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朝の祈りと旅立ちの予感





大島の朝は、透き通るような静寂と共に明ける。




羽田家の居間では、新しく安置された「黄金の巻物」を前に、四人の姉妹が揃って手を合わせていた。かつての重苦しい空気は消え、今やそこには、家を支えてきた先祖たちへの純粋な感謝の祈りが流れている。




「……おはようございます、お姉さまたち」




奈緒が鈴を鳴らし、静かに目を開ける。その表情は、嵐の夜に「白闇」に呑まれかけていた頃が嘘のように、健やかで瑞々しい。




「さあ、お祈りが済んだら朝食にしましょう。今日は奈緒のリクエストで、大島産のひじきを炊いたわよ」




舞子が穏やかに声をかける。その横で、栞は相変わらず古文書の端切れを読みながら立ち上がり、鳴海は奈緒の寝癖を優しく直してやっていた。




朝食の席、賑やかな笑い声の中に、ふと少しだけ寂しい話題が混ざった。カレンダーの数字は、すでに八月の終わりを指している。




「そういえば……奈緒。夏休みも、もうすぐ終わりね」




舞子の言葉に、奈緒が箸を止めて少しだけ肩を落とした。




「うん。……学校が始まるから、明日には本土に帰らなきゃ」




今回の騒動の間、奈緒は「羽田家の巫女」としての覚醒を支えるために大島に滞在していたが、本来の彼女は本土の水野家から学校に通う身だ。




「そうね。奈緒ちゃんがいないと、この家も急に広くなって寂しくなっちゃうわ」




栞が珍しく本を置き、奈緒の頭を撫でる。




「大丈夫だよ、栞お姉ちゃん。伊勢で力を授かってから、私、なんだか前より体も軽いし、博多にいても大島の波の音が聞こえる気がするの。それに、鳴海お姉ちゃんも一緒でしょ?」




奈緒が隣に座る鳴海を見上げると、鳴海は優しく微笑んで頷いた。




「ええ。水野の家に戻っても、私がしっかり奈緒のことを見守るわ。舞子姉さんも栞も、いつでも連絡してね」




羽田家の長女・次女として大島を守る舞子と栞。




そして、水野家の姉妹として本土へ戻り、日常の中で力を育む鳴海と奈緒。




かつては「養女」という複雑な境遇や、隠された血縁に戸惑っていた彼女たちだったが、今回の供養を経て、その心は一つの「家族」として固く結ばれていた。




「いい、奈緒。学校が始まったら、巫女の修行も大事だけど、まずはお友達とたくさん笑うこと。それが一番の浄化になるんだからね」




舞子の言葉に、奈緒は「はい!」と元気よく返事をした。


窓の外では、ツクツクボウシが夏の終わりを告げている。




明日、奈緒と鳴海は博多行きの船に乗る。




そこには、自分のルーツを見つけ、新しいメニューに励んでいる貞子が待っているはずだ。




「(貞子さん……。私たちが帰ったら、また海猫亭で美味しいデザートを食べさせてね)」




奈緒は心の中で、まだ見ぬ新しい「潮目菓子」の味を想像しながら、大島で過ごす最後の休日を慈しむように、温かいお味噌汁を啜った。

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