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EPITAPH   作者: 翡翠
5/5

#5 知らない




音がない理由が分かった。

学校から一歩足を踏み出すとそこは地獄絵図。

学校の中よりも、酷い。


音がないどころじゃねぇ…これじゃ…『生命』すらないじゃねぇか……


「はは…亘屡、訂正だ…『学校』どころじゃねぇ……『日本』でかも…しれない」

「『世界』で、とか?」

「さすがにそれはヤバイだろ……」

笑い事じゃないとは理解してる。でも。

悲しむことも、怒ることも、何も出来ない。

頭の中が真っ白で。

「なぁんでこんなコトになってるんだよ」

「これで死んだ奴がゾンビになってたらヤバイよな……」

「オイオイ、そんな映画無かったっけ?」

無理してでも笑わないと、自分が壊れてしまいそうで。

亘屡はガードレールに引っかかっていた黄色い帽子を手に取ると、握り締めた。

幼い園児の物であっただろうそれには所々血が付着しており、この持ち主も死んだのだと、理解した。

何故、生き残ったのだろうか。


『オマエガコロシタ』


先程の幻聴が、再度脳内によぎる。


『逃げろオォォ!!』

『来るな人殺し!!』


「なっ……!」


突如辺りを火に囲まれる。ガラガラと音を立てて崩れていく家。

必死になって逃げ惑う人々。

何から?…俺から?

『あれは、仕方がなかったのだカイ!!』

『仕方なかっただぁ!?ふざけるんじゃねぇ!!』

意に反して、勝手に言葉が出てくる。手には身の丈近くの大きさの大刀。

血が、べったりと付いている。

『人の母親を勝手に化け物だ、鬼だなんだとほざいて殺すことが仕方ねぇってのかよ!!』

命乞いをしている男の喉元に、刃が深々と突き刺さった。ピッと飛び散った血が頬を掠める。

『やめて、カイ!!』

『っ、アヤ!!お前だってコイツらに親父さんとお袋さん殺られたんだろうが!!

 何で止めるんだよっ!!』

『カイが人殺すとこなんか見たくない!!』

そう叫びながら必死にしがみついてくる女。学校で浮かんだのと同じ女。

アヤ……?誰だよ、お前。

『だけど!!』

『ウワアァァ!!助けてくれぇぇ!!』

その悲鳴に、俺とその女は同時に振り向いた。

空を覆い隠さんばかりの黒い太陽。

『黒い…太陽……?』

『爺様が言ってた黒い太陽って…これ……?』

急に太陽から光が発せられる。丁度太陽の下辺りに伸びているその光の筋は、黒い。

それに当たった人の肉片が、飛び散った。

そしてその光は、まるで意思を持っているかのように、移動を開始した。泣き叫び、逃げ惑う人々を包む黒光。

包まれた人々は、先程の人間のように―――散った。

『っ!逃げろアヤ!!』

アヤの後ろまでその黒光が迫ってきている。『俺』は必死に手を伸ばした。

『!!』

彼女を助けたくて伸ばした手を、彼女は振り払った。優しく、微笑んで。

『何、で……』

『逃げて…カイ……』

唇だけを動かして、『俺』に何かを言っていた。

『ア……』


何故あの時俺は……


『アヤァァァ!!!』


『彼女』の最後の言葉を、聞き取れなかったんだろう?


生温かい彼女の血が、『俺』に降り注ぐ。

黒い太陽は、彼女の命を奪い、消えた。




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