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私の能力は『以心伝心』全部丸聞こえですわ。【第1章100話完結済】  作者: 黒砂 無糖
第1章 始まりのお話

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『野生の勘』

 街道を走り帰宅する馬車は、ガタゴト身体に振動を伝えながら移動している。


「……今日は楽しかったな」


 俺は座席の背もたれに身体を預け、窓の外の道行く人の流れを眺める。


「しかし、今まで会えなかった、2年分の隙間を埋めるくらいに沢山話をしたよな」


 あの後、魔導具の話、将来の話、今まで一生懸命になったこと、今楽しいと思っていることなど、 ティトとの話は尽きなかった。


 貴族が、気兼ねなく喋れる相手は少ない。


 ——性別が違えば尚更のことだ。


「アズールは、無意識下でティトに異性としての興味を持っているんだろうな……」


 アズールの贈り物を見たときに、俺はなんとなく察してしまった。


 2人の出会いは「不思議な体験」だった。

 

「でも、あのアズールが、そのくらいのことで異性に意識を向けるかな?」


 彼がわざわざ女性の好みを聞き、髪と瞳の色を訪ね、やりすぎにならない中で、最上の物を準備していた時点で、その想いが見て取れる。


 ——いろいろ、いつもと違いすぎる。


「シュピネル様から、いずれ婚約者にと声をかけていただいてはいるが、もしかしたら相手はアズールになるんじゃないかな?」



 俺の『野生の勘』が言っている。



 アズールがティトに、惹かれたというなら応援してやりたい。


 ティトのことはかわいいと思う。

 

 素敵な女性だとも思う。


「でも、最初に妹だと思ってしまったせいか、自分の恋人や伴侶としては、意識をしにくいんだよなぁ」


 ——なんか違うんだよなぁ


「どちらかと言うと親友だな」


 なんでか、やたらと波長が合うんだ。


 彼女には何でも話せるような気はする。


「なんとなくだけれど、俺は、これから先も、彼女のことを、女性として見ることはできない気がするんだ」

 

 そんな俺が「ちょうどいいから」と婚約者に収まるのは違うと思う。


「……彼女に対して失礼だ」


 もちろん、時が来て、お互いに良い相手がいないなら婚約はしていいと思う。


 そうなったら、ちゃんと家族として幸せにしようとは思うが。


「ティトには幸せになって欲しいと思うけど、俺が自ら幸せにしたいとは、なぜか思わないんだよな」


 ティトは、自分で幸せになるタイプに思う。


 俺の勝手な考えだけど、多分当たるだろう。


「まあ、どれも俺の『野生の勘』がそう感じているだけだから、実際どうなるかはその時まではわからないよな」


 ティトも学園に行ったら、愛する人ができるかもしれない。


 ティトの相手を見定める人間ではいたいが、自分がその位置に収まりたいとは思ってない。


 ——お互いまだ始まったばかりだ。


「これからもっといろんな話をして、時間を共有すれば「友として」ならもっと仲良くなれそうだから楽しみだな」


 ティトが、王子とアズールとも仲良くなれるといいな。


 ——いつか「俺の妹分だ」と紹介したい。

 

 今日したような、肩の力を抜いた会話が、皆で一緒にできたらいいなと思う。


「家柄的には何の問題もないとは思うが、問題ないからこそ、王子がちょっかいかけるようになるかもしれないな……」


 ——それは困るか


 ティトと王子は別のベクトルでは、相性が良いとは思うが、どちらかと言うとビジネスパートナー向きだと思う。


「ティトに対しては、俺は親友だろ?王子はビジネスパートナー、もしかして、アズールだけが彼女を女性として扱えるんじゃないかな?」


 アズールは、いろいろな意味でティトに紹介したい相手ではあるな。



 ——だけどひとつ気になることがある。



 俺は、気付いたら手を握りしめていた。


 彼女はアズールの謝罪の件で、隠していることがあると感じ取ってしまった。



 俺の能力の『野生の勘』がそう言っている。



 俺の能力は便利だ。なにせ野生の勘だから、ふとした拍子に勘が発動する。



 騎士としてはかなり有利だ。


 ——今まで外した事はない。



 そんな俺の能力が、アズールの謝罪の件に違和感を感じている。


 アズールとの一瞬の会話に、何かが関係しているのだろう。


「何だったかな?しゃべってないのに会話が成り立った、だったか……その時ティトは慌てて逃げたんだよな?」


 話をしていても、アズールの謝罪や贈り物に対しては反応してくれた。

 

 けれど、ティトはアズールと会ったときの話は、あえてしなかったのではないかと思う。


「むしろ初めにアズールの話をした時、警戒心を感じたよな。知らない男からの贈り物だから、ティトは警戒したのかなと思ったが……」


 その後に事情を説明している時も、ティトの警戒心は解かれることはなかったよな。


 アズールを紹介しようとした時も、困ったような、断りたいような、そんな感じがした。


 ——だから多分間違いない。


『不自然に切り取られたような違和感』がそこにはあった。


 わざわざ指摘するようなこともないと思い、今回は口にはしなかった。


「何度か会っていくうちに、話してくれるようになるといいけれど……」


 まだ2回しか会っていないんだ。


 ゆっくり関係を築いていけたらいいか。




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