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第7章 20

※ また、月末までに終わりませんでした。

 ◇




 ノーラの自室にて。

 メイビーが、扉を開けて顔を覗かせるなりノーラに尋ねた。


「ねえ、ノーラ。シューイチはまだ帰ってきてないの?」


 ノーラは若干不安そうな表情を浮かべて首を振った。

 ノーラに抱き付いているレイが、不機嫌そうに唸っている。


「まだ、……みたいですね」

「んー、何してるんだろうね。もうすっかり陽が沈んじゃったってのに」

「そうですね……」


 部屋の中に入り、扉を閉めるメイビー。

 窓の外に目をやると、暮れ切った晩夏の空が、橙色から群青色へと夜の密度を高めていっていた。

 家に帰り着くときにチラッと見えたが、今日は満月だ。

 夜と星空のキャンバスを纏めて塗り潰すように、白く輝く月がゆっくりと登ってきていた。


「すぐに帰るからよ、って言ってたのに」

「……はい」

「相変わらず、適当な事を言うよねー」

「…………」


 ノーラは押し黙ったまま答えない。

 その様子に、あれっ、と思ったメイビーは、窓からノーラに視線を動かす。

 おめかししたままで、着替えてもいない。

 レイに抱き付かれて、しわになりそうだというのに。


「どうしたの、ノーラ?」

「……いえ、なんでもありません」

「……ほんとーに?」

「……」


 メイビーは、訝しみながらノーラに近寄る。

 レイを抱き締めているノーラは、顔を俯かせたまま動かない。


「なんかさ」

「……」

「顔、ちょっと青白いよ……?」

「…………」


 メイビーの言葉に、ノーラは唇を引き結んだ。


「シューイチさんは」

「うん」

「帰ってきますよね?」

「……ノーラ?」


 ゆっくりと顔を上げるノーラの瞳は、揺れていた。

 心の漣をそのまま現しているかのように、不安定に、恐々と。

 まるで、これから恐ろしい事口にするかのように。


「このまま、どこかに行ってしまうなんてこと、ないですよね?」

「ない、と思うけど。……どうしたの、急に?」

「……先程から、おかしいのです。シューイチさんが、もう二度と私たちの前に姿を現さなくなるような、そんな不安ばかりが、心をよぎるのです」

「……」


 メイビーは、「考えすぎじゃない?」とか、「心配性だなあ、ノーラは」とか、そう言って笑い飛ばそうとした。


「…………」


 しかし、出来なかった。

 ノーラの瞳には、そんな風に言ってもいいのだろうか、と躊躇わせる何かが潜んでいた。


「メイビー」

「なにさ」

「シューイチさんは、どこに行ってしまったのでしょう?」

「……」


 そんな事、メイビーにだって分からないのに。


「私のこの不安は、ただの取り越し苦労なのですよね? もう少ししたら、いつものように笑いながら帰ってきますよね? 多少は怪我とかしているかも知れませんが、それでも、無事に帰ってきますよね……」

