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二つの孤独、二つの結末





猫島の海岸、大干潮の祭壇で、貞子は静かに立ち上がった。




指先から伝わってきた「てい」という名の少女の温もりは、今や貞子の胸の中に確かな重みとして宿っている。


彼女は、自分が単なる「呪いの連鎖」の一部ではなく、勇気を持って海を渡った「器」の末裔であり、ここに残された「影」たちをも抱擁できる存在であることを知った。




「さようなら、私の始まりの場所」




貞子が祭壇を後にすると、満ち始めた潮がゆっくりと石板を飲み込み、再び深い海の下へと隠していった。それは封印ではなく、ようやく訪れた「安息」のようだった。貞子はもう、自身のルーツに怯えることはない。彼女は、海猫亭で待つ葉月のもとへ、そして自分自身の人生を歩むために、静かに島を去る準備を始めた。




一方、大島の羽田家では、嵐の後の静寂の中で、もう一つの「決着」が着こうとしていた。




黄金色に輝く巻物を抱きしめた舞子と鳴海の前で、奈緒は深い眠りから覚めた。その瞳には、先ほどの「白闇」の冷たさはなく、いつもの優しい光が宿っている。




「……ねえ、お姉ちゃんたち。私、夢の中でたくさんの女の人たちに会ったの。みんな、泣きながら笑って、『ありがとう』って言ってた」




奈緒の言葉に、栞は優しく微笑んだ。




「彼女たちは、もう影の中に隠れなくていいのよ、奈緒ちゃん。私たちが、この巻物に彼女たちの名前を刻み直したから。彼女たちはこれからは、羽田家を守る本当の守護霊として、私たちと一緒に生きていくわ」




舞子は、黄金に輝く「再生の巻物」を、蔵の奥ではなく、居間の最も高い場所に安置することを決めた。それは、二度と「無かったこと」にする犠牲を出さないという、当主としての誓いだった。




数日後、博多の「海猫亭」




「貞子! おかえり! 全く、連絡もよこさないで心配したんだから!」




葉月の威勢のいい声が店内に響く。貞子は少し照れくさそうに笑いながら、いつもの席に座った。




「ごめんなさい、葉月。……でも、ようやく本当の意味で、自分のことが分かった気がするわ」




貞子は、猫島で見た「鏡の家」の話を、葉月にだけは静かに語り聞かせた。




その数軒隣の路地を、栞が足早に通り過ぎていく。彼女の手には、羽田家の新しい歴史を記すための白紙の手帳が握られていた。




貞子と栞




二人は同じ博多の空気を吸い、同じ嵐を乗り越えた。




一人は「血の呪縛」を解き明かした巫女の末裔として。




一人は「己のルーツ」を抱きしめた、孤独な、しかし誇り高い女性として。




彼女たちの道が再び交わる日が来るのか、それはまだ誰にも分からない。


しかし、大島と猫島、それぞれの場所で癒された「影」たちは、今も静かに彼女たちの背中を見守っている。

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