#1 夢
ジリリリリと、騒がしい目覚ましの音で目が覚めた。
布団の中から伸ばされた手が机の上を数回叩き、四回目にしてようやく目覚ましを止める。
「………寒い。」
止めた目覚ましから手を離すと少年は布団から名残惜しそうに顔を出した。
未だ眠いのか薄く開いた目を軽く擦ると大きなあくびを一つ。静かになった部屋の中に外で飛んでいるスズメの声が何十にも重なって飛び込んできた。
また、あの夢。
心の中で呟くと少年・光雲亘屡は光が差し込んでくる窓の前に立って伸びを一つする。
光雲亘屡現在白鴎中学3年。
背中まである髪を束ね、一見女のようにも見えるがれっきとした男。
野球部に籍を置き、ショートレギュラーで副部長。
黒い、太陽……か。
亘屡は横目で自分の掌を見た。夢の中では真っ赤に染まっていた手。
空には見たこともない、真っ黒な太陽が浮かんでいた。近くにあるかと錯覚するほど大きな太陽が。
ぎりと歯軋りすると掌を力強く握った。
「おっはよ、亘屡!」
「おう、おはよ。」
教室に入った亘屡に一番早く声をかけてきた少年は満面の笑みで近づいてきて後ろ手に隠していたモノを亘屡の眼前に出した。
「………おい裕也。」
一冊の雑誌の表紙を見た亘屡は一瞬目を見開き、すぐに視線を裕也と呼ばれた少年に戻した。
「あれ?興味ねぇ?」
「当たり前だろうが馬鹿。」
「亘屡の好みかなぁとか思って持って来たんだぜ?」
「好みじゃないし興味もねぇっつうの!」
「何っ!?お前それでも健全な男子中学生か!?」
「不健全な男子中学生がそれを言うか!?」
雑誌の表紙にはおそらく雑誌の名前だと思われる『和ノ美』という文字と着ている着物を頬を染めながらもずらしている女性の写真。
「確かに俺は和風は好きだぞ!?だけどポルノには興味ねぇ!」
「あれ。そうだったの?てっきり亘屡はムッツリスケベかと………」
悩むように顎に手を当てた裕也の鳩尾に蹴りをいれると一直線に自分の席に向かう。
後ろの方で裕也が思いっきりむせているが自業自得だと放っておくことにした。