「……そう、だね」


 少しばかり必死すぎるような気もするノーラの言葉に、メイビーは躊躇いがちに頷く。

 メイビーだってそうであると思っているし、そうであってほしいと願っている。


 ただ、ノーラの感じる不安というものが、メイビーの心にもジワジワと染み込んできていた。

 ひび割れた瓶に溜めた水がどうやっても漏れ出していくのと同じだ。

 感情は、弱い方へと伝播する。

 一度そうなったら、尚の事である。


「……」

「……」

「…………ねえ」

「ん、どうしました、レイ?」


 ノーラとメイビーが、そのまま言葉なく見合っているところに、ノーラに抱き付いたままだったレイが呼び掛けてくる。

 慌てたようにノーラは、レイに向き合う。

 しかしレイは、ノーラを見ていなかった。

 レイは。


「…………おそと」

「外が、どうかしましたか?」

「…………あかるい?」

「……えっ?」


 窓から見える町の夜空を見ていた。

 指差し、明るいと言う。

 釣られて外を見るノーラとメイビー。


「……なんだろ? また火事でも起きてるの?」

「……まさか?」


 メイビーが窓に歩み寄り、バッと開け放つ。

 窓の向こうから風が吹き込み、それとともに遠くから微かに届く音が。

 メイビーは、嫌な予感がした。


「……一般住宅地区、かな。その辺りから、喧騒が届いてきてるね」

「……」

「なにか、祭りでもやってるの?」

「いえ、……そんな話は聞いてません」


 ノーラの回答を聞き、メイビーは顔を曇らせた。


「デザイアさんさ、今日は荒れるから早く帰れって言ってたよね」

「はい、言ってました」

「……もしかして、アレのことなのかな? 遠くてよく分からないけどさ、何か騒ぎでも起こってるんじゃないかな?」

「そうかも、しれませんね」


 町の空が、明るくなっている。

 何かが、燃えているのだろうか。

 それはひょっとして、家屋や店舗なんかの建物なのではないか?

 ここまで波及していないだけで、とんでもないことが起きているのではないか?


 メイビーの眼光が、自然と鋭さを帯びていく。

 ふわふわへらへらした目から、戦う者の眼へと。


 そんなときだ。

 部屋の扉を開ける者がやってくる。

 ノーラとメイビーは、反射的にそちらに目を向けた。

 もしかしたら、修一が帰ってきたかと思ったのだ。


「失礼します。ノーラお嬢様」

「――デイジーさん?」


 だが、違った。

 そこに居たのは、この家の家政婦であるデイジーだった。


「先程、本店にいる者たちから連絡がありまして。旦那様から、ノーラお嬢様たちにも伝えておくようにと言付かりました」

「あ、ありがとうございます。父は、一体なんと?」

「……詳細は分かりませんが、町の至るところから火の手が上がっているようです」

「……どういうことですか?」

「はっきりとは分かりかねます。ですが、警備隊のみでなく、騎士団の団員たちも、――騎士団長すらも、対応に出てきているそうです。それと、更に未確定な情報なのですが……」

「……構いません、教えてください」


 デイジーは、一つ間を置いて、言った。


ゴーレム(・ ・ ・ ・)が、……町中で暴れ回っていると」

「……!?」

「他にも、明らかに魔物と思われる生物が駆け回っているなどという話も入ってきていましたが、どちらも確認が取れておりません」

「……そうですか」


 ノーラは、片方の腕でレイを強く抱き締めながら、もう片方の手を胸元へ持っていっていた。

 無意識の内に、ペンダントの水晶を包み込むようにしている。


 その後もデイジーさんは幾つかの言伝を伝えてくれていたが、ノーラの耳にはほとんど入っていなかった。

 デイジーさんが部屋から出ていったあと、ノーラは。


「シューイチさん……」


 震える声で、呟いていた。


「帰ってきて、くださいよ……」


 祈るように。愛する男の無事を。 


「お願いですから……!」

「……」


 メイビーは、今度こそ何も言えなかった。

 同意したくても、出来なかった。

 なんせ、修一だ。

 あのお人好しが、まさかこの状況で何もしていないはずがないと、そう思えるから。


 ――シューイチめ。本当に、どこで何してんのさ……?


