終わり良ければ全てよし?
見つけてくれてありがとうございます。
更新は不定期になります。出来る時に頑張ります。
「そろそろ終わりにしましょうか」
カウンター扉を押し開け、入り口の扉を開けて外に出る。
ドアベルが軽やかにリリーンと鳴る。
外に出していた黒板のメニューボードを取り込み、扉に掛けてあるサインボードをクローズにした。
お店は大通りの裏路地の角地にある。表通りに比べれば幾分静かだ。
視線を駅前に向けると、電車の駅に近い交差点では、大勢の人や車が行き交っている。
皆、忙しいのか周りを気にする様子は無い。
仲間同士で、テンション高めで笑い合う実に楽しそうな学生。
スマホ片手に、ダルそうに背中を丸めてコンビニから出てくる会社員。
元気いっぱいな子供が脱走しない様に、手を引く母親。
下を向き、足早に駅に吸い込まれて行く人。
どうやってバランス取ってるのか、心配になる程の荷物を載せた自転車。
ちょっと目を向けただけで、駅の周辺には実に様々な人がいる。
今日は天気も良く、青空が透き通る様に綺麗で、思わず目を細めた。
爽やかな初夏の風が心地が良い。
店の中に戻り、くるりと店内を見回す。
夕陽が窓から差し込んで、店の中がセピア色に染まっている。
漆喰とアンティークウッドの家具、手触りよく磨かれた木のカウンター、アンティークウッドのカウンターチェアは5脚。
拘って選んだ匠の4人掛けダイニングテーブルは椅子も合わせて2セット。
壁にはお気に入りのハーブの苗や、見つけるたびに、つい買ってきてしまう小物達。
お客様から頂いた物もある。
私の大切な思い出達だ。
木の床の傷も、染み込んでしまったコーヒーの染みですら、今の私には愛おしい。
カウンターに座り机を撫でる。
実はこのカウンターは自家製だ。
自分の店を持つと決めた頃、旅先で出会った木材屋に気まぐれで中に入った時に、木目が気に入り、何かに使おうとつい購入した板。
カウンターにはどうしてもこの板が使いたくて、自分で磨いて、オイルと愛情をしっかり塗りこみ仕上げた自慢のカウンターだ。
入り口のベルも、綺麗な音に惹かれて「いつか使いたい!」と若い頃に買った物だ。
昔の自分を褒めてあげたい。
【使い込む程に味が出る】そんな素材で作り上げた店は、店主の私と共に成長して来た。
嬉しい事に時間が経つほど素敵になって、毎日が楽しくて、時間が経つのも忘れて、店の営業に没頭したけど…
——やりすぎたんだ。
私はそもそも虚弱体質だった。小さな頃から身体のあちこちが不調になるから、体調不良は当たり前だった。
会社に勤めていた時、普通の人と同じ事をするだけでかなり無理している状態だった。
サービス業を選んだ時点で無謀だと、虚弱を知っている人達にはよく言われた。
でも人からの評価が「普通」になりたくて、目眩があっても、熱が出ても、怪我をしても我慢して笑顔で頑張っていた。
いつもギリギリを確認していた。まだやれる。まだ頑張れる。
そのうち痛みにも強くなって、平気な顔が出来る様になると周りから「いつも元気だね」と言われた時、凄く嬉しかったんだ。
やっと普通になれたんだと。
さらに頑張れば人から認めて貰えると。
頑張ったんだ。
——頑張り過ぎたんだ。
呆気なく身体が壊れた。何度も入院したよ。毎回違う病気だった。最後は過労で入院。
あの時は、普通に心も壊れた。
仕事も辞めた。
誰かに助けて貰いたかったけど、元々私は他人を頼る事が出来ない性格だった。
他人に甘えるのは苦手だった。
そもそも親がポンコツ貧乏だった。
幼少期から、欲しい物は買ってもらえないから、自分で工夫した。壊れた物は直し、裁縫や料理もできる様になった。
——無駄に器用にはなったのよね。
家を出た当時は頼る宛も無く、生きて行くには仕事するしか無かった。だから腐ってられず辛くても必死に働いた。
入院中「もう何もかもやだ!」と、なった時、
暑い時に暑いと言うと余計暑くなる。と脳が回避し、一周回って思考がポジティブになった。
苦笑いしか出てこないわ。
それからの私は、自分の身体と睨めっこしながら、出来る事からやろうと前に進んだ。
短期バイトで生活を賄っていたけど、私はそのうちしっかりと働きたくなった。
集団に属すると、虚弱な私は迷惑をかけてしまう。それはとても嫌だった。
それを回避する為に、コツコツ貯めていた貯金を全額使って、自分の店を持つ事にした。
それからは、無理のない程度に働いていたつもりだった。
——毎日楽しくて幸せだった。
少しの体調不良なんて、いつもの事だしと過信した。見逃していたんだ。
病院に行ったら、病巣は広範囲に広がっていて、何も出来ないと言われた。
残りの時間は後ちょっとだって。
正直、ショックだしびっくりした。
聞いた時は何も考える事は出来なかった。
でもね、今迄の事を思うと、私の身体はよくここまで持ったなって。
勿論散々泣いたし、「何で」ってなった。
涙が枯れた頃に「もう、いいか」って思ったの。毎日の生活にもう疲れていたんだよね。
あちこち痛いし、すぐ熱出すし。
もうね、生きてるだけで疲れちゃう。
やりたい事、思っていた以上に沢山出来たから、私の人生は満足してた。
残して行く人達には申し訳無いけど。
気持ちの整理もついて、最後に店を少しだけ開けたくて来たんだよね。
友人が最後のお客様として来てくれた。
今から病院に送って貰うの。
友人は今、駐車場に車を取りに行った。
このお店は、友人が引き継いでくれるらしいから、安心して任せられる。
カバンを持ち、もう一度目に焼き付ける様に店内を見渡した。
「今までありがとう。楽しかったよ」
色々あったな。
ちょっと短いけど、いい人生だった。
深く頭を下げた時、ふわっと風が流れ、店が返事をくれた様な気がした。
店を出る時、私が聞く最後のドアベルが
「行ってらっしゃい」と送り出してくれた。
チリリンリリン。
最後の幕引きも私なりに満足だった。
私の人生、全う出来たと思ったよ。
ねぇ、皆。輪廻転生って信じる?
チリリンリリン。
その音に、かすかに“別の鈴の音”が重なって聞こえたのは、気のせいだったのだろうか…
次回から異世界で主人公が能力を宿し、のんびり成長していきます。
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