初戦闘
街の外に出るのは、何度が護衛付の馬車に乗って、となり町まで仕入れに行った事があるぐらいだ。
とりあえず町の外に出る前にスキル値を割り振るさっきまでの修行で、スキル値の総和が23増えて、331になったからな。
<暗器戦闘 50><潜伏 31><薬品調合 50><アイテム鑑定 50><アイテムボックス観覧 50><窃盗 100>に割り振る。
今までは打算的に生きてきてしまったが、将来的に、時間があったら、スキル取得時のアップ率を使って、スキル値の総和を増やすことも視野に入れていくとしよう。
とにかく、今は、明日からの生活に備えて準備あるのみだ。
街の周囲には、モンスターの侵入を防ぐための塀が設けられている、東西南北にそれぞれ門があるので、店から一番近い東門から、外に出るのが一番いいと思ったが、冒険者達のギルドの位置や、主たる活動を街の西で行なっているようなので、西門まで行って、そこから出ることにした。
西門を出ると、大きな湖が見える。水性モンスターが周囲にチラホラ見渡せる。そして、それらと戦う冒険者も数人見える。
初心者には、モンスターに囲まれる心配も無く、良いポイントかもしれない。
ただ、オレとしては、<潜伏><隠密>を使っている姿を、他の冒険者に見られてしまう可能性もあるので、出来れば、ここでの戦闘では、<潜伏><隠密>は使わずに戦い、湖の向こうに見える、西の森に入ってから、<潜伏><隠密>を使っていこうと思う。
まずは、俊敏と体力を鍛えるためにも、西の森まで全力疾走だな。
今まで鍛えてこなかった分、各種回復剤の消費が半端ではないので、途中途中で、<アイテム鑑定 50>で薬草やスタミナ草を鑑定で見つける度に摘み取っていく、あとでまとめて<薬品調合 50>各種回復剤を作る。
湖の近くまで、走ると、水辺周りの、アクアフロッグやブルースライム、大型モンスターのブラックゲーターと戦う冒険者達がなかなかの数でいる。
それらの冒険者の横に来た時に、体力回復剤とスタミナ回復剤を使用して、また走りだす、回復剤を使用している間に、<アイテムボックス観覧 50><窃盗 100>で、各種回復薬を、冒険者達のアイテムボックスから掠め取りさらに補充する事も忘れない。
さすがに、<鍵開け>を使うほどの時間は無いが、戦闘中の為に、数個程度なら、掠めとっても気づく素振りすらない。
何人かは、スクロールの所持もしていたので、数本だが、スクロールもいただいてきた。
全部を盗まずに、少量を盗むのがコツだな。
湖を抜けて、西の森の入り口に着くと、入り口脇の木陰に隠れて、<潜伏>を使用。振り返って、誰も追ってこないところを確認する。やはり、誰も気づかなかったようだな。
体力(HP&持久力) 30→35
敏捷(身軽さ) 33→36
となっていた。
何度も何度も体力とスタミナ回復をしたからだろうな。体力の上がり方良い感じだな。
さて、本格的に戦闘をしようか。
とりあえず、暗器戦闘というと、<潜伏>と<隠密>を使ってからの、死角からの不意打ちになるんだろうな。
スキル値を、<暗器戦闘 31><潜伏 100><隠密 100><回避技術 50><防御技術 50>に割り振る。
木陰で<潜伏>を使用すると、指先からすぅっと透明になっていく、透明度は100%に近い、そして、<隠密>でそのまま音もなく森の中に入っていた。
程なく行くと、少しだけ森が開けた場所があって、そこで赤いスライムを見つけた。レッドスライムだ。
九宮袖箭を構えて、隠密でゆっくりと近づく、スライムに武器を向けると、訓練所では現れなかった、赤い○が視界に表示される。
スライムが動くと、○も動くので、どうやら、この○の中に撃ちこめばいいらしいな。さすがに、短い矢だし、現在距離5mでは、ちょっと矢自体が届かないかもしれないので、もう少し近づく、距離2mまで来ると、○の中にもう一つ○が増える、なんとなく、わかってきた、ダーツのような感じなんだろうな。両手剣や片手剣は使ったことも無いから、どんな視野になるのかは想像もつかないし、他の冒険者もオレと同じような視野になるかはちょっと分からないが、暗器使いの少なさと、これからの準備時間を考えると、今更人に教えてもらう時間はない。
距離1mまで近づくと、更に○の中に○が増える。それと同時に誰かの声が聞こえる。
「草うまし。草うまし。天気良い。気持ちいい」
突然の事だったので一瞬ビクッとなって、周囲を見渡す。
誰もいない。
木の間、木の上、かなり目を凝らして見てみたが、人の気配はない。
もう一度、耳を澄ます。
「ここ日当たりいいし、草うまい」
声の方向は、前方の足元からだ。
信じたくないけど間違いないな。
魔物がしゃべれるとか、様々な冒険者がうちの店にも来るが聞いたこともない。
いろいろ考えて、1つだけ思い当たる事がある。
今まで、気にもしなかった「魔族交流」の効果だろう。
「魔族交流」の脳内タブをクリックすると「レッドスライム」と出ている。
魔族と交流なんて危険過ぎると思って、今まで興味すら沸かなかったけど、魔物の声が聞こえるとか、実際に効果を実感しても役に立ちそうもない。
とりあえず、「レッドスライム」のタブを選択して、心の中で「こんにちは」と話してみる。
「誰だ?誰だ?どこだ?」
なんか目の前の赤いスライムがプルプル震えてます。
赤いゼリーの真ん中にある、赤い核みたいな部分が右に左にグルグル動いてます。完全に
「魔族交流」出来てるじゃん。明日からの監視者としての一週間に役に立つ能力かは分からないが、とにかく、午後は、この能力についても、いろいろと試してみる必要がありそうだな。
「私は、魔物の神だ」
「神?何それ?草うまい」
駄目だ、スライム知能低すぎ。会話にならねぇ。
どうやら、草を食べるのに夢中みたいだし、オレに気づく様子も無いので、さらに近づく、距離50cmまで近づくと、○の中に更に赤で塗りつぶされた●が出て、その中に白抜きで「当」と書いてある。
誰だよ。この世界創りだした奴なのか、オレにこういう力を与えた奴なのか分からないけど、ずいぶんお茶目な事してくれるな。非常に分かり易いけどな。
「うまい。いい日だ。わーい」
俺は草を食べるのに夢中なレッドスライムの当り印に、距離5cmまで九宮袖箭を近づけると初のモンスターへの攻撃を打ち込んだ。
「ぎゃぁぁっぁぁぁぁぁ」
想像通り、クリティカルポイントなんだろう、暗器の威力を充分に発揮して、レッドスライムは絶命した。一撃だ。「魔物交流」なんて後味の悪い能力なんだろう。
絶命したレッドスライムから、素材を剥ぎ取る。
赤い液体 1
この液体は、回復薬を生成する際に加えると、回復率がアップする。今日は、これを集めたいとも思っていたので、さっきの絶叫を何度となく聴くことになるだろう。
初戦闘自体は、俺が想像してたよりずっと簡単だった。とにかく痛みがなかったのがありがたい。さっきの絶叫が耳に残っていて、これからの戦闘もちょっと気持ちが重くなるけど、やるしかないよな。
俺はさらに森の奥に入っていった。