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✽ 元女公爵、昔語りをする ✽ 第8章 計画遂行1 (フランソワーズ視点)

 

 王太子妃となったスカーレット様は翌年に元気な王子殿下を無事に出産されたわ。

 そのさらにその一年後に王妃となったわ。国王が突然の病で急死して、王太子が即位されたから。

 私はスカーレット様との仲を深めつつ、適当にお后教育を受け流しながら、王宮の中で密かに同志を集めて着々と計画を進めていったの。

 

 しかもその間、王妃様や王宮に仕える皆さんのおかげで、私は国王陛下との接触はほとんど持つことはなかった。

 私の思い込みとは違って、実際は陛下が成熟した女性がお好みだったので、そもそも私に興味を持たなかったのも幸いだったわね。

 とはいえ、私だっていつまでも子供ではないわ。いつ興味を持たれるかわからないと、皆で注意を払ってくれていたの。

 特に近衛騎士のマーチンはいつも私の側にいて守ってくれていたわ。私は王宮内ではすでに准王族と見なされていたから。

 

 前王妃は大分以前に亡くなっていたわ。だから彼が即位すると、国王に意見のできる者がいなくなってしまい、益々自制心を無くしていったわ。

 それこそ思うがまま、好き放題するようになった。

 まだ若い王妃と高齢の宰相の力だけでは、とても国王を抑え切れなかったの。

 

 それでも最初のうちは、女性に関しては国王もそれほど問題を起こしてはいなかったのよ。

 ところが王妃様がお二人目を懐妊して床を共にできなくなると、国王は手当たり次第身近な女性に手を出すようになっていったの。

 しかもそれは女官や侍女だけではなく、声を上げづらいメイドや下働きの若い女性にまで手を出していたのよ。

 被害にあった女性達は、相手が国王だということでほとんどの者が泣き寝入りしてしまったわ。

 そのために周りがその事実に気付くのが遅れてしまい、被害が拡大してしまった。

 

 そしてそのことに最初に気付いたのは、なんとこの私だった。なぜ気付いたのかというと……

 

 

 十六歳になる年、私は学園に入学したわ。

 名門公爵家の令嬢だというだけでも目立つのに、元王太子の婚約者候補(今は側妃候補だが秘匿されている)だったでしょう?

 周りの注目を浴びることは最初から予測できたわ。そのため、学園ではできるだけ大人しく控えめに過ごしていたの。

 ところが、なぜかこの年、偶然にも両隣の国から第二王子が留学してきたのよ。

 当然彼らはこの国の言葉を学んでからやってきたわ。とはいえ、まだ完全だったわけではない。

 そこで両国の言葉に精通していた私が、彼らのお世話係をする羽目になってしまったの。

 

「貴女はかつて王太子の婚約者候補だったのだから、この二つの国の言葉くらいマスターしていますよね? 国の税金で学んでいたのですから、それを少しはこの国の役に立ててくださいね」

 

 とその教師は言ったわ。まあそれは間違いではなかったけれどとても腹が立ったわ。王宮、つまり国はまだ十二歳だった子供の私を無理矢理に王太子の婚約者候補にして、勉強を強要したのだから。

 私は公費で学ぶ必要なんて元々なかったのに、その費用を返せと言っているのも同義でしょ? 無茶苦茶な話だわ。それにそれをどうしても不満に思うのならば、まだ学生の私にではなく、私の父に要求すべきよ。

 

 教師は単に王子達の世話を私に押し付けたいだけだったのでしょう。私がおとなしくしているからいい気になっているのだと思ったわ。

 あの職務怠慢の教師にはいずれお礼をしなくては……と私は心の中で悪態をついた。令嬢としてはあるまじき行為だったけれど。

 そして私は嫌々ながらもまあそれなりに、苦情が出ない程度にお世話係を務めたつもりだった。

 ところが私の普通、それなり、適当は、一般の人々とは違うらしかったわ。まあ、公爵家と王家の厳しい教育を受けたせいなのかもしれないけれど、完璧なおもてなしをしてしまったらしいの。

