先生に警戒されました
——私は先生の素顔を見てしまった。
先生の眼鏡は、認識阻害の眼鏡だった……
「わぁ、先生って眼鏡外すと更にお顔立ちが美しいのですね?」
びっくりした。認識阻害眼鏡をしていてもイケメンだったのに……
「それは認識阻害眼鏡でしたのね?学校で外したら、殺傷事件が起こりそうですわ」
——アズ兄様、上には上がいましたわ
「その眼鏡は、自分で外す以外は絶対外れないように陣を刻まれていますか?」
学園の令嬢を思うと……想像しただけで恐ろしいわね。
「……外れない陣は刻んでいない。参考にさせて貰うよ」
(平気みたいだな……陣か、それはいいな。後でつけてもらおう)
先生の警戒が、フッと解けた。
納得したならいいけど、顔を見る事に、何の意味があるのだろうか?
「先生ナトゥーアのご出身でしたね?そのお顔立ちだと人に囲まれてしまい、生活するのにさぞかし不便でしょうね」
アズ兄様だってあんなに大変なのに……
「でも、認識阻害眼鏡をかけるのは、綺麗な顔立ちが隠れて勿体ないですね」
——モテるって、なんだか大変なのね。
「……君は随分と物知りのようだな?」
(誰から聞いたんだ?)
あら、先生少し嫌そうね?
「お友達に、噂話が大好きな令嬢達もおりますので、何かと聞き及んでおりますわ。貴族女性の嗜みですの」
リリお姉様のお友達だって、先生に言ってもいいのかしら?
でも、今、先生とゆっくり話している程の時間はないわね。
(やっぱり転生者の彼女は大丈夫そうね。ちょっと詳しく話を聞いてみようかな?)
転移勇者の思考にハッとする。
先生に余計なことを言われたらマズイ。
「貴方は、魂の……」
(転生者よね?)
私は、キッと睨みつけ「先生の前で言うことではない」と目配せした。
彼女は私の視線に気付き、言葉を途中で止めてくれた。
「ソージュ、ちょっとこの可愛らしい少女と、2人でお話がしたいの。目立たない良い場所はある?」
(きっと今のでソージュは、彼女が何者か気付いたわよね?)
しまった、遅かったわ。
どうしよう……先生に転生者だと、気付かれてしまったみたいだわ。
——まずいわよね。
後で、アズ兄様たちに相談しよう。
ヘルグ兄様の勘では、悪いことにはならないようだし、彼女との話の内容次第だけど……
——味方になってもらえないかな。
「あるにはあるが……本当に、大丈夫なんだな?」
(小さくても貴族女性だ。チャコにもしもの事があったら…)
彼女、チャコさんていう名前なのね?
——可愛らしい名前ですわ。
なんでかしら?……先生は随分と転生勇者に対して、過保護なようね?
「可愛らしい少女とお知り合いになれたから、お喋りしたいだけですよ?」
(ありがたいけど、ソージュはちょっと心配しすぎだわ)
勇者である彼女も、先生の過保護状態はやりすぎだと感じているのね……
——まっとうな人そうで良かったわ。
(彼の気の変わらないうちに急がないと)
「行きましょうか?」
え、先生ってそんなに煩わしい人なんだ……
——知りたくなかったな。
「……ありがとうございます」
憧れているヘルグ兄様には、秘密にしておいた方がいいかしら?
でも、知ったところで……
——強さに変わりはないとか言いそうね
勇者と私は、私たちが使っていた会議室と、真逆に位置する小部屋を使うことになった。
「ここを使うといい。俺はここで待機しておく。何があったら必ず言えよ?」
(相手は子供だし、何とか話に参加できないだろうか?)
うわ……先生わざわざ人払いした女性の話に参加するつもりなの?
——ドン引きなんですけど
「あの! 防音の魔道具を使ってもいいですか?」
私は慌てて、聞かれたくないと意思表示をするために、防音の魔導具を見せた。
(さすがにだめか。小さくても令嬢なのだな)
「良いだろう。余計な事はするなよ?」
先生は、とりあえず要求を呑んでくれた。
「はい、私が彼女に何かする事は、神に誓ってありません」
ほっとして私が答えると、先生は扉を閉め出て行った。
……扉の前にいるつもりだろうな。
——でも、出て行ってくれてよかった。
あ、兄様たちにも話をすると伝えなくては。
「とりあえず座ろうか?」
彼女に促されたので、彼女との繋がりを切り、ヘルグ兄様に念話をした。
(ヘルグ兄様、勇者の女性に出会えました。今から少し話をするので、もしかしたら結構時間がかかるかも)
取り急ぎヘルグ兄様だけに念話を繋いだ。
(使っている会議室の反対側の小部屋です。入り口にアウスリーベン先生が立っているけど、今は警戒心がかなり強いから近寄らないで)
余計なことに巻き込みたくないわ。
(わかったけど、何でアウスリーベン先生が?まあいいけど、アズールには伝えないのか?)
(ヘルグ兄様は、状況をさらっと受け入れてくれるでしょう?今は時間がないの。アズ兄様だと……時間がかかるわ)
こちらも……かなり過保護だ。
相手は同郷の女性だし、問題ないだろう。
(わかった。アズールには俺が伝える。また後で説明してね。何かあったらいつでも呼んで)
(ヘルグ兄様ありがとう。またあとでね)
私は念話を止め、チャコさんに向き合った。
「防音の魔道具を使いますね?」
私は、会話をしながら、魔導ペンのスイッチをカチリと押した。
——心の声を聴くべきか迷うわね
強い感情は聞こえるだろうし、とりあえず、今はいいかな。
「ペン型なんですね?」
チャコさんは、防音魔導具は見た事があるのか、形の違いに興味を示していた。
「私の立ち位置的に、関係ない者には聞かれたくない話をする事も多いので、こっそり防音にするために、この型にしました」
実際は、能力を隠すためなんだけどね。
「お貴族様は色々大変ね。嫌にならない?」
チャコさんは、明らかに面倒くさそうに眉間に皺を寄せている。
——あら、可愛いお顔が台無しだわ。
「そうですね。でも生まれてからずっとだから、慣れてしまえば普通になりますね」
前世に比べると、確かに面倒ではあるわね。
「貴方、転生者よね?」
チャコさんは、分かっていながら、確認のために聞いてきたようだ。
「はい。貴方は転移勇者ですね?」
なので私も、ハッキリと聞きたいことを尋ねてみた。
「そうね、で?話は何?」
彼女は、真剣な顔になっているけど……
「それだけですよ?」
ヘルグ兄様、彼女には出会ったけれど ……
——この後、どうすれば良いのかしら?




