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港の別れと、見えない影





大島の港には、朝一番の定期船が白い飛沫を上げて停泊していた。


夏の終わりの眩しい陽光が降り注ぐ中、舞子と栞は、鳴海と奈緒の二人が船に乗り込むのを、名残惜しそうに見守っていた。




「舞子姉さん、栞姉さん。いろいろとお世話になりました」




鳴海が深々と頭を下げると、舞子は彼女の肩を優しく抱き寄せた。




「いいのよ、鳴海。ここはあなたたちの家でもあるんだから。……奈緒、学校が始まっても、何かあったらすぐに連絡するのよ。伊勢の神様の慈愛を忘れないでね」




「うん! 舞子お姉ちゃん、栞お姉ちゃん、またね!」




奈緒が力いっぱい手を振ると、栞が少し照れくさそうに眼鏡を直しながら、一包みの包みを差し出した。




「これ……向こうで読みなさい。光の力を制御するための、古文書の写しよ。……じゃあ、気をつけて」




汽笛が響き、船がゆっくりと岸壁を離れていく。二人の姿が小さくなるまで、舞子と栞はいつまでも手を振り続けていた。




数時間後。




博多に辿り着いた鳴海と奈緒は、水野の家へ戻る前に、ある場所へと足を向けた。




「……ねえ、鳴海お姉ちゃん。貞子さんのところへ行こう? 新作のデザート、早く食べたいな」




「そうね。大島での出来事、貞子さんにも報告しなきゃ」




二人が「海猫亭」の暖簾をくぐると、そこにはちょうど昼のピークを終え、一息ついていた貞子の姿があった。




「あら……鳴海さんに、奈緒ちゃん!」




貞子の顔に、パッと明るい笑みが広がる。それぞれの試練を乗り越えた三人は、再会を喜び、互いの無事を分かち合った。




「貞子さん、これ新作でしょう? 私、大島にいる時からずっと楽しみにしてたの!」




奈緒が嬉しそうに『雫』のデザートを頬張る。




「美味しい……! なんだか、海の中にいるみたい」




その様子を見て、貞子は「良かった」と胸をなでおろした。葉月や沙織も加わり、店内はしばし賑やかな再会の空気に包まれた。




賑やかな笑い声が響く中、鳴海だけは、貞子がふとした瞬間に見せる「指先の微かな震え」と、入り口のドアが開くたびに一瞬だけ強まる「強張った肩」に気づいていた。


鳴海は、葉月たちが奈緒と盛り上がっている隙を見計らい、カウンター越しに貞子の手の上に、そっと自分の手を重ねた。




「……貞子さん」




鳴海の声は、春の海のように穏やかで優しかった。




「何か、深い不安を抱え込んでいませんか? せっかく再会できたのに、あなたの瞳の奥が、どこか遠い場所を警戒しているように見えるんです」




貞子はハッとして鳴海を見つめた。自分の感情を隠せていると思っていたが、人の心を繊細に読み取る鳴海には、嘘をつけなかった。




「……鳴海さん、私……」




「無理に今すぐとは言いません。でも、一人で抱え込まないでくださいね。私たち、一緒にあの嵐を乗り越えた仲じゃないですか。何かあるなら、いつでも私に話して。あなたの心が少しでも軽くなるなら、私はいくらでも聞きますから」




鳴海の真っ直ぐで温かい言葉に、貞子の張り詰めていた緊張が、少しずつ解けていく。




「……ありがとう、鳴海さん。実は、この店に来るあるお客さんのことで、少し気になることがあって」




貞子が重い口を開きかけたその時、店の外を黒い車がゆっくりと横切っていった。


鳴海は貞子の手の震えが止まったのを確認し、優しく微笑み返した。




「大丈夫。まずは、この美味しいお菓子を食べて、深呼吸しましょう。それからゆっくり、聞かせてね」




鳴海の優しさに触れ、貞子の強張った心がようやく解け始めました。

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