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閑話 家族の話 2

 ◇




「……落ち着きましたか、メイビー」

「うん、もう大丈夫だよ。

 ありがとうね、ノーラ」

「それは良かった」



「あー、すまんかった、こんな事になるとは思わなくてな。

 ちょっと、調子に乗り過ぎた」

「んーん、シューイチも悪気があったんじゃないでしょ?

 だから、そんなに気にしなくていいよ」

「ありがとな」

「うん」


「しかし、メイビーの母親は本当にどこに行ったのでしょう」

「さあ、全然分からないよ」


「それだけメイビーの事を大事にしてたんなら、理由も無しに置いていくとは考えにくいよな」

「そうですね、よほど何か、事情があったのでしょうか」

「本当に、何も心当たりがないのか?」


「うん、書置きすら無かった。

 朝起きたら、いなくなってて、そのまま帰ってきてないよ」

「その前の日は、何か変わったことはありませんでしたか」


「……なかったよ、本当に心当たりがないんだ」

「うーん……そうですか」



「なあ、メイビーの母さんの名前を教えてくれないか。

 もしかしたら、何かの時に名前を聞くことがあるかもしれないからさ」


「分かった。

 えっとね、お母さんの名前は、フラジア。

 フラジア・シュトラウスキー、だよ」


「フラジアさん、ね。

 外見の特徴は?

 エルフだという事は分かってるとして、髪と目の色はメイビーと同じか?」


「うん、僕と同じ金髪碧眼だよ。

 髪の長さは僕みたいな短髪じゃなくて、肩口より少し長めだった。

 いつもリボンで縛ってポニーテールにしてたよ」


「体格はどうですか?」

「えっと、身長はノーラより少し高いかな。あと……、」


「……どうして私の胸を見ているのですか?」

「えっとね、はっきりとは分からないけど、……多分、ノーラの方が、少しだけ大きいかな」

「ほう」

「シューイチさん?」

「よかったな、ノーラ」

「……何がですか?」


「他の特徴は?」

「んー、特にはないかな」

「そうか、まあエルフというだけでそれなりに目立つんなら、これくらいでも十分か」

「そうですね、……フラジアさんは、元々南大陸から来たと言っていましたよね」

「うん、そうだよ」


再び(・・)ブリジスタ国内に来ていれば、いくつか探す方法もあるのですが」

「んー、どうだろうねえ」

「まあ、現状はあまり期待が出来ませんね」


「ふーん? まあ結局、町に着く度に色々聞いてみるしかないのかな」

「そうだね、出来る事は変わらない、地道にやるしかないよ」



「ふむ、……それじゃあ、明日も早いしそろそろ寝るか?」

「うん、そうしよっか」

「――ちょっと待ってください」

「ん?」



「まだ、――シューイチさんの話が残っていますよ?」



「俺の話?」

「ええ、シューイチさんの家族についてです。

 先ほど言っていたではありませんか、私が話したらシューイチさんも話してくれると」

「そういえば、言ってたね」

「私もメイビーも話したのですから、シューイチさんも話してくださいよ」


「……あー、マジで?

 ていうか、そんなに聞きたいのか?」

「聞きたいです」

「……」


「別に、変な意味がある訳ではありません。

 シューイチさんが元の世界でどんな風に過ごしていたか、純粋に興味があるだけです。

 今までも、たびたびシューイチさんは元の世界の話をしてくれました。

 こちらより進んだ科学等の学問や、社会の在り方、人々の暮らしについてなど、私たちの世界との差異についてです、

 ――ですが!!」


「うおっ」

「おお、ノーラが燃えている」


「シューイチさんは自らの事については、それほど話してくれていません。

 知っているのは、能力の事と、実家の剣術の事、そして、それに付随してお父さんの話が少し出てきた位です。

 後は、お婆さんが亡くなられているという事くらいでしょうか?」

「お婆ちゃんの話なんかよく覚えてたな」


「とにかく、私たちの話を聞いたのですから、シューイチさんも話してくださいよ。

 メイビーに至っては、泣いてまで話してくれているのですよ?」


「うぐ、それは、」

「……!

