✽ 公爵領は国際交流の舞台となる ✽ 第61章 三国の繋がり
十数年前、ブルジョア階級の反乱軍によって成立した新スラレスト国は、十年も経たずに国内は無政府状態になって混乱に陥っていた。
その治安の悪さが次第に近隣諸国にも及ぶようになった。特に領土を接しているヤマトコクーン王国とブリテンド王国、そして我が国は頭を痛めるようになった。
そこでこれ以上悪影響を受ける前に対策を取らねばと、三国で話し合うことになった。
いわばそれが、初めて行われた三国会議と言えるだろう。
もっとも、我が国の国王は病気療養中であったので、王妃に全権を委譲された祖父母が参加していたという。
二か国の国王は、行方がわからなくなっているスラレスト国王の遺児を見つけ出し、王国を再建させたらどうかと提案した。
三国から後見人をつけて。
しかし、王子の身内はサーキュラン王国のモントーク公爵家のみで、スラレスト国内には誰もいない。
そんな状態では、たとえヤマトコクーン王国とブリテンド王国から後見人が置かれても、サーキュラン王国の乗っ取りだと世間から思われるのは必然だと、祖父母は主張したという。
そして親友でもある二か国の国王を信じて、エリックお兄様の存在を告げたのだという。
スラレスト国王の遺児は、息子ハロルドの嫡男として暮らしている。だからこのまま一貴族令息として穏やかに平和に暮らさせてやりたい。
スラレスト王国の王子はすでに亡くなったと考えて欲しいと。
もちろん、本人が真実を知って名乗りを上げる可能性もある。しかしその時は、己自身の力でどうにかするだろう。
今はその元王子のことより、スラレストの民と、我々の国民のことをます第一に考えて欲しいと訴えたという。
それでも国王達はスラレスト王国の王子のことを心配した。
いつ、反乱軍の残党に人質として狙われたり、愛国心の強い者達に、王国再興の旗頭に祭り上げられたりするのかわからないのだから。
そこで祖父母は、自分達の嫡男ハロルドとエリックお兄様の写真を陛下方に見せたのだという。
瓜二つの二枚の写真を見て、ようやく国王方は安心したのだという。どう見ても親子としか思えなかったからだ。
そしてその後、スラレスト国はヤマトコクーン王国とブリテンド王国と我がサーキュラン王国によって、三分割されて吸収されたのだった。
その後三国はスラレスト国の元住民達の交流を阻害することなく、自国民に同化することも強制することはしなかった。
それ故に、多くの住民達は三国に吸収されても、それに反感を持つことはなかった。むしろこれまでのブルジョア階級の支配者に対する不満の方が大きかったのだ。
同胞との繋がりを大切にしながらも、新しい国にも徐々に親しんでいった。
しかし、どんなに心を砕いた政策を施しても敵愾心を持つ者達はいる。
そんな者達がスラレスト国や、その前の王国の再興を夢見て、名前も知らない幻の王子を探し始めた。
そのことにいち早く気付いたブリテンド国王から、モントーク公爵家にこんな連絡が入ったのだという。
「彼らがエリック君を見つけ出す可能性はないだろうが、まずはモントーク公爵家を探ろうとするに違いない」
と。
王子が見つからないとなれば、公爵家及び一族の中で、年齢が近い子供を身代わりにするために攫おうとする可能性もある。気を付けろと。
普段からモントーク公爵家の警備にぬかりはなかったが、連絡を受けてからはさらに警備体制を厳しくした。
そしてその後、領地や王都の屋敷周辺に現れた怪しい者達を全て排除していった。
真実を知ったエリックお兄様も自らそれに加わったのだと、以前お祖母様から聞いていた。
エリックお兄様はご自分のためではなく、私を含む兄弟や、従兄弟達を守るために、身を挺して戦ったのだ。そのことを思い出して涙が零れそうになった。
お兄様はまだ十二、三歳の少年だったのだ。それなのにその年で死と向かい合ったのだ。どんなに怖かっただろう。どんなに辛かったことだろう。
でも、そんなエリックお兄様を守るために共に戦ってくれたのは、モントーク一族だけではなかったのだということを初めて知ったのだ。
ヤマトコクーン王国とブリテンド王国の騎士の皆様も、領内に潜伏していたそんな元スラレスト国出身の不穏分子達を見つけ出し、処分をしてくれていたのだという。
「我々はこれから、五か国連合の本部を三国の境界地に建設としよう思っているのだ。
そう。それは元スラレスト王国の中心地だ。
そしてそれが完成したら、是非とも君にその代表者になってもらいたいと思っているのだよ。
君ほど相応しい人間はいないからね。だから是非ともこの要請を受けてもらいたい」
ブリテンド国王にそう言われたお兄様は俯いた。両膝に置いた両手が震えていた。
お兄様は苦悩しているに違いない。皆様の要請を受けたい気持ちは当然あるに違いないもの。
しかしお兄様はモントーク公爵になったばかりだ。しかもこれからブライトン侯爵夫妻やお仲間と一緒に王宮の改革もしなければならない。
現実的にその要請を受けるのは無理だろう。そんなことはお祖母様やお父様が一番わかっているでしょう。特に、お父様は!
私はキッ!とお父様を睨んだ。そして高貴な方々がいる前だというのに、つい文句を言ってしまった。
「お父様、無茶なことをおっしゃらないでくださいませ。人には限界というものがあります。
エリックお兄様は大変優秀な方です。しかし、公爵家の当主の務めだけでも大変な上に、城勤めもこなさなければなりません。
それがいかに大変なことなのか、お父様が誰よりもご存知ではないですか。
それなのに、領地から王都まで約五日。さらに馬車で二日はかかる遠方の地にある五か国連合の本部で働くなんて、到底不可能です。
無理なものは無理です。かつての転移魔法が使える魔術師でもいない限りは!」
本当は父親に向かって
「そもそもお父様が当主を続けていれば良かったじゃない。今からでも当主変更届けを取り消してもらえばいいのではないですか!」
と言いたかったけれど、さすがにそれを口にはできず、思い切り睨んでしまった。
するとお父様はなぜかニッコリと笑ってこう言った。
「さすが我が自慢の娘だ。よくわかっているではないか。
そう。魔法を使えばエリックは我々の要請を受けられるのだよ」
「「はい?」」
俯いていたお兄様も顔を上げてお父様を見つめた。すると、お父様は自慢気にこう言ったのだ。
「いやあ、たしかにかつての魔法使いは全滅してしまった。しかし、過去の魔物の死骸から生み出された魔石がある。
その上なんと、それらを利用して新たな魔法を生み出す、現代の魔法使いと呼べる者まで存在しているではないか。
それはお前達も知っているよな?」
「発明家のことでしょう?」
当然知っているわ。すぐ身近にいるのだもの。そもそも今この屋敷の中にいるじゃないの。




