おそろい
「お嬢様、フェルトシュパート様とグランディエラ様が、今ご到着なさいました。お通し致しましたので、こちらに向かっています」
ソフィアが屋敷の庭園まで、足早に知らせに来てくれた。
その後、ヘルグ兄様とアズール様がこちらに向かって歩いて来ているのが見えた。
——警戒しすぎないように対応しなきゃね
私はゆっくり椅子から立ち上がった。
並んで歩いてくる2人は、どちらも容姿が優れているから、とても絵になる。
ヘルグ兄様は騎士らしく背が高い。しっかりした身体付きで、柔らかい銀灰色の髪にアッシュグリーンの瞳を細めて笑みを浮かべている。
——まだ背が伸びそうね。
アズール様は、ヘルグ兄様に聞いた通り、黒に近い青緑色の髪と、濃いめの透き通った青空色の瞳だ。
すっきりした眼差を私に向けている。
ヘルグ兄様よりは小さいけど、彼もこれから身長が伸びそうだわ。
——シュッとしていてクールビューティーね
「ようこそお越しくださいました。フェルトシュパート様、グランディエラ様。私の要望に沿って足を運んで頂き、ありがとうございます」
しっかりと背筋を伸ばし礼をする。
「お招きありがとうティト。いつも通りヘルグでいいよ」
ヘルグ兄様はニコッと微笑んだ。
「分かりました。ヘルグ兄様」
緊張でドキドキしながら、もう1人を見る。
「グランディエラ様、初めましてではないですが、ご挨拶させて頂いてもよろしいですか?」
アズール様の方が立場が上なので、礼儀として私から挨拶をさせて頂く。
「ティーフロート・シュピネルと申します。今日はお会いできて嬉しく思います。先日は素敵な贈り物をありがとうございました」
腰を低くして頭も下げて、私は感謝の気持ちを込めた。
「アズールブラウ・グランディエラです。お招き頂きありがとうございます。私もお会いできて光栄です」
アズール様は爽やかな笑顔を浮かべ
「シュピネル嬢、先日は、誠に申し訳ありませんでした」
私に向かって、丁寧に頭を下げてきた。
「顔を上げてくださいグランディエラ様。そもそも私の失態です。貴方のせいではありません」
——だから謝らないでください。
「それなのに、このように素敵なものをいただいてしまって、頭を下げさせてしまい、私の方が謝りたいくらいです」
私の方が立場が低いのですから、気まずくなるのでやめて欲しいわ。
「だからもう謝らないでください。ヘルグ兄様のお友達ですし、私のことはティトと呼んでください。これから仲良くしてくださいね?」
——もう忘れてください!
「気を使わせてしまったなら済まない。ただずっと気になっていたから、顔を見たら謝りたくなってしまったんだ」
アズール様は申し訳なさそうに笑い、
「俺のこともアズールでいい。よろしく」
彼は、綺麗な所作で握手を求めてきた。
その手を握り返した時……
「ティト、このまま立ってお喋り?」
ニコニコしながら、ヘルグ兄様が指摘した。
「あら?失礼しました。挨拶だけのつもりが。今日は、庭園にお茶を用意しました。お二人ともこちらへどうぞ」
私はアズール様に手を握られたまま、庭園の席まで案内をした。
——これ、エスコートよね?
あまりにも自然に行うから、席に着くまで違和感がなかったわ。
席に座ると、侍女によってそれぞれの元に、お茶とお菓子が並べられていく。
お茶はもちろん紅茶よ。
「今日の紅茶は、アイスシトラスティーにしてみました。お口に合うと良いのですけれど」
ヘルグ兄様は、気に入るかしら?
