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闇堕ち聖女と転生推し活魔王は、今日も世界を滅ぼせない  作者: 華空 花
第三章 闇堕ち聖女と家族とスイーツ
16/28

16.特別な存在

(なんか今日、かっこつけてるよね僕)


 繋いだ手の柔らかさと熱を感じながら、真生まおは内心嘆息した。

 推しの前でかっこつけたいのは、自然な感情だと思う。思いはするが、なんというか……。


(推しに認知されてるだけでも奇跡なのに)


 真生は前世では特に積極的な性格ではなかった。フェリス推し界隈の中では、推しスイーツ作りでそれなりの知名度はあった。だが、それだけだ。むしろその認知はSNSの中での認知だ。

 現実世界では、ただのパティシエ志望の専門学生。それなりの人付き合いだったし、異性相手など夢のまた夢。

 それなのに、これはどうしたことか。


(転生した影響かな? それとも……)


 なんだか、自分の気持ちがよくわからない。いや、もしかしたらと思う気持ちはある。あるが、推し活を嗜む者として、それはどうなんだという気持ちが強い。

 ただ、前世と違うのは推しが隣にいること。手が届く場所に。


(って、なに考えてるんだか)


 前方が開け、中央広場に到着する。広場には光鉱石を使った照明があるが、電灯みたいに明るくはない。

 周囲はすっかり夜になっていた。

 夜なのに闇の花が見えるのかという突っ込みは黙っておいた。多分、フェリスはまた失敗するだろう。フェリスの聖力は相変わらず強すぎる。


「さ、着きましたよ」


 そっと手を離すと、フェリスは神妙に頷いた。周囲には、だいぶ少なくなったとはいえ、まだ人通りがある。

 おそらく失敗するだろうと思うものの、警戒はしておかなければならない。人的被害は出したくないし、フェリスに人を傷つけて欲しくない。


「よ、よーし! 行くわよ!」


 ぐっと拳をにぎり、気合を入れているフェリスは本当に普通の女の子だ。人を害するなんてことを考えてもいないような……。

 フェリスがもし本当に人を害してしまったら、その時彼女はどんな風に思うのだろう。

 なかったはずの第二の人生で、フェリスに出会った。この出会いには意味があると思いたい。いつも一生懸命に頑張っていたフェリスという女の子を、守りたい。


「疼きし左手に闇よ集え!」


 フェリスの姿を闇が覆った。その闇は、詠唱通りにフェリスの左手へと集まって行く。

 集中した面持ちのフェリスの身体が動いた。まるでバレエのように、しなやかに身体ごと回転する。その遠心力で飛ばすかのように、闇を周囲にばら撒いた。

 その姿は、闇の力を使っているはずなのに光っている。いや、光っているように真生には見えた。


(フェリス様、やっぱり綺麗……)


 空中で、地面で、ばら撒かれた闇が炎となり二人を取り囲むようにして揺らめく。

 事態に気づいた通行人たちが、何事かと遠巻きに足を止めている。


「えーと、空に大輪の闇の花を! 闇よ降り注げ! 街を闇で覆い尽くせ!」


 炎が尾を引いて、次々に空へと打ち上がる。それは、まるで————。


「い、行っけぇー!」


 爆発音とともに、文字通り空に大輪の花が咲いた。つまり。


「花火、ですねぇ。きれい!」

「えぇ⁉︎」


 困惑しているフェリスをよそに、空では次々と大輪の花が咲いている。

 花火は、もうすでに闇色ではない。黄金の花だ。

 周囲の人々が、空を見上げて瞳を輝かせている。


(わかる、花火めっちゃきれいだよね)