 あ~~、僕もシューイチの話が聞きたいな~~、話してくれなかったら、またさっきの事を思い出して泣いちゃうかもしれないな~~」


「んなっ、さっきは許してくれただろうが!」

「へへー、覚えてないなー」

「くっ、こいつ……」


「さあ、シューイチさん、話してください」

「そうそう、観念しなよ」



「…………はあ、分かったよ、話せばいいんだろ、話せば、――ただし!!」

「は、はい」

「面白くなくても文句言うなよ?」

「え、ええ、もちろんです」

「…………絶対だぞ」




 ◇




「さて、何から話そうか……、

 そうだな、まずはお婆ちゃんの話にしようか」

「お婆さんですか?」

「ああ、俺が中学生、十五歳の時に死んだ。病気だった。

 およそ躾と呼べるものはあの人から受けたし、他にもいろんな事を教えてもらった。

 人との付き合い方とか、勉強の仕方とか、道徳や愛国心、礼儀作法や敬語、他にも色々あるぞ」


「敬語って、シューイチさんは普段全然使ってませんよね」

「うん、いっつも同じ口調だよね」


「俺は、敬意を払うべきだと感じる人以外には敬語を使わない。

 絶対にだ、冗談でも使わない」

「そ、そうですか、……って、あれ?」

 ――じゃあ、あの時は?


「俺がお婆ちゃんから学んだことは多いが、その恩を返す前にいなくなってしまった。

 孝行したい時に親はなし、とはよく言ったものだ。

 そして、お婆ちゃんが亡くなってから家事は俺の仕事になった。

 まあ、そこまで熱心だったわけじゃないけどな。親子二人で暮らしていくのに問題がない程度だ」


「ちょ、ちょっと待ってください!」

「ん?」

「あ、あの、……お、お母さんは、」

「いない」



「……え?」

「母さんは、いない。

 ――俺を生んだ時に死んだ。

 俺が知っている母さんは、写真の中とお墓にしかいない」


「……」

「はは、そんな顔するなよ、別に俺はこの事を悲しんじゃいないさ。

 もちろん、少しは悲しかったけど、元々会った事がないんだ、そこまで悲しむことはなかったよ。

 俺にとっては、ある意味母親代わりだったお婆ちゃんが死んだ事の方が悲しかった」


「そ、そうなの?」

「ああ、……ただ、メイビーの母さんの話を聞いたときは、ちょっとだけ、羨ましかったかな。

 母親ってのは良いもんだなって、それに、前にノーラの母親の話を聞いた時も少しだけ羨ましかった」

「私の、ですか?」


「おう、ノーラは母さんに勉強を教えてもらってたんだろ?

 留学するときも、応援してくれたそうじゃないか。

 それに、家族で旅行に行ったりとか、俺にはどうやっても無理だったからな」

「それは……」


「まあ、そういう訳で、高校生になってからは、俺の家族と呼べるのは親父だけだった。

 他に親戚もいなかったしな、はは、さっぱりしたもんだろ」


「……どうして、そんな風に話すのですか?」

「うん?」

「まるで、笑い話のように笑いながら話すのは何故ですか」


「ああ、だってさ、母さんがいないって聞くと同情してくる奴がいるんだよ。

 俺は同情されるのは嫌だったからな。

 悲しい話は明るく話して、悲しんでないって分かってほしかった」


「そう、なのですか」

「そうそう、……で、どうする?

 まだ、親父の話があるんだけど、聞きたいか?」


「……」

「他にも、親友の話とか、恋愛の話とか、部活の話とか色々あるけど、聞きたいか?

 折角だから、聞きたいなら全部話してやるぞ」

「……いいえ、今日はもう、遠慮しておきます」


「――そうか。

 なら、もう寝ようぜ。なんだかんだで時間が経っちまったから、そろそろ寝ないと明日に響く」


「う、うん、そうだね」

「……そうですね」




※ 本日十九時に次話を投稿します。

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