黒チューリップ
「……また来たの?」
私の口から出された声は、酷くかすれていた。
それでも彼は聞き取ったらしく、私の質問に答える。
「うん、また来た。悪かった?」
そう言った彼は、私がいなくなったらどうするんだろう。
その疑問を、素直に口にする。
「来なくていいのに。それより、私がいなくなったらどうするの?」
その時はその時だ、と返した彼は、少し寂しそうだった。
そういえば、そろそろかな。
そう思って、彼に話しかける。
「話変わるけどさ、その辺りにチューリップがあるでしょ?黒いやつ」
「ああ、あるな。……それがどうかしたのか?」
鈍感なのかな、と思いつつ、私は答える。
「あげる。色水で染めてるだけだから、じきに色が抜けるか枯れるだろうけど」
そう言うと、彼は少しびっくりしたような顔をする。
「大切にしてたものなのに……いいのか?」
元は晴れ空に浮かぶ雲のように綺麗な白色だったはずの、黒く染められたチューリップ。
それに込められた真意に、彼はきっと気づかない。
そう思いながらも、彼に言葉を返す。
「いい。始めからあなたにあげるために買って、そして染めたものだから。」
そっか、ありがと。
そう言った彼はまだ知らない。
私がもうすぐ、彼の前から消えることを。
ごめんなさい。素直に言葉に出来なくて。
だから、その花に込めた。
わざわざ私、何日もかけて染めたの。
白いチューリップを。
「……じゃあ、またな」
いくら話しかけても無言でいる私になんとなく気まずくなったからか、彼は去っていった。
ドアが閉まったことを確認した私は言った。
「私を忘れて。私はどこか遠くで待ってるから」
__思い出すのは、また出会えたときに。
3.11の日です。黙祷しましょう黙祷




