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✽ 元女公爵、昔語りをする ✽ 第9章 計画遂行2(フランソワーズ視点)  


 まあ、そんなに興奮して騒がないでちょうだい。はしたない。

 それにしても殿下方は私に関することを奥様達に、似通った台詞で説明していたみたいなのよ。

 わざわざ打ち合わせをしているわけでもないのに、なぜあんなに言動が似通っているのか、私は昔から不思議に思っているのよね。 

 本当に似た者同士なのよ。でもまあそのおかげかしら。

 両国ともずっと良い関係が続いていて、今ではお子様達が結婚されて姻戚関係になっているのよ。

 

 うふっ、それにね、貴女にはまだ話してはいなかったけれど、実はね、我が家もその両家と間もなく姻戚関係になることが決まっているのよ。

 貴女のすぐ上の兄マックスが、ロイドネス公爵家のスレッタ様と婚約することが決まったの。

 カラス頭陛下のご次男と赤毛陛下の二番目のご令嬢が結婚されてね、その際に新たに公爵家を興したの。

 そこの三番目のご令嬢がスレッタ様なのよ。

 あらあら、そんなに大袈裟に驚かないで。これはね、貴女のお祖父様が結んでくれたご縁だと思うの。

 

 だって、あの人の葬儀のために両国の王族の皆様がこの領地に来てくださったときに、二人は出逢ったのだもの。

 お互いに一目惚れで、この二年半ずっと手紙のやり取りをしていたのよ。デートは半年に一度この屋敷でね。

 怒らないで。これは貴女だけでなくて、つい最近まで息子夫婦も知らなかったのよ。

 何せ貴女の兄達が鉄壁の防御態勢を敷いていたのだから。


 話が外に漏れたら、どこから横槍を入れられるかわからないでしょ。マックスを狙っている者は多いから。 

 なにせ三男だというのに、あの子は子爵位を与えられる予定になっているでしょ。しかもかなりの美丈夫だし。

 それでも本来、子爵では公爵家の令嬢とはとても釣り合わないわ。

 けれど、どうせ新興公爵家の三女だから気にしないでとおっしゃってくださったの。


 まあマックスは優秀だから、式を挙げる前に伯爵に陞爵(しょうじゃく)されるとは思うわ。でもね、身分や家柄ではなくあの子自身を見てもらえたことがとても嬉しいの。 

 

 話は少しそれてしまったけれど、私の学園時代に得られたものは彼らとの友情ね。

 そして失ったのは、入学当初の淑やかで可憐な公爵令嬢のイメージかしら。

 なにせ我が国最強の女将軍というあだ名が付けられてしまったのだから。(陰では女魔王と呼ばれていたらしいし)

 

 なぜ私にそんなあだ名が付いたのか、貴女にわかるかしら?

 それは黒と赤の王子を軽くやっつけてしまったせいではないのよ。

 さすがに人のいるところで他国の王子を叩きのめしていたら国際問題になっていたもの。

 貴女も知っていると思うけれど、私は王妃や公爵家一族と共に、自国の王を退位させてしまった。

 だから特に男性の皆様に怖がられてしまったのよ。私が計画を立てた張本人だったしね。


 えっ? 

 私がどのような計画を立て、実際にどう実行したのかを知りたいですって? 

 噂ではなく、本人から真相を聞きたいとずっと思っていたの? 

 まあ! 息子もお嫁さん達も誰も聞きたがらなかったのに。

 どうしようかしら。余計なことを話したらハロルドに怒られそうだわ。 

 あの子にこれ以上嫌われるのはちょっと……

 えっ? もう父親と会うつもりはないから問題はないですって! 

 それならなおさらだめよ。この国を出ようとする者に、国の機密に関わる話はできないもの。

 それじゃあ、この国に留まるから話せですって? そこまでして、私の話を聞きたいっていうの? 

 なるほど。将来私に関する本を出すときのためなのね。

 見かけによらずしっかりしているというか、ちゃっかりしているというか。

 まあ嘘を書かないのなら話をしてあげてもいいわ。

 でも、出版するなら、私とハロルドが死んでからにして。それだけは約束してちょうだいね。



********



 隣国の王子達が卒業を迎えようとしていた頃、悪名高い国王はすでに離宮で幽閉生活に入っていたわ。名目上は療養のためとされていたけれど。

 そのため、病の国王に代わって妻である王妃様が摂政として国政を担い始めていたのよ。

 まだ幼い王太子殿下が即位するのは当然無理だったので。

 

 なぜそんな事態になったのかといえば、国王の乱行がついに人前に曝される事件が起きたのよ。

 国王はまだ王太子だったころ、スカーレット様が最初の妊娠していたときも女遊びをしていたわ。

 でもそれは、たまに高級娼婦を呼び出す程度だったの。

 ところが王妃になったスカーレット様があまり間を開けずに再び妊娠されると、今度は王宮や王城の女性に手を出したのよ。

 その中に結婚したばかりでしかも妊娠初期のメイドがいたの。

 国王に乱暴をされそうになった彼女はかなり抵抗したようで、その直後、まだ膨らみのないお腹を抱えて苦しみ出したそうよ。

 しかも足元から出血していることに気付いて、国王はパニックに陥って叫び声を上げたそうよ。そのことで、国王の悪行が初めて露見したのよ。

 