 そして、直前にノーラから伝わってきていた不安が、今はもう、無視できない大きさに膨らんでしまっていたから。




 ◇




「――っ!!」


 真正面から、何の小細工もなしに突進する修一。

 騎士剣を鞘から抜き、下段に構えながら全速力で間合いを詰める。

 敵は三人。狙いは中央、最初に出てきたリャナンシーだ。

 おそらく、コイツが一番強い。

 一目見てそれを察した修一は、何かされる前に速攻でけりを付けようとしているのだ。


 隠れ家の奥の洞窟で先手を取られて半壊しかけたことは、苦い記憶としてこびり付いている。

 同じ轍を踏むつもりはない。


「そんなこと!」

「させないわ!」

「っ!!」


 だが、修一が攻撃の踏み込みに入る前に、左右の二人が飛び込んできた。

 真っ赤な爪に彩られた二対四本の腕が、しなりながら別々に襲い掛かってくる。

 剣一本で受け切れる軌道ではない。

 まともに食らえば、容赦なく切り刻まれる。


「くっそ……!」


 修一は、やむを得ず方向転換する。

 真っ直ぐ突っ込んでいたところから無理矢理進路を変え、右方向に飛び逃げる。

 それを追い掛ける二体のリャナンシー。

 別の路地に向けて入り込んでいく修一を、逃がさぬとばかりに追おうとする。


「ヴィラ! そっちは任せたぞ!」

「分かったわ、シューイチ!」


 修一は、最初の目標であった一体の相手をヴィラに任せると、連携してくる二体の攻撃を捌きながら、誘い込むようにして路地を後退していく。


「逃げてばかりで!」

「どうするつもり!」


 二体は、お互いの攻撃を邪魔しないような動きでもって、なおかつ、絡み合うようにして動きながら爪で斬り掛かってくる。

 上手い動きだ。

 見事にお互いの隙を埋め合っている。

 二体で一つの生き物のような一体感を見せつけてきている。


 というか、この二体、顔付きが似ている。

 まさか、姉妹なのだろうか?

 修一は、肩口を掠める一撃を躱し、脇腹に向けての一撃を剣で払いながらそのような事を考える。

 こいつら、人間の女性とほとんど変わらないような身体の作りをしているみたいだが、果たして、姉妹という概念まで存在するのだろうか?