 そのせいで二人の王子は私に好意を持ってしまったみたいなの。彼らはどちらが私と付き合うか、絶えず競い合いをするようになってしまったわ。

 もちろん私は二人に、どちらともお付き合いする気はありませんとはっきりと告げたのよ。そりゃあそうでしょ。たとえ秘匿されているとはいえ、当時私は側妃候補だったのだから。もちろん側妃になんて絶対になるつもりなんてなかったけれどね。

 

 それでも二人は私の側に絶えず張り付いて、周りの人達を牽制するようになったわ。彼ら曰く、私を狙っている男性は多いのですって。そんなことは信じられなかったけれど。

 そしてある日二人がこんなことを言い出したのよ。

 

「貴女は王妃殿下と仲良くなされていてよく王宮へ行かれるそうですが、あまり王宮には近付かない方がいいと思うよ」

 

 私も行きたくはないんですけどね〜。

 

「本来この国のご令嬢にこんな話をしてはいけないのでしょうが、貴女は以前陛下がまだ王太子だったころ、婚約者候補だったのでしょう? でしたら陛下のことはよくご存じですよね?

 せっかく婚約者に選ばれずに済んだのですから、なるべく王宮や王城には近付かない方が懸命ですよ。

 今、王妃殿下は懐妊されているでしょう? そのせいで陛下は、王宮や王城のメイドや下働きの女性に無理矢理関係を迫っているそうですよ。

 ですから、貴女のように美しい女性を見たら襲ってくるかもしれません。とても危険です」

 

 その話を聞いて私は絶句したわ。一国の王がそんな破落戸のような真似をしているなんて。

 しかもそれを他国の王族に知られるなんて。私はめまいがしたわ。隣国に恥というか弱みを見せてどうするのだと。

 しかし、国王は悪知恵だけは働いていたらしい。我がモントーク公爵家の諜報担当者が調べた結果はこうだった。

 

 国王はなんと、王城に滞在している両隣の国の王子達が国から連れて来たメイドにまで手を出そうとしたらしいの。危機一髪のところを仲間の護衛に救われたので未遂だったみたいだけれど。普通、たとえ酔っていたのだと言い訳をしたとしても、そんなことで済むはずがないわ。

 さすがに国王自身もそう思ったらしく、学生時代の遊び仲間に依頼して王子達に罠をかけたのよ。そう、王宮の夜会に彼らを招待して、その道のプロである女性達に誘惑させたみたいなの。

 

 十七で未成年の他国の王子達によ。そりゃあ手練手管の年上美人の手にかかったらひとたまりもないわよね。

 しかも彼らは隠していたけれど、婚約者持ちだったのよ。それを調べ上げていた国王は、婚約者にこのことをバラされたくなかったら自分のことも漏らすな、と脅しをかけたらしいわ。

 私はそれを聞いて目まいどころではすまなくなり、頭痛と吐き気を催したわ。

 まるで破落戸のようなこの真正のクズを王位から早く引きずり落とさないと、この国は潰れてしまう。当時まだ十六歳だった私にもそれがわかったわ。


 その後王妃であるスカーレット様が、玉のような二人目の王子殿下を無事にお産みになったわ。

 そこで、そろそろ本格的に例の計画を進めていこうと私は思ったわ。王子殿下もお二人いらっしゃるし、もう、あんな国王はいらないもの。

 そしてそれと同時に、あの隣国の王子達にも何か罰を与えようと決めたわ。

 婚約者がいながら私に迫るなんて、一体何を考えているのよってものすごく腹が立っていたから。

 自国だけでなく留学に来てまで女遊びをするなんて許せなかったわ。

 国王に嵌められたのは気の毒だったけれど、それ以前から色々な女性に手を出していたみたいだから容赦しないと思った。

 

