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閑話 武器の話

 ◇




「せやあ! ……よっし、仕留めた。

 鹿さん鹿さん、美味しく食べるからちゃんと成仏してね。

 …………さて、そろそろノーラの所に戻ろうかな」


「おーい」

「あ、シューイチ、迎えに来てくれたの?」


「ああ、ノーラが呼んで来いってさ。

 んん? それはシカか?

 ふーむ、頸動脈を一発ね、見事なもんだ」


「へへー、不可視化魔術と消音魔術サイレントムーブ、そして斥候術を組み合わせれば、これくらいは楽勝だよ!」

「なるほどな」

「あ、ついでに解体するから手伝ってよ」


「おう? どうすりゃあいいんだ?」

「とりあえず、もう少ししたら血が抜け終わるから、それまで待ってね」

「へいへい」



「よし、そろそろ血が出なくなったかな。

 それじゃあまず、内臓を取り出すよ」

「おおう、いきなりか」


「こうやって、取り出していって、…………よし、次は皮を剥ごう。

 シューイチ、このロープで適当な木の枝に吊ってよ」


「あいよ、……これでいいか?」

「ありがと、それじゃあ皮も剥いでいって、

 ……………………よおし、皮剥ぎも終わりっと」


「おお、なんか肉っぽくなった」

「そしたら、これを部位ごとにバラしていこう」

「おー」



「なるほどねえ、こうやって解体していくか」

「シューイチはやったことないの?」

「ああ、俺のいた世界では専門の人がやってくれてたからな。

 この世界に来た日にイノシシを仕留めたが、結局捌き方が分からずに、ベイクロードで売っちまった」


「あ、そっか、シューイチの世界ってこっちとは色々違うんだっけ」

「まあ、似たところは多いけどな。

 暦とか度量衡とか一緒なんだよな」

「どりょうこう、って何?」


「単位だよ、メートルとかグラムとかの。

 暦も、太陽暦みたいだからなあ、閏年とかもあるんだろうか?」


「ふーん、よく分かんないや」

「そうか、お、だいぶ肉らしくなってきたな、でも、量が多いな」

「まあ、そうだねー、鹿さん丸々一頭だと、三人じゃあ多いかな」


「余る分は干し肉にでもするか?」

「うーん、あれって結構時間が掛かるんだよね」

「ああ、そうなのか。

 じゃあ、俺のチカラで冷凍してからノーラのカバンに入れとくか」


「そっちの方が良いと思うよ。

 それにしても、その天恵みたいなチカラって便利だね。

 燃やすのも凍らせるのも自由自在なんでしょ?

 しかも魔力を使わないって、とんでもない事だよ」


「そうか? それなりに制約はあるし、制御も難しいんだけどな。

 俺は昔から練習してるけど、油断すると何でもかんでも灰にしちゃったりするからなあ」

「ふーん」


「ありゃ、あれはノーラか?」

「え、どこ?」

「そこの木の向こうから来てる」

「えー? ……時々思うけど、シューイチって僕らと見え方と言うか、感じ方が違うのかな?

 どうやって察知してるんだろう?」



「ああ、やっと見つけましたよシューイチさん」

「どうしたんだ? わざわざ森の中に入ってくるなんて」

「どうしたではありませんよ、メイビーを呼んできてくださいと頼んだのに二人とも全然戻ってこないから、捜しに来たんです」


「ああ、すまん。

 メイビーがシカの解体をしてたから手伝ってた」

「ごめんねノーラ、でもでも、見てよこれ、肉が一杯調達出来たよ」


「え、 ――っ!!」

「あれ、どうしたのノーラ?

 なんで後ずさってるの?」

「あー、……メイビー、多分後ろの内臓だ」

「へ? あっ」


「~~~~っ!!」

「ああ、ノーラ待ってよ!」


「……とりあえず、俺らも戻ろうか、その大きい肉塊は俺が持つから、メイビーはそっちの足とかを持って来てくれ。

 それと、その皮とか骨とか内臓は焼却処分しとこう、えい」



 ――――パチン



「凄い! 本当に一瞬で炭になっちゃった!」

「それじゃあ行くぞ、ノーラにヘソを曲げられたら飯の御代わりが出来なくなる」

「ええ! 大変だ!」

「ああ、大変だ」




 ◇




「ごちそう様」

「ごちそう様でしたー。

 ……ねえねえ、やっぱり御代わりしちゃダメ?」

「ダメです」

「ちぇっ、それなら僕は剣の手入れでもしてようかな」


「ああ、解体するのに使ってたから血まみれなのか」

「うっ、まだ私が食べてますので、あまりその話は」

「ああ悪い、でも、ノーラって内臓とか見ても全然平気そうなイメージだったけどな」


「それは、どういう意味ですか?」

「気にするな。

 それより、ちょっとその小剣を見せてくれ」

「ちょっと、どういう意味ですか!」

「いいよ、はい」

「サンキュ、ふむ…………」


 ――全長五十センチ刃渡り三十センチといったとこか、思ったよりも軽いな、鍔には鳥の羽根を模した装飾、鞘は白塗りの木製、柄に巻いてあるのは、何かの革か? 手に吸い付くようだな、柄尻に付いている飾り房も羽毛を束ねたものかな?


