グレました
「これが似合うと思うよ。ボディーラインにも合ってるし、火属性耐性も付いてるし、きっと南の魔物にも有効だよ」
一人のイケメンエルフが俺が丹精込めて作ったシルバーアーマー火属性耐性+1を、超絶可愛いエルフの女の子に薦めている。
「うん。決めた!これにしよう!」
満面の笑みで答える。デレまくってる。この笑顔を見るのがこんなにツライ日が来るとはな・・・
正直、カウンターの下でオレの指は、握りしめすぎて肉に爪が食い込み、その痛みでなんとか、カウンターの上の笑顔を維持出来ている状態だ。
「モートさん。これください」
「フローネさん。いつもありがとうございます。12200ドランになります。」
代金を受け取ると笑顔で二人と送り出した。
「ありがとうございました」
「モートさんもお元気で!それではいつかまた」
バタン。
ドアが閉まると、オレは店の外に飛び出し「閉店」の札を早々に出して店内に戻る。
「がたうgjfばfjかs;hあfj;shjhrhgs!!!!!!」
言葉にならない絶叫と共に、店の商品を壊しまくった。
「お、お、お、おでのフロォネたん!!!がぁぁkfhdsjkh!!」
オレの中から後から後からいろんな感情が沸き起こってきた。
10年前、残業続きだった会社の仮眠室で寝て、起きたらこの世界にいたんだよな。
まぁ、オレは漫画もゲームもアニメも大好きだったから、ファンタジーっぽいこの世界には、1ヶ月ぐらい戸惑ったりしたけど、なんとか、対応出来たし、年齢が10歳も若返ってて17歳になってた時には、狂喜したよ。
ああ!
「人生やり直せる」
ってな!
しかも、オレには「魔族交流」とか「スキル値変更」とか、この世界にに来てからも、他の人からそういう話を聞いたことがない、ちょっと反則技っぽい仕様も脳内タブにあって、これで
「オレの新しい人生大勝利じゃん!!」
って思ったわけだ。
そして、商人やってる、27歳のオレがいるわけだ。
もう、これ以上説明しなくても、なんとなく察しがつくだろ?
うん。当たりだわ。
はっきり言って、こういうゲームのような世界に来たら、勇者になれるとか、チートスキルで大勝利とか、夢のような人生とか、全部幻想だったって事が良く分かった。
町の外に出ようとする前に、町の訓練所で剣の稽古ちょっとしたんだけど、普通に痛くて辞めました。訓練所ごつくて怖そうな人たちでいっぱいでした。平和な国でずっと育ってきたオレにこういう争いごと向いてないなって思いました。
とりあえず、痛いの嫌なので、魔法とかあるよなって思って、魔法の訓練所にも行きました。なんか、この世界で魔法使うのには「秘薬」っていうのが必要らしいんだけど、秘薬の値段がべらぼうに高くて断念しました。
もう、途方にくれてた俺を救ってくれたのが、愛しのフローネたんなんだ。
「美味しそうな魚ですね♪」
野宿生活だったオレの生活は、序盤で取得した<釣り>スキルで釣った魚を露天で売る生活だったんだけど、あの時、フローネたんの笑顔で一発撃沈してからは、この10年あの笑顔を糧に、フローネたんに認められたくて振り向かせたくて、節制に節制を重ね、去年、ついに20年ローンで店をオープンしたんだ。
その過程で、ほとんどの生産スキル値も順調にアップしてきた。
<料理 30><釣り 25><パン生成 18>
<木こり 22><大工 23>
<鍛冶 45><インゴット生成 45>
<書写 10>
<裁縫 12>
<薬品調合 33><秘薬調合 22><アイテム鑑定 23>
スキル値合計 308
ざっと、12種のスキル値を鍛えてたのは、この町の商人ではオレぐらいしかいないだろう。
「わぁ、おいしいパン!」
「なんて素敵なウッドテーブルなの!?」
「モートさんってなんでも出来るんですね!」
「この鉱石で最高のレイピアをお願いします!」
「モートさん以外にはレイピアの補修はもう頼めないですね!素晴らしい仕上がりだわ!」
走馬灯のようにフローネたんからの賛辞の言葉がオレの中を駆け巡る。
まぁ、これスキル持ってるから儲かるもんでもないし、なんだかんだ町から出てないから、だいたいは冒険者から素材を買い取って生成するわけだから、利益も薄くなるのはしょうがない。
でも、冒険者のフローネたんとオレを常に繋いでくれていた、この店もスキルもオレの全てだったし、週に一回でもアレだけの美少女と言葉を交わし、その可憐な香りがこの店に漂うだけでも、オレは最高に幸せな人生だったわ。
「それが!それがぁぁl!それがhふさっhfらふいfだふph@rh!!」
オレは、店に立て掛けてあった、シルバーソードを引っつかむと、「スキル値変更」のタブを選択、<剣術 100><回避技術 100><防御技術 100><探知 8>でスキル値を振り分けると、町の外に飛び出した。
表街道を手をつないで談笑しながら、仲睦まじく歩く2つの影、夕焼けが、2人の金色の髪を更に美しく演出している。オレはその二人を目掛けて、全力で突進する。
「おあぁぁっぁぁぁぁぁあぁ」
なんの声かと振り向いた、イケメン野郎の顔が驚きで目を見開いている。
誰でも、さっき出た道具屋のオーナーが突然襲ってきたらこんな顔になるんだろうな。
大上段に振り上げたシルバーソードをイケメン野郎の頭目掛けて振り下ろす。
「イケメン爆発しろぁぁぁ!」