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闇堕ち聖女と転生推し活魔王は、今日も世界を滅ぼせない  作者: 華空 花
第一章 闇堕ち聖女、魔王に推される
2/12

2.破滅エンド?

 急に叫んだフェリスに、マオが真紅の瞳をまん丸に見開いた。ぽかんと口を開けて驚いている。


「え? 聖女に濡れ衣着せて断罪?」

「そうよ! あんまりだと思わない?」

「誰が⁉︎ 僕が絞めて来ましょうかフェリス様。僕、こう見えても魔王なんで」


 すっ……とマオの瞳から光が消え、暗い色に光った。邪悪に吊り上がった口角が、子供なのに凄みを感じさせる。

 マオの周りを、闇をまとった暗い風が覆っていった。その闇が、フェリスの中の闇の力と共鳴して背筋を粟立たせる。


(わ、魔王っぽい……!)


 しかもこの魔王、フェリスの味方をしてくれるらしい。やはり闇堕ちしたからだろうか。

 そうだとすれば好都合かもしれない。


「いくらフェリス様が闇力ダークネスを授かったとはいえ、直接手をくだす価値もな——あれぇ⁉︎ 闇力より聖力セイクリッドの方がめちゃくちゃ大きいけど⁉︎」

「わあ、鳩が豆鉄砲を食らった顔って、こういう感じなんだぁ」


 先ほどまでの魔王っぽさは見間違いだったのかなと思うほど、マオの瞳はまん丸になっている。


「フェリス様、心の声がもれてます」

「わたし、聖女だから」

「あ、無視ですか……ご褒美……」


 たしかに、フェリスの中には聖と闇が同居している。というか、聖が闇を圧倒している。

 フェリスの聖力は、世界随一と言われるほどだ。元々孤児院育ちの貧乏人だったせいで、おしとやかな聖女ではなかった。だが、その分役に立って来たはずだ。

 貧乏人だった小娘でも、誰かを救うことが出来るのは嬉しかった。だから一生懸命働いたのに。

 その結果が、国家転覆を画策しているなどという濡れ衣だとは。


「じゃなくて! いやいやいや、闇堕ちして闇力を授かったなら聖力なくなるでしょフツー⁉︎ 闇の力は宿ったけど、聖女の器が大きすぎて闇が押し込められてる感じ? さすが千年に一人の逸材! 推せる‼︎」


 急に興奮し始めたマオに、一歩あとずさる。

 なんだろうこのテンション。魔王なのに、めちゃくちゃ……変だ。


「よくわかるのね?」

「一応魔王なんで! でも、え、これ聖力強過ぎて復讐とか無理じゃないです?」

「そそそそんなことないわ!」


 そう言い放ったものの、ふと違和感がよぎる。

 マオの言う通り、聖と闇は本来同居できない力だ。闇が宿ったのなら、聖は失われるのが道理。

 なぜ、自分はそうならなかったのだろう。

 考えようとすると、頭の奥が重く霞む。

 いや、そんなことより今は復讐だ。


「闇魔法、使えました?」

「い、いちおう……」


 ここへ来るまでにこう、何度も使ってはいる。おかげで、フェリスを追いかけて来た勇者からも逃げおおせた。

 ただ、なんというか、闇魔法が変な発動をしてしまっていたのは事実だ。


「あ、ちゃんと発動しなかったんですね? やっぱり無理ですって」

「するの! わたしずっと不運だったの。不運でさえなければ復讐どころか世界滅ぼすくらいできるはずよ。なにせわたしは闇堕ち聖女なんだから!」

「闇堕ちと聖女……なにこの最もそぐわないワード持って来ましたみたいなやつ……かわいい」


 朱の差したほおに両手を当てたマオが、うふふと含み笑いをする。

 なんというか、ここまで来ると……。


「え、なにこの子本当にこわい」

「あぁっ、待ってフェリス様怖がらないで! 僕、悪い魔王じゃありません!」

「良い魔王? 闇堕ち聖女といい勝負よ」


 魔の王で魔王。悪の権化。なのに悪い奴ではないとは何事か。

 だけど……とフェリスはマオを見つめる。たしかに、マオからは邪悪さを感じない。

 フェリスが封じた魔王は、怒りや憎しみ、恨み妬みをまとった悪の権化だった。人々を苦しめる諸悪の根源だったのだ。


「ねえマオくん。マオくんは魔王なのに世界を滅ぼしたくならないの⁉︎」

「ならないよ⁉︎」


 一人でにやにやしていたマオは、意外にも素っ頓狂な声を上げた。

 フェリスの顔を凝視し、動きを止める。


「運命とか不運にふり回されても、自分の意思で幸せをつかんだらいいじゃないですか。フェリス様は聖女中の聖女なんですから」

「それが出来たら闇堕ちしてないわ」

「あ、それはそうですね? って、世界を滅ぼす? そっか、魔王だもんな僕。やば、このままだと破滅エンドじゃん……」


 うーんと考え込む仕草をしたマオが、ぶつぶつと意味不明な独り言を言い始める。

 その様子に、得体の知れないなにかを感じる。なんだろう、この魔王なのに魔王じゃないような違和感は。


「えっと、フェリス様はどうして断罪されたんですか?」

「濡れ衣だってば」

「わかってます、大聖女フェリス様が罪を犯すはずないですもん」

「マオくん、信じてくれるの?」

「もちろん」


 魔王なのに、聖女を信じてくれるとは。

 やっぱりマオは魔王らしくない。もしかしたら、ただの変態かも……。


(うわぁ、それはちょっと嫌かも)


 マオが変態かどうかは置いておいて、おそらくフェリスに危害を加える人物ではなさそうだ。

 もしかしたら、闇力を持つもの同士、協力関係になれるかもしれない。


 それに、聖女としてのフェリスは陥れられた。無実を訴えても誰も信じてくれなかった。

 かつてともに魔王と戦った、かけがえのない仲間(と自分は思っていた)、勇者一行すらフェリスを断罪しようとした。


 勇者リオンを筆頭に、戦士ガルド、魔法使いミリア、そして聖女フェリス。四人で魔王と戦い、封じたのに。あの戦いは、絆は嘘だったかのように手のひらを返すとは!

