効果が切れちゃうや。
それじゃあね、お休みノーラ」
「え? あ、お休みなさい」
「お休み~」
「……」
――とりあえず、寝ましょうか、メイビーと話してたら、なんだかすっきりしました。これならすぐに眠れそうです。
――笑顔で挨拶、ですか。本当にそんな事で何とかなるとは思えませんが、……折角のアドバイスです、やるだけやってみましょうか。
――それにしても、シューイチさんの辛そうな顔を見ると、胸が苦しくなるのはどうしてでしょうか? メイビーが泣いた時もそうでしたが、シューイチさんが泣きそうな目で笑っていた時、思わず抱きしめてあげたくなってしまいました。そんな事するのは恥ずかしいですし、私がするべき事ではなかったからしませんでしたけど、やってあげても良かったかもしれませんね。……いやいや、私は何を考えているのでしょう? そんな、恋人でもない異性に抱きつくなんて、とんでもないことです、けど、……もし仮に恋人だったらしても良かったのでしょうか。シューイチさんが何か悲しそうな顔をしてたり、辛そうにしてたりしたら、こう、ギュッとしてあげて、それから……それから? ダ、ダメですよ!? そ、そんな、それ以上の事は、もっとお互いの事を知ってから――――
「…………すう、すう」
◇
「……んう、――あ、朝……」
――思ったよりも、よく眠れました……そうだ、シューイチさんに、
「ん? おはよう、ノーラ」
「――おはようございます、シューイチさん」
「…………」
「昨日は、ありがとうございました。
良かったら、また続きを聞かせて下さいね」
「……あ、ああ、――ノーラ」
「はい、なんでしょうか?」
「……こちらこそ、ありがとうございました。
少しだけ、気が楽になりました」
「!!」
「……さあ、メイビーも起こして、さっさと出発の準備をしようぜ。
出来たら、今日中にサーバスタウンに着きたいな」
「ええ、そうですね」
――敬語、使ってくれるのですね。
――こちらこそ、ありがとうね。シューイチさん。
次話から、第4章に入ります。
……が、書き溜めのストックがなくなってしまいました。
そのため、次話の投稿はある程度書き溜めが出来てからになります。
ここまで読んで戴き、本当にありがとうございました。




