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✽ 卒業式は華やかに ✽ 第70章 卒業式 (マリアーナ視点)

 

 とうとう学園の卒業式の日となった。

 来賓挨拶は予想通りだった。

 数年ぶりに表舞台の上に立った王太后殿下は以前と全く変わらず、若々しくてとても元気そうだった。

 長年体調が悪くて養生していたとはとても考えられない姿だったので、会場にざわめきが起こったくらいだった。

 実際は陛下に引っ込んでいるように言われて離宮に居ただけで元気そのものだった。

 長年馬車馬のように働き続けてきたのだから、そろそろ余生を楽しんだ方がいいと、王太后殿下は親友である祖母モントーク元女公爵言われたのだ。

 

 それ以来、乗馬を始めたり、ダンスを楽しんだり、ペットの犬と散歩をしたりと、毎日健康的な生活をするようになった。

 そのせいで以前よりむしろ若返っているわと祖母から聞いていたけれど、本当だったと私も思った。

 

 今年の卒業式は昨年までとは大分様変わりしていた。偉そうにふんぞり返っていた長老議員の姿が来賓席から消えていたのだ。

 例年の長い長い長老達の話は祝辞ではなく、生徒達にとっては呪いの言葉のように聞こえていた。

 建国以来の代わり映えしない歴史を自慢気に延々とするだけで、未来の若者達に対する叱咤激励の言葉一つないのだから。

 彼らの話がなくなっただけで、式は大分時間が短縮された。おかげで卒業ダンスパーティーを思う存分楽しめる。卒業生全員が期待に胸膨らませているに違いないわ。そう私は思った。

 

 卒業生代表として答辞を読んだのは私だった。元生徒会長がやるべきだったのだが、何せ名前だけだったその元生徒会長は王太子殿下だった。その彼が欠席だったので、その役目が私に回ってきたのだ。

 元生徒会副会長がその代理をすべきだと、私だけでなく教師陣も説得した。しかし彼は、学園の風紀の乱れを正せなかった自分にその資格はないと、その役を強く固辞した。

 実質生徒会長の仕事や責任を押し付けられた挙げ句、その生徒会長である王太子に苦言を呈し続けた彼に資格がないというなら、誰にも資格なんてないでしょう、と私は言ったのだが、彼は最後まで首を振り続けたのだ。


 そんなやつれた彼を見て、仕方なくその役を引き受けてから私はこう言った。

 

「今は疲れ切っていて気力が出てこないのでしょう?

 それなら卒業後は領地に帰ってゆっくり休んでください。そしてそこで鋭気がたまったら、私の父の手伝いをしてくれませんか?」

 

 元生徒会副会長のモリス=カートナーは、私の言葉に目を見開いた。

 彼は辺境伯家の三男だ。国を守る屈強な騎士が求められる家に生まれたが、彼は文官タイプであり、家族の厳しい圧にも屈せずに騎士コースではなく、官吏コースに入ってトップクラスの成績を納めた。

 ところが、あの王太子と側近候補連中の暴走を止められなかったことで、自信喪失してしまい、官吏試験に合格していながら、辺境の地に戻ることを決断していたのだ。

 

 あの連中を正せなかったのは私や学園も同じこと。いや、そもそも王家や各々の家庭が責任を負うべきなのだ。

 それを生徒会役員だったからといって、一人で責任を感じることなんてない。

 優秀で誠実な彼のような人間がその力を発揮しないことこそ、この国の大きな損失だわ。

 

「私は王太子の婚約者だったのに、あの方を更生させられなかったわ。

 私はその責任を負って修道院へ入ろうと思って領地へ行ったの」

 

 私がそう言うと、モリス卿は喫驚し、

 

「貴女はずっと頑張ってこられた。そして多くの学生達ために努力をされてきました。

 そんな貴女が責任を負う必要なんて全くありません。

 貴女のような方にはこれからも、時代錯誤のこの国の変革者になっていただかないと困ります」

 

 と勢いよくこう言い放った。それを聞いた私は嬉しくなって、思わず微笑みを浮かべながらこう言ったわ。

 

「ありがとうございます。そう言って頂けて嬉しいです。

 でも今の言葉は貴方にも言えるのですよ。貴方のような将来有望な方が自分の領地に引きこもってしまったら、それこそこの国の損失ですわ。

 私のようにゆっくり心身を休めてから、リハビリがてら我が領地をたまに訪問してはくれませんか? お隣の領地で近いことですし」

 

 私の言葉にモリス卿は暫く呆気に取られていたが、やがて薄っすらと涙を浮かべて頷いてくれた。

 以前エリックお兄様に、これから作る連盟本部に雇用して欲しいと依頼したご令息のうちの一人が、このモリス=カートナー辺境伯令息、元生徒会副会長だった。

 

 


 そして答辞を読み終えて元の自分の立ち位置に戻ろうとした私は、そこで改めて全校生徒の数が減っていることに瞠目した。

 特に卒業生の数が在校生に比べてかなり少ないことを実感した。

 

 リンジー=マントリー元子爵令嬢は退学になっていた。そして多くの令嬢の家から慰謝料を請求された父親によって花街へ売られていた。

 その際、決して生家には近付けないように厳しく対策が取られた。真っ当に一生懸命に生活している両親や弟達にこれ以上迷惑が掛からないようにと。それは、エリックお兄様の強い要望を受けての対処だったと、ヘンリー叔父様から聞いていた。


 ブライアン王太子や、マクレズ伯爵令息を含めた王太子殿下の元側近候補達。そして近頃不正や犯罪行為が露見した家の者達も一応卒業だけは認めてもらうことができた。しかし彼らは全員式には参加していなかった。

 彼らの多くは在学中、家の爵位と権力を振りかざして傍若無人に振る舞ってきた。そのために権威がなくなった今、仕返しされるのを恐れたのか、はたまたプライドを気にしてなのかはわからないが。それは令息だけでなく、令嬢も同様だった

 

 これからは面倒くさい浮浪者(元貴族)が王都中増えそうだから、治安維持が大変だと次兄のスコットがぼやいていたわ。

 牢獄の数を増やすよりも、領地で私が受けたような、庶民教育を受けられる施設を作った方がいいのではないかしら? 

 そんなことを考えながら、私は色々あった学園を卒業したのだった。



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