✽ 公爵領は国際交流の舞台となる ✽ 第63章 五国同盟
私達が三国同盟について話し合った翌日。今度はシルベルトン王国の王妃であるシェルリー殿下と、バリスコット王国の王妃であるチェルリー殿下、そしてブライトン侯爵夫妻が加わって、五国同盟についての話し合いが持たれた。
まだサーキュラン王国の一侯爵に過ぎないカタリナ様とフランドール様は、この場にいていいのかどうか躊躇っていらしたけれど。
お二人の王妃殿下と侯爵夫人は、我が国のオリビエ王妃のお産みになった元王女様方だ。そしてお祖母様の教え子だ。
それ故に気心の知れた仲であり、話し合いは順調に進んだ。
双子の王妃殿下は、三国同盟に是非とも自分達の国も含めて欲しいとおっしゃった。
そしてその本部の場所と代予定表者にも、もちろん異論はないと。
「私達三姉妹の望みは母国と嫁ぎ先である第二の母国を大国からの侵略から防ぎ、独立を維持して国民を守ることです。
そして、それともう一つ。女性の地位向上です。男の方からはよく誤解されるのですが、私達は女性を男性より上の立場にしたいわけではないのです。
ただ優劣は性別に関係ないということを理解してもらいたいだけなのです。
たしかに体力で男性に勝てる女性は滅多にいないでしょう。しかし、それ以外のことなら、それほど差があるとは思えないのです。男でも女でも優秀な者もいれば駄目な者もいます。
それなのに、ただ男というだけで優遇されているような国では、この先の発展はないと思うのです。
私達にとって、女性の社会進出が進んでいる両国はお手本で目標です。皆様の力添えを頂けないでしょうか」
シルベルトン王国の王妃がこう懇願すると、ヤマトコクーン王国の王妃は
「もちろん喜んでお教えいたしますよ」
と微笑みながらお答えになった。
そしてブリテンド国王の王妃もそれに同意されるように頷かれた後で、何か閃いたという顔をして、こんなことを言い出した。
「良いことを思い付いたわ。
サーキュラン王国の学園で学ぶご令嬢は、優秀な方が多いと伺ったわ。
なんでもユリアーナ嬢が、勉強会を始めたおかげで、皆様の学習意欲が上がったとか。
その中で、働く意欲のある方に、これから作る五国連合本部で働いてもらうのはどうかしら?
最初のうちは、立ち上げメンバーの補助という形で経験値を積んでも、そこから正職員になってらうことになると思うけれど。
その方々の仕事振りで、女性でも男性と同様に仕事ができると証明できると思うの。そうすれば、女性に対する見方もかわるのではないかしら」
その思いかげないアイデアを聞いて、私の気持ちは一気に高揚した。
私と共に学んでいたご令嬢の中には、私同様に婚約者から冷遇されている者や、両親から虐待を受けている者がいる。
そんな彼女達は、そこから逃げ出したいと渇望しているけれど、女性が一人で生きて行くのは容易なことではない。そのためにひたすら辛抱しているのだ。
その方々がこの国から離れて仕事に就けたらどんなに良いことだろう。
そんなご令嬢達が我が国だけでなく、双子の王妃殿下の国にもまだまだいるのだろう。
私は、双子の王妃や侯爵夫人と共に、両殿下に頭を下げた。するとお二人は笑って言った。
「人事権はモントーク卿にあるのだから、お父上にお願いしてちょうだい」
と。だから父を見ると、父は大層満足そうな顔をしてこう言った。
「ユリアーナ、お前のおかげで私は、母のやり残した最後の望みを叶えてやりそうだよ。ありがとう」
「それは私達の祖母である王太后殿下の望みでもあったの。
ユリアーナ様、本当にありがとう」
カタリナ侯爵夫人にまでこう言われて、私は不思議な感覚の中に居た。
あのブライアン王太子との辛い婚約者生活から逃れるために始めた勉強会。
それがまさか、王太后殿下と祖母のこれまで叶えられなかった願いの実現のための一助になるなんて、想像もしていないことだったからだ。
エリックお兄様も、良かったねと、私の髪を優しく撫でてくれた。
「災い転じて福となす」