「香りがいいね、おいしいよ」
ヘルグ兄様を見ると、嬉しそうだ。
——喜んで頂けた様だわ。
「このような飲み方は、あまりしたことがありませんでした。爽やかで美味しいですね」
アズール様も気に入って頂けたみたいだ。
「気に入って下さったなら良かったです。早速ですけれど、アズール様、こちらを受け取ってくださいませ」
私は、アズールに包みを手渡した。
「俺に?なんでまた……」
アズール様は私を見てキョトンとする。その表情は年相応にちょっと幼くみえた。
「私、アズール様に謝られるようなことをされた記憶がないんです。だから謝罪の贈り物を渡された時、実はちょっと困りました」
アズール様の表情に影が刺した。
「でも、アズール様のお気遣いなので、贈り物は受け取ることにしましたの」
彼は、迷惑だったのかと考えてそうね?
「私の為を思って、選んでくれたっ分かる、とても素敵な贈り物を頂きましたので、お礼に私からも贈り物をしたかったのです」
私が、贈り物を気に入ったとわかると、安心したのか、アズール様の表情は少しだけ緩んだ。
——だから、もうあの事は忘れて下さい。
「むしろ負担に思わせてしまったんだね。考えが浅くて、情けないな。でも受け取ってくれてありがとう」
アズール様は、そう言って受け取りながら、
「俺の気持ちを収めたかっただけだから、気にしなくてもよかったのに」
とても申し訳なさそうに眉を下げた。
「情けなくなんかないですよ?相手のことを細かく気遣えるなんて、素敵なことですわ」
ただ、私が後ろめたいだけですわ。
「私など、贈り物をしたいと思ったけれど、結局思いつかなくて、ヘルグ兄様にご協力いただいたのよ?」
ねえ?とヘルグ兄様を見たら、口角を上げながらアイスティーを飲んでいる。
「アズール様には、一瞬しかお会いしてないのに、私が喜ぶようにと、細やかな配慮ができるなんて素晴らしいですわ」
私も見習わなければいけないわね……
「開けてみてもいいかい?」
アズール様は私に褒められて、少し恥ずかしかったのか、ちょっと頬を染めた。
「どうぞ、自分がもらって嬉しかったのでお返しです!」
アズールが包みを開けて、中を見て、目を細めて、くすっと笑った。
「貰って嬉しかったからお返しか、言ったままだな?まさか、送った物そのものが来るとは思わなかった」
アズールは、自分の髪の色と目の色が表と裏で合わせになた、リバーシブルの空間魔法のチーフを嬉しそうに撫でていた。
「貰った時、すごく嬉しかったんです。ヘルグ兄様と色々相談して、最終的に決めました」
——お揃いですよ?
「実は、俺がティトから貰った贈り物がこのチーフで、ティトがアズールからチーフを貰ったんだよ」
ヘルグ兄様は、胸ポケットからチーフを取り出してアズール様に見せた。
「何か楽しくなっちゃって、せっかくならアズールにも同じものにしようってなったんだよ」
私も頂いたチーフを取り出し、アズール様に向かってフリフリと、振ってみた。
「これかなり便利だよ。あ、そうだ。俺たち3人が揃ってチーフを持っていると知ったら、王子がうるさいだろう?」
アズール様は、王子のことを想像したのか眉間に皺を寄せた。
「だからティトから、先日のお詫びということで、王子に同じものを、送ってもらったんだ」
ヘルグ兄様の話を聞いたアズール様は、たまらず吹き出していた。
「確かに3人が一緒で、あいつだけ持ってないと寂しがって、俺だけ仲間外れだと、ユングは文句を言っただろうな」
なんだろう、王子のイメージが……
「寂しがり……寂しがりやの王子様」
私はついうっかり口から余計な言葉が
「……寂しがりやの王子様?ユングはそんなに可愛いくないな」
アズール様は、再び顔を顰めている。
「ふふっ、ティトそれ、あだ名なのか?それはさすがに王子に失礼、ふふっ」
ヘルグ兄様は遠慮なく笑う。
「ご、ごめんなさい。ふふ、ふふふ」
私も釣られて笑い、結果3人で笑いが止まらなくなり、涙が出るまで笑ってしまった。