 そして彼らを罰するその機会はそれから間もなく訪れたわ。私から仕掛けなくてもね。

 私がいつまでも色良い返事をしないものだから、ある日の放課後人気のない裏庭で、カラスのような黒髪の王子が私に手を出そうとしてきたの。

 だから私は彼の国の国技である体術でやり返してやったわ。彼の護衛役の侍従もついでにね。あまりに弱くて驚いたわ。


 しかも彼らが護身用に持っていた小刀を奪い取って、彼らの服を破り、バツ印の傷跡をお腹につけてあげたの。二度と悪さができないように。もちろん手加減はしたから、数年後には消える程度の傷跡だけどね。

 彼らは真っ青になって泣きながら四つん這い(正確には土下座というらしい)になって謝ってきたわ。


「このことは知られるとお互い都合が悪いでしょ! だから他言無用にしましょうね!」

 

 私がニッコリと微笑むと、王子と護衛は激しく上下に頭を振ったわ。

 それにしても愚かな人達って行動も似るのね。

 もう一人の赤毛の王子までも、あの黒髪の王子と同じように仕掛けてきたのよ。

 だから彼らの剣を奪い返して、最初からそのお腹を斬りつけてやったの。

 今回の方が無駄無く動けたけれど、掠り傷で済ますためにかなり高度な技術を要したわ。

 その後のやり取りは以下省略ね。


 でも、これには意外な後日談があるのよ。

 本当は自国へ逃げ帰りたかったと思うのだけれど、意外なことに彼ら二人は共にこの国に留まって、真面目に勉強して優秀な成績を残したの。

 しかも体術や剣の鍛錬に励んで、今度は正々堂々と挑戦してきたわ。

 もちろん、再びコテンパンにしてやったけれど、私だけでなく彼らもとても清々しそうな表情をしていたわ。

 そしてその後留学を全うして母国に戻って行ったの。

 帰国前に手渡された二人からの手紙には、半年前の謝罪と、感謝の気持ちが綴られてあったわ。

 そして帰国したら気持ちを入れ替えてやり直すつもりだと。

 これまで蔑ろにしてきた婚約者に謝罪して、彼女一筋に愛して大切にするつもりだとも記されてあったので、その手紙を読んでとても嬉しかったわね。

 王家と関わりを持ったことで、私は多くの大切なものをなくしてしまった。けれども得られたものもあったのだと。


 しかもそれから数年後の話だけれど、彼らが結婚した後に、そのお妃様達からお礼のお手紙を頂いたのよ。

 留学前から浮気を繰り返していた婚約者が、留学から帰ってきたらまるで別の人間になったかのように、真面目で勤勉になっていた。

 しかもこれまでの不義理を謝罪されて、これからは君一筋に大切にしていくつもりだから、共にこの国を支えてはくれないかと懇願されたと。

 そして彼らはそれを有言実行したらしいの。

 

 なぜそんなに人格が変わったのか彼女達は不思議に思っていたらしいわ。

 けれど、結婚初夜にその原因がわかったのですって。

 夫の腹部の傷跡を見てショックを受けたけれど、包み隠さず話してくれた夫のその誠意に彼女達は心打たれたそうよ。しかも


「君は私の秘密を知る唯一の女性だ」


 と言われたことで、その夜はかなり燃え上がったというわ。

 あっ、まだ乙女の貴女にこんな話は早かったかしら? 

 えっ、唯一の女性ではないですって? 貴女って案外細かいところを突っ込むのね。

 でも彼らにとって私は女性のくくりには入っていないのよ。


「この傷跡を目にする女性は生涯君一人だけだよ。

 えっ、傷を付けた相手がいるのだから二人だろうって?

 いやいや、彼女は女性にはカウントされないよ。なぜなら見た目は一応ご令嬢を装っていたが、その中身は魔王だからね」

 

 なんと王子様は二人とも、奥方様にこんな感じのことを言ったそうよ。

 私にとっては失礼過ぎる台詞だと正直思うけれど、二つのカップルが破綻することなく仲睦まじい夫婦になれたのだから、まあ許しましょう。

 とにかくそんなことがあって、その後もずっと彼らとは親交を深めているのよ。





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