正にそのことわざ通りだわ、と思った私だった。
こうしてスムーズに五か国同盟が結ばれ、調印されたのだ。しかし、その中心国となった我が国だけが、まだ正式な加盟国ではなかったのだった。
できるだけ早急に、我が国の国王にもこの同盟に加わる決断をしてもらわなければならない。
しかしそのためには、まず国王陛下の認識が変わらなければ到底無理な話だ。
そのためにエリックお兄様は、陛下を世界の舞台に立たせるように仕向けたのだ。
現在の世界情勢を目の当たりにさせ、自分の国が置かれている厳しい現状を陛下に認識してもらうために。
歴史と伝統は大切しなければならない。しかしこれまでの我が国は、そればかり重んじて、新しいことをあまり受け入れずにきたせいで、世界からかなり遅れを取ってしまった。
各国とも我が国同様王政を敷いているが、貴族だけではなく、民間の優秀な人材の掘り起こしに力を入れている。
身分や家柄に関係なく雇用試験の結果を重要視して、官僚や役所に採用したり、優れたアイデアを持つ者の新規起業を援助したり。
そのおかげで次々と新しい産業が生み出され、各国とも活気づいている。
そしてそれと同時に、日々巨大化している帝国に対して不安を抱えている、周辺国の実態を知るに違いない。
そして自国も変革しなければ、世界に取り残されるという未来を、ありありと思い知らされることだろう。
まだ学生である私だって、これくらいの情報は持っている。王宮や学園に届けられる世界各国の新聞を毎日のように読んでいたから。
陛下には、多くの新聞に目を通す暇なんてなかったとは思うけれど、肝心な事柄は宰相であるお父様や外務大臣から報告されていたはずだ。
これは私の勝手な推測ではあるけれど、陛下は想像力が足りない方なのだと思う。
そして文字や音声で物事を知っても、実際に目にしないと物事を認識できないのではないかと。
王妃殿下のことだってそうだ。
精神的にかなり追い詰められているから、もっと気に掛けてあげて欲しいと、陛下は周りから散々忠告されていたのだという。
それなのに陛下は、同じ宮廷内にいながら王妃殿下と顔を合せようとはしなかったそうだ。
そして、私が婚約破棄をされたあの日、初めて壊れかけた王妃殿下を目の当たりにして、陛下は驚愕したのだ。
そしてそれは王太子だったブライアン様のこともそうだったのだろう。
まさか自分がこれまで誰よりも愛し、大切にしてきたたった一人の息子が、こんなにも愚かだったのか!と。
そのことに初めて気付いたショックと怒りで、陛下は息子の顔の骨が砕けるほどに殴りつけたのだから。
陛下の地頭は悪くないのだと父は言っていた。とても不敬な物言いだと思うけれど。
父達が学生だったころはまだ試験結果が貼り出されていたから、下級生だった父も当時の王太子殿下の成績は知っていたそうだ。
しかし、前陛下があまりにもアレだったために、国王になる前もなってからも、目標とする国王が存在せず、理想の王のイメージがわかなかったのかもしれない、と父は言っていた。
それならば偉大な母親を模範にすればいいのではと思ったが、王家の教師達から伝統的な帝王学だけを学ばされた結果、男尊女卑の思想を埋め込まれてしまったそうだ。
当時政治を担っていた王妃殿下でも、帝王学の改編まで手出しする余裕がなかったそうだ。
この国が大切にしている伝統とかしきたりなんて、むしろはた迷惑以外の何物でもないような気がしてきたわ。
父も陛下と同じように女傑を母に持っていたが、父には目標となる立派な父親が成人した後も健在だった。
そのために、母親に対する苦手意識はあっても、女性蔑視、軽視をすることはなかったのだそうだ。
「せめて陛下が人の話を聞く耳を持ち合わせてくれていたら、あんな偏屈な人間にならなかっただろうに。非常に残念だよ。
私を友人と思ってくれていた陛下だったが、女性に関する忠告だけは受け入れてくださらなかったからな」
五か国会談の席で、お父様は遠い目をしてそう呟いていた。




