『野生の勘』
街道を走り帰宅する馬車は、ガタゴト身体に振動を伝えながら移動している。
「……今日は楽しかったな」
俺は座席の背もたれに身体を預け、窓の外の道行く人の流れを眺める。
「しかし、今まで会えなかった、2年分の隙間を埋めるくらいに沢山話をしたよな」
あの後、魔導具の話、将来の話、今まで一生懸命になったこと、今楽しいと思っていることなど、 ティトとの話は尽きなかった。
貴族が、気兼ねなく喋れる相手は少ない。
——性別が違えば尚更のことだ。
「アズールは、無意識下でティトに異性としての興味を持っているんだろうな……」
アズールの贈り物を見たときに、俺はなんとなく察してしまった。
2人の出会いは「不思議な体験」だった。
「でも、あのアズールが、そのくらいのことで異性に意識を向けるかな?」
彼がわざわざ女性の好みを聞き、髪と瞳の色を訪ね、やりすぎにならない中で、最上の物を準備していた時点で、その想いが見て取れる。
——いろいろ、いつもと違いすぎる。
「シュピネル様から、いずれ婚約者にと声をかけていただいてはいるが、もしかしたら相手はアズールになるんじゃないかな?」
俺の『野生の勘』が言っている。
アズールがティトに、惹かれたというなら応援してやりたい。
ティトのことはかわいいと思う。
素敵な女性だとも思う。
「でも、最初に妹だと思ってしまったせいか、自分の恋人や伴侶としては、意識をしにくいんだよなぁ」
——なんか違うんだよなぁ
「どちらかと言うと親友だな」
なんでか、やたらと波長が合うんだ。
彼女には何でも話せるような気はする。
「なんとなくだけれど、俺は、これから先も、彼女のことを、女性として見ることはできない気がするんだ」
そんな俺が「ちょうどいいから」と婚約者に収まるのは違うと思う。
「……彼女に対して失礼だ」
もちろん、時が来て、お互いに良い相手がいないなら婚約はしていいと思う。
そうなったら、ちゃんと家族として幸せにしようとは思うが。
「ティトには幸せになって欲しいと思うけど、俺が自ら幸せにしたいとは、なぜか思わないんだよな」
ティトは、自分で幸せになるタイプに思う。
俺の勝手な考えだけど、多分当たるだろう。
「まあ、どれも俺の『野生の勘』がそう感じているだけだから、実際どうなるかはその時まではわからないよな」
ティトも学園に行ったら、愛する人ができるかもしれない。
ティトの相手を見定める人間ではいたいが、自分がその位置に収まりたいとは思ってない。
——お互いまだ始まったばかりだ。
「これからもっといろんな話をして、時間を共有すれば「友として」ならもっと仲良くなれそうだから楽しみだな」
ティトが、王子とアズールとも仲良くなれるといいな。
——いつか「俺の妹分だ」と紹介したい。
今日したような、肩の力を抜いた会話が、皆で一緒にできたらいいなと思う。
「家柄的には何の問題もないとは思うが、問題ないからこそ、王子がちょっかいかけるようになるかもしれないな……」
——それは困るか
ティトと王子は別のベクトルでは、相性が良いとは思うが、どちらかと言うとビジネスパートナー向きだと思う。
「ティトに対しては、俺は親友だろ?王子はビジネスパートナー、もしかして、アズールだけが彼女を女性として扱えるんじゃないかな?」
アズールは、いろいろな意味でティトに紹介したい相手ではあるな。
——だけどひとつ気になることがある。
俺は、気付いたら手を握りしめていた。
彼女はアズールの謝罪の件で、隠していることがあると感じ取ってしまった。
俺の能力の『野生の勘』がそう言っている。
俺の能力は便利だ。なにせ野生の勘だから、ふとした拍子に勘が発動する。
騎士としてはかなり有利だ。
——今まで外した事はない。
そんな俺の能力が、アズールの謝罪の件に違和感を感じている。
アズールとの一瞬の会話に、何かが関係しているのだろう。
「何だったかな?しゃべってないのに会話が成り立った、だったか……その時ティトは慌てて逃げたんだよな?」
話をしていても、アズールの謝罪や贈り物に対しては反応してくれた。
けれど、ティトはアズールと会ったときの話は、あえてしなかったのではないかと思う。
「むしろ初めにアズールの話をした時、警戒心を感じたよな。知らない男からの贈り物だから、ティトは警戒したのかなと思ったが……」
その後に事情を説明している時も、ティトの警戒心は解かれることはなかったよな。
アズールを紹介しようとした時も、困ったような、断りたいような、そんな感じがした。
——だから多分間違いない。
『不自然に切り取られたような違和感』がそこにはあった。
わざわざ指摘するようなこともないと思い、今回は口にはしなかった。
「何度か会っていくうちに、話してくれるようになるといいけれど……」
まだ2回しか会っていないんだ。
ゆっくり関係を築いていけたらいいか。