 この事実に王妃様は激怒したわ。

 そりゃあそうよね。自分の妊娠中に他の女性に手を出そうとしたのだから。

 それも合意ではなくて無理矢理に妊婦を強姦しようとしたのよ。

 その女性がなんとか流産を免れたから良かったものの、もしお腹の赤ん坊が助からなかったと思うと私もゾッとしたわ。

 もしかしたら、その女性自身も無事ではすまなかったかも知れないと考えると余計にね。

 

「許せない、許せない。あんな男が私の夫で父親、そして国王だなんて。このままではこの国は崩壊してしまうわ」

 

 普段温和で滅多に感情を表に出さない王妃様が、怒りでこう叫んだので、周りの者達はどうしていいかわからずただ狼狽えていたわ。

 だから私がそっと彼女に近付いて耳元で囁いたの。

 

「そんなに感情を乱されてはお腹の子に差し障りますよ。

 せっかく素晴らしい贈り物を陛下から頂いたのですから、スカーレット様も素晴らしい返礼品をお考えになったらいかがですか?

 将来を見据えて色々と計画を立てることはとても楽しいですよ。

 私が王太子殿下の婚約者候補になってからも穏やかに過ごせたのは、明るい未来を夢見てずっとそのために計画を練っていたからなのです。

 スカーレット様もぜひとも試して頂きたいですわ。

 もし興味を持って頂いたなら、いくらでもその計画書をお見せしますよ」

 

 すると王妃様はすぐに私の話に乗ってきたわ。

 

 王妃様はそれからまもなく、王宮の女官や侍女だけでなくメイドや下働きまで、護衛以外の女性使用人をみんな王城の別の部署へ移動させたの。

 そして、官吏や侍従、従者、下働きの者達まで全員男性だけを配置したわ。

 当然国王は激怒したそうよ。けれど、王宮内の差配は王妃の役目だから口を出すなと、それまでお淑やかで控えめだった妻に睥睨された上にそう言い放たれて、そのショックで黙ったそうよ。

 その結果国王は身支度から入浴、マッサージまで全て男性から世話をされるようになったのよ。

 いくら彼らに抵抗しようとしても密室ではどうにもならなかった。

 そして彼らを捕縛しろ、投獄しろと国王が命じても誰一人国王の命令に従う家臣はいなかったわ。

 それは当然のことよ。彼の周りにいた護衛達は皆、家族や恋人達が、国王によって甚大な被害を被った者達ばかりだったのだから。

 彼らは王命に逆らって処罰を受けてもよい。その覚悟の元で王妃様に従っていたのよ。

 そうこしているうちに、国王は次第に大人しくなっていったそうよ。

 

 結局国王は男の尊厳を傷付けられ、それを誰にも告白できずに気を病んでいったと聞いているわ。

 けれど、他人にしたことはいずれ自分に返ってくるものだわ。

 だから自業自得としか、私も王妃様も思わなかったわね。


 こうして国王は、離宮で静養することになったというわけよ。

 なあに、そんなに怯えた顔で私を見ないでちょうだい。私のしたことをひどいと思う?

 あのまま何もしなかったら、どれだけの女性とその家族が泣き寝入りをしていたと思うの?

 そして、あんな愚王があのまま為政者でいたら、この国なんてすぐに他国から攻め滅ぼされていたわよ。

 両隣の国の次期国王達は、この国の国王のことはとても良くご存知だったのだから。


 その後の王妃様の活躍は貴女も理解しているわよね? 

 彼女は、愚王のせいで傾きかけたこの国を見事に建て直して、中興の王妃と呼ばれるようになったのだから、文句はないでしょ。

 

 えっ? それは裏で私が暗躍していたからでしょうですって? 

 暗躍なんてひどいわね。私は王妃様の友人として相談に乗っていただけよ。

 そしてたまにちょっとだけアドバイスをしていただけ。

 宰相閣下も各大臣の方々もあの愚王さえいなくなれば、その力を思う存分発揮して妃殿下をお支えできたのよ。

 だからこそこうやってこの国を復興できたのよ。

 

 最初の計画どおりに進んで、愚王の側妃にならないで済んで良かったですねですって?

 とんでもないわ。計画は大失敗よ。

 ねぇ、ユリアーナ。そもそもなぜ私が王太子の婚約者候補になったのかを忘れたの?

 私は兄を後継者にするための時間稼ぎのために、おとなしい振りをして王宮に通っていたのよ。

 それなのに、結局私はモントーク公爵家の女当主になったのよ。

 言っている意味はわかるでしょ? つまり私の計画は失敗したのよ。

 



 ここまで明るく軽い調子の祖母の一人語りが続きましたが、次章は少しシリアス展開になります。

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