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22.天才の発想(?)

 街を歩きながら、フェリスは盛大にため息をついた。外套のフードからのぞく街の景色も、心なしかくすんで見えるようだ。


「また失敗して花畑作っちゃった……世界滅ぼすどころか花屋になれるわ、ぐすん」

「花屋も素敵ですよフェリス! 尊いですフェリス! フェリスの花なら世界一!」


 フェリスの隣で、同じくフードを被った子供マオがペンライトをふっている。マオなりに慰めてくれているらしい。

 まだ昼間だからあまりわからないが、ちゃんと光らせているようだ。


「ううううるさいッ」


 練習した闇魔法を実際に使ってみようと、二人は街へやって来た。お姫様抱っこにはやはりどきどきしたが、今は子供マオだから平気だ。

 その途中に寄った郊外の農地で、まずは肩慣らしに闇魔法を使ってみたのがため息の原因だ。


 作物を枯らすはずが、作物はもりもり急スピードで成長して実を実らせた。人々を喜ばせてしまうという聖女の恵みエンド。

 その上、農作物のない空き地には聖花が咲き乱れる始末だ。


 一生懸命制御しようと練習したのに、聖力をちっとも抑えられなかった。これには、さすがのフェリスも落胆してしまった。練習でもまだ上手く行っていないが、実践の緊張感でなんとか——と思ったが、現実は甘くない。

 そんなフェリスを、本番はこれからだとマオが街まで引っ張って来たのだ。


「まぁまぁ。せっかくベルが耳寄り情報持って来てくれたわけですから」


 今回、この街に来たのには理由がある。今この街に、フェリスの断罪を命じた憎き聖クリスティア王国国王が滞在しているらしいのだ。

 さすがに警備の固い滞在場所を狙うのは、フェリスの闇魔法の腕では難しい。そこで王都へ帰るために、街を馬車で出る瞬間を狙うことにしたのだ。


「そうね。ベルに感謝しなくちゃ」


 マオほど早くはないが空を飛べるベルは、たまに人の街へと行っては興味本位であれこれ見て回るらしい。

 ベルは小さいから目立たないし、見つかっても魅了魔法で誤魔化せる。

 そうして得た情報を教えてくれた。この街に王と王妃が滞在している、と。

 街を馬車で出発する時刻まで聞き出して来てくれたのは、しっかり者のベルらしい。


「街の西門を通るって言ってたわよね」

「そ。もうそろそろだと思いますよ」


 名残惜しそうにペンライトを腰にしまったマオが、ポケットから懐中時計を取り出して時刻を確認する。

 午後二時前。ベルが教えてくれたスケジュールは、二時に宿を出て西門から王都へ向かうというもの。


「西門は?」

「あれですね」


 マオが前方を指差した。

 遠くからでもわかる石造りの大きな門は、王都ほどではなくとも立派なものだ。


「ちょうどいい時間ね」


 今度こそ成功させなくては。相手は、フェリスを断罪した憎き相手だ。このチャンスを逃すわけには行かない。復讐しなくては。

 自分がどんなに惨めだったか、わからせなければ。

 門へと早足で歩み寄る。どうやら国王が通るというのは知らされているようで、沿道には人が溢れかえっていた。


「前に出れないわね」

「良いんじゃないですか? 魔法なんだから後ろからでも届きますし」

「そ、そうね……⁉︎ マオくん頭いい!」


 みんなが国王の馬車に夢中になっていれば、フェリスの存在も気づかれにくい。


「聖力を出さないようにしなくちゃ。ほんとに息するみたいに出て来ちゃうから……息止めてみようかな⁉︎」

「フェリス天才なのでは⁉︎」


 瞳を輝かせたマオが大きく頷く。


「フェリスは聖力を当たり前に使える。それこそ息をするように。なら、息を止めることで聖力を制御するイメージがつかめるかもしれませんよ!」

「そうよね!」


 聖力は息。そう考えると、確かにイメージとしてはわかりやすい。聖力を抑えることは、息を止めるようなものなのかもしれない。


「よし、やるわよ!」


 ぐっと拳をにぎりマオと顔を見合わせて頷き合う。遠くの沿道から歓声が上がったのが、フェリスの耳に届いた。

 国王夫妻を乗せた馬車がやって来たのだ。

 ちょっと背伸びをすると、沿道につめかけた群衆の向こうに、豪華な装飾の馬車が見えて来た。その車体に取り付けられた紋章は、たしかに聖クリスティア王国王家のもの。


「孤児院出身なのに貴族令嬢たちを差し置き大聖女として迎えてくれたから、割と良い人だと思っていたけれど……間違いだったわぐぬぬ……」


 この恨み、晴らさでおくべきか。

 すう、と思い切り息を吸い込む。そして、止めた。

 息は聖力。そう念じて、闇を呼び起こす。


「闇よ、我が左手に集え……」


 低く唱えると、胸の中心から冷えた炎が吹き上がったような感覚があった。その炎が左手へ向かって流れ出す。


「この疼きし左手から、その力を解放せん————」


 息を止めているにも関わらず、詠唱でどんどん息が出て行ってしまう。正直苦しくなって来た。

 だが闇は今までよりも、確実に濃く強く左手に集まって来ている。

 開いた回路を闇が走る。それがはっきりとフェリスには感じられた。


(もう少し……で、でもく、くるじぃ……)


 早く詠唱を終わらせなくては。気が焦って余計に苦しくなる。

 そうしている間にも、馬車は近づいてくる。国王陛下万歳! という声があちこちから上がった。

 さらに馬車が近づく。息も苦しい。苦しい方に意識が持っていかれ、フェリスの中から呪文が飛んだ。言葉が出て来なくなる。

 早く詠唱を終わらせなくてはならないのに!


「えっと待って考えてたのに忘れちゃ——ええい、闇よ馬車をうッ、ひゅ」

「噛んだ」


 マオの突っ込みに反応する余裕などなかった。最後の最後で、フェリスの息が限界を迎えたのだ。

 噛んだ瞬間に、抵抗虚しく息を吸い込んだ。


「穿てぇっ!」

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