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闇堕ち聖女と転生推し活魔王は、今日も世界を滅ぼせない  作者: 華空 花
第三章 闇堕ち聖女と家族とスイーツ
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18.聖女の家族と決意

 魔王城のバルコニーに降り立つと、光鉱石の紙袋はマオがさっとフェリスから取り上げた。そのまま室内へのガラス戸を開く。

 そこを潜ろうとした瞬間、フェリスの鼻先に逆さまの生首が上からにゅっと生えた。


「ぎゃー!」


 突然のことに驚き、叫ぶ。

 後ずさろうとしてバランスを崩したフェリスを、力強い腕が抱き留めた。マオだ。

 思わずその肩にすがり付く。そのフェリスの背を、マオの大きな手があやすようになでた。


「まままマオくんお化けが!」

「霊子さん! フェリス様を脅かさないでくださいよ〜」

「えっ……? 霊子さん……?」


 ゆっくりと首だけふり返ると、生首はまだそこに生えていた。いや、逆さまなだけで首の上にはちゃんと胴体も手足もある。逆さまだが。

 その顔をよく見ると、たしかに昼間に会った霊子だ。青白く半透明な身体は、夜になるとほんのり発光しているように見える。

 ぱちぱちと瞬きを数回した霊子は、ふわりと空中で一回転して地面に降り立った。陰鬱そうな表情は相変わらずだ。


「おかえ、り」

「しゃべっ、た……」


 呆気に取られている間に、霊子はくるりと踵を返し暗がりへと消えて行った。


「び、びっくりし……ひぃッ!」


 そこでようやく、大人マオと密着している事に気が付く。しかも、自分がすがり付いている形だ。

 慌てて身体を離そうとするも、今度はマオの腕がフェリスの背に回りそれを許さなかった。


「まままま、マオくん⁉︎」

「フェリス様。僕、絶対にフェリス様を守るんで」


 ぎゅっと抱きしめられ、あっという間に全身が熱くなった。胸が早鐘を打つ。

 マオとはいえ、大人だ。こんなの、恥ずかし過ぎる。


「さ、行きましょ」


 身体を離し、何事もなかったかのようにマオが笑った。途端に闇がマオを覆い、子供マオへと姿を変えた。フェリスの手を取り歩き出す。フェリスの手を引いているのは子供マオなのに、繋いだ手が、熱い。

 城の中は明かりもなく暗い。その中を、発光したままのペンライトが照らし出した。


 やがて食堂へと入ると、やっと燭台の明かりが見えた。そこにはすでに、湯気を立てた料理が並んでいる。絶対に美味しいと確信できる香りが、フェリスのお腹の虫を刺激した。

 食堂には、すでに霊子以外の三人も揃っている。


「みんな!」

「もう、いちゃいちゃしてないで早く座ってよぉ」


 空中を縦横無尽に飛び回りながらベルほおを膨らませる。


「ち、ちがッ……待っててくれたの⁉︎」

「リリー、みんなでお食事、するっ!」


 巨大な蜘蛛の足で器用に足踏みしながら、リリーが鼻息を荒くする。


「さっき霊子さんが教えてくれたから、ちゃちゃっと配膳したのよ。感謝してよねぇ」


 ベルがテーブル上へ降り立った。そこには、ベルサイズの小さな食器が並んでいる。なかには、さらに小さな食材の数々。

 あの小ささをメメの巨体で作っているかと思うと、フェリスの顔に自然と笑みが浮かんだ。

 メメが一生懸命に作ってくれた料理だ。


「ありがとう!」


 マオと顔を見合わせて、席に着く。

 椅子を壊さないように、メメもゆっくりと腰掛けた。リリーに至っては、下半身が蜘蛛で巨体のため椅子はなしだ。それで、上半身がちょうどいい高さでテーブルの上に出ている。


「ふふ、なんだか家族みたいね」


 かつての孤児院での生活が胸を過ぎる。大変だったが、あの場所ではみんなが家族だった。家族だから助け合えた。


「リリーみんなと家族ッ!」

「そうだね。じゃ、食べましょ! いっただき————」

「ねぇマオくん!」


 家族。そう思った途端に、フェリスの中でなにかが動いた。


「えっ、なんですかフェリス様?」

「マオくん、その、みんなも。フェリス様っていうのやめて欲しいの。フェリスでいいわ」

「ええっ」


 困惑した表情のマオが、動きを止めた。


「フェリスね、おっけ」


 ベルはあっさりと承諾して食事を始める。


「ふぇふぇフェリス、さん……?」

「フェリス! リリーと家族!」


 メメとリリーも頷き、食事を始めた。待たせていたのだから、お腹が空いていたのだろう。


「マオくんも。ね? マオくん、同い年なんでしょ?」

「え〜、でも、推しを呼び捨てとかそんな」

「対等でいたいの。わたしだけ持ち上げられるのは、もうたくさん」

「あ……」


 マオかはっとしたように唇を引き結んだ。

 フェリスは聖女として祭り上げられ、特別視され、あれもこれもと押し付けられて来た。

 対等な人は誰もいなかったから、いつもどこか孤独だった。だから、ますます忙しく働くしかなかった。

 フェリスが友達だと思っていたリオン達だって、対等ではなかった。


「フェリス……?」

「うん!」


 元気に頷くと、マオが困惑しつつも少し笑みを浮かべた。


「えっと、フェリス……冷める前に食べよう」

「うん! いただきます!」

「いただきます」


 スプーンを手に取り、湯気の立つポタージュを口へと運ぶ。

 濃厚でクリーミーで、まるでスイーツを飲んでいるかのようだ。あまりにも美味しい。

 家族での食事は、本当に久しぶりだ。懐かしく、嬉しい。


(ああ、こんな感覚ずっと、忘れてたな……)


 ほんわりと胸が温かくなるような、存在しているだけで嬉しくなるような。

 それは、おそらく聖女として神殿に入った初期にも感じていたもの。

 いつから、その気持ちを忘れてしまったのだろう。


「メメ、本当に美味しいわ。ありがとう」

「へへ……フェリスさん、に、ほめ、褒められた……」


 一つ目を忙しなく瞬かせるメメに、鼻の下伸ばしてるんじゃないわよとベルが悪態を付く。その言葉に、メメは余計にまなじりを下げた。

 ここでなら、自分らしく生きられる気がする。そう思うと、胸が熱くなった。


(守らなきゃ……わたしが。リオン達から)


 やっと見つけた場所を壊させはしない。壊れるのは、向こうの方だ。

 胸の奥に渦巻く闇を感じる。そうだ、この闇の力で世界を染める。全てを闇に堕とす。


(絶対に復讐して、全部壊してやるんだから……)


   * * *


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