 この世界に花火があるかまでは把握していない。火薬はあったはずだから、もしかしたらあるのかもしれない。それでも、日本みたいに誰でも見られるものではないはずだ。

 何度も見たことのある真生だって、毎回心が躍るのが花火だ。たとえ、寂しく一人で眺めていたとしても。


「フェリス様、最高です! フェリス様の心のように美しいです!」

「街を闇に染めてって言ったのにー!」


 悔しそうに地団駄を踏むフェリスには申し訳ないが、失敗して良かった。あと、かわいい。


「まあまあ。見てくださいよ、すごく綺麗だから」


 フェリスの肩を慰めるように叩き、上を指差す。それを目で追ったフェリスが、花火をじっと見つめた。


「……きれいね」


 ぽつりとつぶやくように言って、フェリスはそのまま動かなくなる。その瞳は、間違いなく輝いていた。

 綺麗なものを綺麗だと思うフェリスの心は、失われていない。この綺麗な花火を生み出したのも、フェリスの心のあらわれだろう。


「ねえマオくん。わたし、闇の力使えないのかな」

「そんなことないと思いますよ。ベルに教えてもらいましょ」

「マオくんは教えてくれないの?」

「僕でももちろんいいですよ。練習しましょう」


 心にもないことを言っている。闇の力を自在に使えるようになられたら困るのに。

 だけど今は、フェリスに信用してもらう方が先決だ。


「いつまでも、こんな綺麗なもの出してたんじゃ……」

「良いじゃないですか、綺麗なものが出たらそれはそれで楽しめば」

「それで良いの?」

「だって綺麗なものが出たのは事実なので」


 ひときわ大きな花火が空を彩り、輝きながら儚く消えて行く。

 その光が消えたと同時に、空から白いものが降ってきた。

 聖花の花びらだ。


「もー! また花びら! もうやだー!」


 ややオーバーリアクション気味に、フェリスは頭を抱えてしまった。その姿は、真生にとってはご褒美だが、フェリス本人は相当ショックを受けている様子だ。

 ぐすぐすと鼻をすする音。フェリスが手の甲で目頭を拭っている。


(な、なんとかしなきゃ)


 手に持っていた光鉱石の入った紙袋を下に置く。

 真生に出来ることなんて限られている。真生は、細長い円柱型に加工してもらった光鉱石を二つ、紙袋から取り出した。持ち手の魔道具を付けて、ペンライトにしようと買って来たものだ。


「フェリス様! この光鉱石に聖力込めてもらえますか?」

「えぇ、なんで今……」

「良いから、ね?」


 フェリスはペンライト風光鉱石を受け取った。すぐにその手から光があふれ、光鉱石がぼうっと白く輝く。

 込められた聖力を制御する魔道具がないため光りっぱなしになるが、今はそれでいい。


「これで、いいの?」

「ありがとうございますフェリス様!」


 光を発する二本のペンライト風光鉱石をフェリスから受け取り、五歩ほど後ろに下がる。

 顔の前でペンライトを構えた。涙に濡れつつも怪訝そうな顔をしているフェリスの目線を引くように、ペンライトごと身体をかがめる。

 そこから一気にペンライトを上に下にぶんぶんふり回した。リズム良く、スピーディーに。いわゆるヲタ芸というやつだ。


「フェリス様最高! フェリス様かわいい! フェリス様世界一!」


 前世では運動神経があまり良くなかった。だからヲタ芸も上手ではなく、もちろん人目に付く場所で披露など言語道断だった。

 でも魔王となった今、真生は超人的能力を得ている。こんな動きだって完璧にこなすことが出来る。


「……そんな光鉱石の使い方初めて見たわ」

「そう! ですよねッ! これは日本での推しを讃える舞ですっ!」


 少し盛ったが、別にそれを咎める者もいない。そういうことにしておこう。


「どんなフェリス様も特別な存在です。フェリス様は世界にひとり!」

「マオくん……あ、ありがとう……」


 さすがに、光りものを持っているせいで周りに人が集まり始めた。フェリスの名を聞いて、大聖女様かと言い出す者もちらほらいるようだ。

 長居は出来ないが、フェリスにはちゃんと気持ちを伝えたい。


「失敗しても成功しても、関係ないです! 僕が推してるのは、フェリス様なので! 存在してくれるだけで嬉しいです!」


 右に左にペンライトをふり回す。最初はあっけに取られた様子だったフェリスの顔に、笑みが浮かんだ。次の瞬間、たまらずと言った風に吹き出し、声を上げて笑い出した。


「どんなフェリス様も推します!」


 ぐっと全身に力を入れて、ピタリと止まる。こんな動きが出来る日が来るとは、転生も悪くない。

 フェリスは、笑いすぎて涙を流している。真生としては本望だ。

 決めポーズを解くと、フェリスが笑いながら拍手をしてくれた。それを見た周囲の見物人からも、ぱらぱらと拍手が上がった。


「なんか元気出てきたわ。ありがとうマオくん」

「へへ……」


 夜とはいえこんな人目に付く場所でヲタ芸を披露することになるなんて、前世では考えられないことだ。

 魔王になってから、魔法も自由自在に操れるし身体能力も常人をはるかに超えている。姿形まで自由だ。圧倒的強者。だからこそ、その全てでフェリスを推したい。助けたい。

 この世界には楽しいことがたくさんあるのだと、滅ぼさなくてもいいと伝えたい。


「さ、フェリス様帰りましょう。メメが美味しい食事作って待ってます」

「うん」


 光ったままのペンライトを腰のベルトに差し込み、光鉱石入りの紙袋をフェリスに渡した。

 紙袋を胸に抱えたフェリスを、さっと抱き上げる。


「では、快適な空の旅をご提供しますね、お姫様」


   * * *


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