「……どうでもいいか、そんなこと」

「なにをぶつぶつと!」

「言ってるのかしら!」

「うおっと」


 危ない、今のは服を掠めた。

 下らない事を考えている暇はないな、と修一は思考を切り替える。

 取り敢えず、今分かることは。


 ――やっぱ、あっちの方が強かったみたいだな。


 ということだ。

 テグ村で戦った奴も強かったが、今、ヴィラが戦っている奴も同じくらい強そうに見えたのだ。

 逆に、この二人からはそこまでの脅威は感じなかった。

 多分、サシでやればオーガバーサーカーの方が強かった。

 同じリャナンシーでも、それなりに個体差があるらしい。

 まあ、そんなことは人間も同じなのだが。


「――さて」


 なら、問題は、二人の連携である。

 この練度の高さは、はっきりいってそこらの人間二人が行えるであろう連携とは比べ物にならない。

 戦闘において、仲間相互間で連携を取るというのは想像以上に難しいのだ。

 特に、これほどの近距離で接近戦を行いながら互いの隙を埋めるような連携を取れるとなると、修一は今までお目にかかった事がない。

 良い連携だ。おそらく、この二人の基本にして切り札なのである。


 一撃一撃の回転も早い。

 武器が両手の爪である以上、接近戦になるのは必定。

 つまり、その間合いを最大限に生かすための戦い方が、彼女らにとってはこれなのだ。


 となると。


「おい、お前らあ!!」

「なによ?」

「うるさい」


 二人同時に腕を振り抜いてきたタイミングで、両者に当たるよう、騎士剣を真横に振り抜く。

 当然、そんな大振りが当たるはずもなく、二人は難なく後方に躱してみせる。


「一つ聞く! お前ら人間(・ ・)か!?」

「……はあ?」

「なにそれ? 」


 リャナンシーたちは、言葉の通じない阿呆を見る目で修一を睨み付ける。


「たかが人間ごときと」

「一緒にしないでよ?」


 リャナンシーたちの答えはそれだ。

 修一は、途端に凶暴な笑みを浮かべた。


「そうか、じゃあ、……一緒に(・ ・ ・)しない(・ ・ ・)ぞ?」


 そして言いながら剣を鞘にしまい、両手が空くと同時に、両手から、体幹から、両足から、ほとんどの力を抜いた。

 どうやって立っているのか分からないほどに。


 ――人間と一緒にするな、か。


 素晴らしい言葉だ。

 自信と驕りに満ち溢れているようだ。

 それなら、容赦しない。

 化け物を潰すための技を使うだけだ。


「――千鳥足葛」


 ゆるり、と如何なる筋肉を使って動いているのか。

 不可解極まる歩法で、空いた間合いを詰めにかかる修一。

 リャナンシー二体。見たことのない動きに一瞬警戒するが、それが突発的な攻撃を伴うものではないと分かると、警戒したまま自分達からも距離を詰めていく。


 爪の届く距離。

 それがこの姉妹の、最大戦闘半径だ。

 修一も、それが分かっているからこそ、この奥義だ。

 必要な距離が、ほとんど同じなのである。

 伸ばした爪の先までが攻撃範囲であるリャナンシーの方が若干長いように思うかも知れないが、腕の長さは修一の方が僅かに長い。

 よって、両者の間合いはほとんど誤差なく同じとなり、それ故に、重要となるのは――。


 技の精度と、威力である。


「はっ!」

「この!」

「――!」


 最初に飛び掛かってきた時と同様に、二対四本の腕をしならせて全く別々の方向から斬り込んでくる姉妹。

 やはり上手い。

 剣一本では、到底防げないだろう。


 ――剣一本、なら、な。


 ほぼ同時に向かってくる四本の腕。

 その中で、最初に当たるであろう一撃を身を捻って躱す。

 続いて、避けた先に被せるようにして向かってくる二本目を左手で掴み、手首を極める。

 そしてほんの少し、体を崩させるだけでいい。

 それだけで。


「あっ!」

「え!?」


 二人の身体がぶつかった。

 その衝撃で三本目の腕の軌道がぶれ、完璧だった二人の連携に隙が生まれる。

 修一はそれを見て、掴んでいた手を離し、悠々と三本目を躱す。

 すぐさま立て直して繰り出される四本目、今度はこれに両手を添えて取った。

 動きを逸らしながら両手を絡み付かせていき、振り抜かれた時点で、それ以上関節が曲がらないところまで極めていたのに。


「ふっ――!」


 全く躊躇なく、地面に叩き付けた。

 当然、人間とほとんど変わらない肉体構造のリャナンシーが、それに耐えられるはずもない。

 リャナンシーの肘は、ブチブチブチと千切れるような音を立てながら関節が砕け、顔から地面に投げられたためか、痛みの声をあげることもなく、意識を失った。


「姉様!!」


 なんだ本当に姉妹だったのかよ、と怒れる妹の二連撃を躱しながら修一は思う。

 投げ付けた瞬間に手は離してあるため、妹渾身の斬撃もヒラリと回避してみせる。

 身体を起こしながら後方に下がり、怒りで前へ前へ寄ってくる妹を。


「陽炎」


 すり抜けるようにして、後方に回り込む。

 いきなり視界から敵が消え、繰り出そうとしていた更なる一撃を、妹は一瞬踏み留まった。


 それが、最後だった。



「――涅槃寂静剣」



 背後を取った修一は、振り返りざま騎士剣に手を掛けた。

 そして、目の前の化け物を、無慈悲に、真っ二つにした。

 左下から右上への切り上げ。

 左臀部から右の脇腹へ抜ける一撃は、その先にある振り上げられていた右腕すらも斬り飛ばして、音もなく鞘に納まった。


「――――っ」


 背骨も、内蔵も、断ち切られた。

 斬られた勢いのまま肉体は別れ、真っ赤な中身をそこら中にぶち撒けた。

 ペンキの缶を蹴飛ばして、中身が散逸したかのようだ。

 もっとも、今散っているのはペンキなどより遥かに凄惨な代物なのだが。


「……あとは」


 眉一つ動かさず、修一は倒れたままの姉に寄る。

 鞘から剣を引き抜いて、俯せに倒れる姉の首元に、剣を突き立てた。

 生き物の延髄に、刃物が沈み込んでいく感触。

 姉は一瞬ビクリと身体を硬直させ、そのまま動かなくなった。


 あっという間に、化け物二体の死骸が出来上がった。


 ――――パチン


 何時かのように、火を放つ。

 皮が、肉が、脂が、血が、大量の熱をくべられて燃え上がる。

 地面に染み込んだもの以外、燃えカスすら残さずに。

 おそらく明日、知らない人間がこの場所を通ったとしても、少し汚れてるな、くらいにしか思わないだろう。


 ――これくらいやっとけば、生き返れねえかな?