「……ねえ、」


 ――両刃で細身の直剣か、材質は……なんだ? 鉄や鋼じゃないのか? それに、手入れといってもメイビーは布きれで拭いていただけだったのに、刃こぼれ一つしていないとは、


「ねえってば」


 ――どれだけ頑丈な金属で出来ていても、物を斬っていれば普通は刃こぼれをするはず、ということは、これはファンタジーよろしく特殊な力が働いていて――


「シューイチ!!」

「うおっ! ……大声出すなよ、ビックリするだろ」

「いえ、ビックリするのはこちらです」

「は?」


「剣を手に持つや否や舐め回すように凝視し、あげくの果てにブツブツと呟かれたら、とんでもなく危ない人に見えますよ」

「え、マジで」

「本当だよ! なんか怖いからもう返してよ!」


「んなっ……、分かったよ、分かったからそんなジトっとした目で見るな、ほら。

 ところでメイビー」

「何?」

「その小剣は名前とかないのか? 多分普通の品じゃないだろうし、銘が入っててもおかしくないと思うんだが」


「さあ? これはお母さんが昔使ってた物らしいけど、詳しくは聞いてないよ」

「む、そうか」

「ただ、良い物なのは僕も分かるよ、発動体になるだけじゃなく、軽量化と自動修復と魔力強化の術式が刻み込まれた魔化武器だから」


「魔化武器? ……ノーラ」

「はいはい、魔化武器というのは、魔術式などが組み込まれた武器の事です。

 私が使っている警報魔術札のように魔力を込めなくても自動的に効果を表すものや、魔力を込めることで効果を発動させることが出来るものなど、種類は多岐に亘ります。

 そして一番の特徴は、僅かでも攻撃が魔力を帯びることで、通常では物理攻撃の効かない霊体などにも攻撃することが出来るようになります」


「へえ、便利だな」

「そうだったんだ!」

「……メイビーは知ってるでしょう?」

「うん! でも何となく言ってみた」

「そうですか……」


「しかし、刃こぼれしないのはいいな、俺のなんか普通の鉄製の剣だから、すぐこんな風になる」

「あー、ボロボロだね」

「一応武器屋に行って研いでもらったりしたんだけどな。

 その後二十数人と連続戦闘して、挙句に奥義まで使ったから、刃こぼれもそうだが、少しガタがきてる」

「それは、大丈夫なのですか?」

「んー、獣と戦ったりなら問題はないけど、もしワイズマン以上の奴と戦ったりしたら剣が壊れるかも知れないな」


「そういえば、シューイチのその剣ってどうやって手に入れたの?」

「山賊の男にもらった」

「もらった? ……奪ったじゃなくて?」

「もらった」

「まだ言い張るんですか?」

「事実だからな。

 ――そうだ、そういえばこの世界って刀は無いのかな」


「かたな?」

「片刃で反りのある刃物の事なら、サーベルなどがありますが」

「サーベルか、近いけど違うんだよなあ。

 無いならないで仕方ないけど、有るならあるで、是非とも一振り欲しいな」

「と言いますと?」

「俺の使う剣術は刀を使うために編み出されているから、この剣だと使えない技が結構あるんだよ」

「なるほど」


「まあ、ノーラが知らないなら無いんだろうな」

「シューイチさん、私だって知らないことはありますよ」

「いや、ノーラの知識の素晴らしさはここ数日でよく分かってる。

 はっきり言って、それは一つの武器として成り立つレベルだ。

 俺の剣術やメイビーの魔術と比べてなんら遜色がない」


「えっと、あ、ありがとうございます」


 ――ん? 褒めたら嬉しそうにしている? これは、――チャンスでは?


「そうそう、武器と言えばノーラの美しさも最早武器だな」

「えっ! な、なんですか、急に」

「俺は普段思っていることをそのまま口にしただけさ、なあ、メイビーもそう思うだろ」


 ――頼む、気付いてくれ!


「――そうだよね、ノーラってホントに綺麗だよね。笑顔とかとっても素敵だし、肌とかスベスベで羨ましいなあ!」

「メ、メイビーまでそんな、」



「だから、――後でもうちょっとだけ、ご飯を、」

「ダメです」


「……」

「……」

「さあ、日が沈み切る前に野営の準備を終わらせますよ」


 ――ダメかあ。

 ――ダメか、もう少し褒めてからの方が良かったか?




 ――…………少しだけ、嬉しかったんですけどね。最後の一言はダメでしょう。全く、しょうがないんですから。




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