 こちらに剣を向けた、勇者リオンの金の瞳を思い出す。あの、正義に燃えた目。彼の中で、フェリスは完全に悪になっているのだ。


 まるで胸に穴が空いたかのような空虚さを一瞬だけ感じた。それを、リオンの目を思い出すことでかき消す。

 誰も信じてくれなかった。そんな人でなしたちなんて、もう知らない。

 信じてくれているのは、マオだけだ。


「うう……マオくん、聞いてくれる?」

「もちろんです! あそうだフェリス様、立ち話もなんですからお茶でもしながら話しませんか?」

「え、お茶……? それどころじゃ……」

「まあまあ。僕魔王なんで、大抵のことからは守れますし。推しとデートイベントとかやってみたかっ……あ、いやなんでもありませんなにか食べたいスイーツとかあります⁉︎」

「デートイベント……」


 デートとは。男女がこう、いついつ会いましょうねと約束して出かけたりすることだ。

 そんな浮ついたことが、聖女に許されるはずもなく。

 たまにお世話係のシスター達が、楽しそうに話していることに聞き耳を立てるしか許されなかった。シスターには許されていたのに、フェリスには許されなかった。今思えば、本当に人権がない。

 そういう意味では、フェリスの中でデートはイベントに違いはなかった。


「デートイベント、わたしもしたかったな」

「ほんとに⁉︎ やった! 今すぐやりましょう!」

「っえ⁉︎ しまった心の声もれちゃったマオくんと⁉︎」


 きらっきらの期待のこもった瞳が、フェリスを真っ直ぐに射抜く。


「い、いやデートイベントとか聖女には……あ、もう聖女とかどうでもいいのかな……?」

「フェリス様、聖女でもそうじゃなくてもデートくらい許されるべきですよ! フェリス様まだ十九歳なんですから!」

「ななななんで歳まで知っ……てるか。わたし有名人だもんね。そそそうよねちょっとくらい……」


 世界滅ぼす前にデートイベントくらい許されても良いだろう。そんな気持ちがわき上がる。

 相手が子供なのは笑えるが、さすがに同年代とデートはハードルが高過ぎるというものだ。


「どの道、このままじゃ僕、破滅エンドしか選択肢ないんで。それまで推しを独り占めしときたい……じゃなくて、一緒に世界、滅ぼしちゃいましょう」

「う、うん……?」


 破滅エンドとは。

 いや、魔王は世界中から恨まれている存在だ。もちろん、全世界の人々の思いは魔王を倒したいの一点だ。

 魔王にとって、討伐されることは破滅エンドでしかない。魔王は世界を滅ぼすか、自身が破滅するかの二択の運命。


 なんだか引っかかることがなきにしもあらずだが、協力出来るならした方がいいに決まっている。利害の一致だ。


「てことで、食べたいスイーツは?」

「あ、えっと……神殿近くの〈聖夜の灯火〉の祈りのシュークリームかなぁ。夜しか販売してない秘密のスイーツなの」

「食べたことは?」

「ないわ。シスターたちはこっそり夜に抜け出して食べてたけど。わたしもこっそり…って、やっぱだめよ、わたし目立つしあれとっても高級品なの」


 王都で大人気のカフェ〈聖夜の灯火〉。憧れではあるものの、自分はその王都から逃げ出して来たばかりだ。

 聖女たるもの質素堅実、俗に染まってはなりません。そんな風に言い聞かせられていたから、お金だってほとんどもらっていなかった。

 ちなみに着の身着のまま逃げ出して来たから、雀の涙のお金すらない。フェリスは今、無一文だった。


「うーん、たしかにフェリス様みたいな見目麗しくて神々しい人が目立たないわけもないですよね。やっぱり推しは世界一だから……」

「はあ……?」

「でもなんとかなりますって。途中でフード付きの外套かなんか見繕いましょ。お金なら僕あるんで」


 にこっと無邪気に笑ったマオが、フェリスの手を取る。枝を隠すなら森でしょなどと言いつつ、フェリスを引っ張って歩き出した。

 フェリスがやって来た方——王都へ向けて。


「ちょ、ちょっと待ってよ〜」


 わけがわからないものの、足が自然と前へ出る。

 フェリスを陥れ断罪した王や、本気で討伐に来た勇者一行はもちろん許せない。


(必ず復讐するわ。ていうかもう世界滅ぼしたい……!)


 でも、世界を滅ぼすなら、祈りのシュークリームも最初で最後。聖女には許されなかった、ほんの些細な憧れくらい叶えたってばちは当たらないはずだ。

 祈りのシュークリーム、逃すわけにはいかない。復讐はそれからだ。

 そんな決意を新たに、フェリスは元来た道をマオと引き返し始めた。


   * * *


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