 修一はデザイアから、あの時のリャナンシーの死体がなくなっていた事は教えてもらっている。

 詳しい話をしてくれなかったためその後どうなったのかは知らないが、もし生き返っているのだとすれば、氷付けでは生温いということになる。

 ならば、焼く。

 骨の一片足りとて残さずに、燃やし尽くすのだ。


「……」


 やがて燃え尽きたのを見届けてから、剣の血脂をボロ布で拭い鞘に納める。

 それからヴィラのところに戻った。

 まだ戦闘中かもしれないため、警戒しながら。


 入ってきた路地を抜けて元の場所に戻ると。


「あ、シューイチ」

「おっと、無事か」


 折よくヴィラと鉢合わせた。

 さっと全身を見る。

 所々擦過傷や打撲痕はあったが、大きな怪我はしていないようだった。


「倒したのか?」

「いいエ、途中で撤退し始めたから、怪我を治すついでにシューイチを探しに行こうとしてたノ」

「そうか」

「そっちハ……?」

「両方倒した。死体も残ってない」


 路地を振り返りながら修一が告げる。

 ヴィラは、しげしげと修一の顔を見つめた。


「なんだよ?」

「本当に強いのネ、と思ったのヨ」

「そうか、あんがとよ」

「こんなに若いのにねエ……」


 その言葉に、修一は顔を顰めた。


「若いって、アンタもそう変わらないだろ」

「えっ、ああ、……そうネ」

「なんだよ、その反応」

「いえ、なんでもないワ」

「?」


 修一は疑問符を浮かべたまま首を捻ったが、ヴィラは手早く治癒神術を行使すると、自分の怪我を治して先へ行き始めた。


「ほら、行くわヨ」

「……分かったよ」


 腑に落ちないものはあったものの、修一はヴィラのあとに続いて歩き出す。



 尚、修一の脳内ではこっそりヴィラの推定年齢が引き上げられたりしていた。




「で、ここなのか」

「そう、みたいネ」


 細い路地を抜けきり、修一とヴィラはとある建物の前まで来ていた。

 ヴィラ曰く、魔なる者を探し出す神術なんかを複合的に使用して痕跡を追った結果、ここに逃げ込んだことが分かるのだという。


 しかし、と修一は思う。


「知らねえ間に、ここまで戻ってきてたんだな」


 今、修一たちの目の前にある建物は、いわゆる豪邸(・ ・)と呼ばれるものだった。


 陽がほとんど沈み切り、暗くなっていたせいで気付くのが遅れたが、いつの間にか高級住宅地区まで戻ってきてしまっていたようだ。


 ここの辺りの建物は見覚えがないため、おそらくノーラの家からは離れたところに建っているのだとは思うが、それでもあまりよろしい事ではない。

 ノーラの家の近くに、化け物の逃げ込み先があるのだ。

 何かあってからでは、遅い。


「門の鍵は、開いてるわネ」

「そうか、嘗めてんのかな」

「余裕を見せてるとカ?」

「油断してるの間違いだろ」


 修一は門扉を押し開ける。

 錆び付いているような音が鳴ったが、動かないことはなかった。


「よし、行くか」

「ええ、……ねえ、シューイチ」

「あん?」

「もう一度だけ聞くワ。これから先は本当に危ないかもしれないわヨ?」

「……はっ、そんなもん」


 修一は額の傷を掻きながら鼻で笑う。


「昔から、そんなんばっかりだったよ」

「……そウ」



 ヴィラは、それ以上は問うたりしなかった。



 そして二人は、玄関の扉を押し開けて屋敷の中に踏み込んだのである。




今年一年、皆様のお陰で無事に終えることが出来ました。

来年の更新はいまのところ未定ですが、なるべく早く続きを書いていって第7章を終わらせたいと思いますので、応援していただければ嬉しいです。

それでは皆様、良いお年を!!

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