sideⅠお風呂と女の子
「お風呂入って来いよ」
食後、二人に言う。
「うん。でも食器の片付け――」
「これくらい僕一人で出来るから。むしろいつも任せるのは忍びない。と言うわけで先に入って来い」
「わかった!緋月さん、行こう?」
「え、私もですか?」
話が振られるとは思ってなかったのだろう。
緋月は戸惑う。
「そうだよ。一緒の方が家庭的にも関係的にもいいんだよ。ほらほら」
「――あ、でも、私もマスターのお手伝いを」
「僕はいいから、行っておいで」
「ほら、行くよ」
「……あ」
緋月を有無を言わさずにぐいぐいと押して風呂場へと連れて行く鈴音。
「……よし。やるか」
僕は洗剤とスポンジを持ち、食器の片付けに入った。
* * * * *
そして風呂場にて。
緋月はプラスチックの椅子に座り、鈴音に背中を向ける。
「――うわ。緋月さん、やっぱり肌綺麗〜」
鈴音の感嘆する声を聞き、緋月は疑問を持つ。
「そうでしょうか?」
だから訊かずには居られなかった。
自分はそう言う風には作られていないから。
「うんっ。女の子としては憧れるよー」
「そうなんですか」
やはりわからない。
鈴音の持つ、“女の子”としての常識はインプットされていない。
「そうだよ!いいな〜。この肌艶」
「――ひゃんっ?な、何を?」
背中にくすぐったい不思議な感覚が肌を通して伝わり、緋月は思わぬ声を出してしまった。
「かわいい声だね」
どうやら鈴音の仕業らしかった。
「……そんな」
まさかこんな声が出るとは自分でも思わなかった。
変ではないだろうか?
未知の感覚に戸惑いながらも、対応をはかる。
「照れてる?」
「照れてません」
「そうかな?」
「――ひゃっ?やめてくだひゃうんっ」
なぞり、なぞり。
鈴音は緋月のその白い肌を人差し指で軽く触れ、数ミリ感覚でなぞる。
「お肌つやつや~」
「ひんっ、ひゅあっ、はにゃ~んっ」
「うりうり~♪」
鈴音の攻撃は止まない。
「……もうやめ、てくだ……さい、」
緋月は鈴音に優しく肌を触られ、くすぐったさで息が途切れ途切れになり、苦しくなって音をあげる。
「あはは。ごめんなさい、つい触るのが気持ちよくて。今流すね」
ザバーン。
桶の水をかけ、泡が流れ落ちて排水口へと渦を作って入って行く。
「……いつの間に身体を洗われていたのですか」
わからなかった。感覚麻痺していたのだろうか。くすぐられる行為は危険なのだと緋月は悟った。
「緋月さんがかわいい声出してる間に?」
「……そうですか」
「じゃ、次は私を洗って?」
「了解しました……では、失礼致します」
タオルを手に持ち、石鹸を付けて泡立ててから鈴音の背中に当てた。
「うん!」
* * * * *
食器を片付けたあと、リビングのソファでくつろぎながらテレビを観ていると、鈴音と緋月が戻って来た。
少し濡れた髪に垣間見える色白い肌は大人っぽさを演出させる。
「お兄ちゃん、あがったよ」
「お先しました、マスター」
「うん。おかえり」
ちょっとだけ見とれながら答える。
「どうだった?」
「気持ちよかったよー。緋月さんの肌ったら、すごくぷにぷにしててね、触り心地がとてもいいのっ」
「……湯船の感想は?」
「大層気持ちの良いものでした」
「そっか」
なんだか大袈裟な気もしたが、そこは気にしないことにした。感じ方は人それぞれだから。
「んじゃ、今度は僕が入って来るから」
「わかったー」
「はい。いってらっしゃいませ」
二人の返事を聞いて僕はリビングから出た。
裸の付き合いを通して仲良くなったのかなって思ったら、嬉しく思えた。