1-7
足音が、石畳を叩いて詰めてくる。
鉄が鳴る。鎧の金具が擦れる。息が荒い。
「追え! 逃がすな!」
女騎士の声が、石の壁で跳ね返った。
角の向こうで影が膨らみ、兵が押し寄せる。
ジュスタンは少女の手首を引いたまま、路地の奥へ身体を押し込んだ。
左脚が一拍遅れて、石畳が沈む。ぬかるみに足を取られるみたいに。
松葉杖の先が滑る。
腕に体重が集中して、指が痺れた。
背中の気配が、もう近い。
呼吸の熱が届く距離だ。
ぐらり。
踏み出した足が空を踏み、視界が傾く。
「くっそっ……!」
松葉杖が支えきれず、肩から転ぶ。
「もういい……お前だけでも逃げろ」
「俺は立つのに時間がかかる」
少女が迷いなく左脚へ手を伸ばした。
指先が皮膚の上をなぞる。熱を測るみたいに。
「……これ」
声に温度が乗っている。
嫌悪に近い温度だ。
「怪我じゃない。呪いだ」
「……は?」
「結構、厄介」
︙
路地の口で、女騎士が盾兵を押しのけた。
その背後から、奴隷商の手下が息を荒くして割り込む。
「遅い! 何のための護衛だ!」
「……なんだと……貴様」
女騎士の視線が冷たく刺さる。
「やる気あんのかよ、金になる商品が逃げたら困るんだよ」
「……口を慎め」
女騎士の鋭い目つきに手下の頬が引きつる。
「さ…さっさと追えよ、騎士様よ」
︙
「私が上書きしたら、少しの間だけ動ける」
「私を助けたいなら、同意がいるけど、どうする?」
「んなっ!?」
(こいつ自分の立場を分かってるのか、っていうか何言ってるんだ?)
「選んで」
「嫌なら、いいよ」
足音が、もうそこにいる。
金具の音が近づいてくる。
「……くそっ」
「わかった! 本当に動けるようになるんだな!?」
「うん、契約成立」
︙
女騎士が顔を上げた。
空気が、ざらりと擦れる。
「またかっ!?」
胸の奥に、尖った違和感が刺さる。
女騎士は走った。
盾を投げ捨てる勢いで、路地の奥へ踏み込む。
「どけ!」
兵が避ける。
手下が舌打ちする。
女騎士は路地の角を曲がった。
そこには、もういない。
残っているのは、石畳の異常だった。
表面が割れ、めくれ上がり、粉が舞っている。
踏み込んだ両足の跡が、深く残っていた。
まるで地面が、重さに耐えきれなかったみたいに。
女騎士の喉が、小さく鳴る。
「……勇者が…なぜ…」
言葉が、続かない。
女騎士は歯を食いしばる。
彼女は一度だけ拳を握り、すぐに開いた。




