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✽ 公爵令嬢、領地(天国)で女子会をする ✽ 第55章 久し振りの会話(ユリアーナ視点)


 それにしてもお祖母様の息子達って面白い人間ばかりだなあと、今さらだけどそう思った。

 三人とも見かけは王子様のように眉目秀麗で素晴らしい体躯をしている。そして三人とも首席で学園を卒業したくらい優秀だ。性格も良いと思う。

 けれど、みんなちょっと変わっている。それを妻達が陰で補っているから、身内以外にそのことが気付かれていないのだ。

 足りないところを補い合えるのが夫婦というものなのかもしれないと、近頃両親や叔父夫婦達を見てそう思った。

 

 そう考えると完璧なエリックお兄様の場合、妻に望むことなんて、後継者を産み育てることくらいしかないのではないかしら? そんな気がしてきたわ。

 お母様もお父様に自分は必要ないと思ったからこそ、離縁をしようと考えたのだから。でも、いくらお兄様のことが好きでも、後継者のためだけに妻になるのは嫌だわ。

 なんてことを考えたけれど、今はそんなことを悩んでいる暇はない、と頭を切り替えた私だった。

 だって、もしかしたら世界情勢が変わるその瞬間に立ち合えるかもしれないのよ。そう思うと、私はわくわくした気分になってきた。


 

 おそらく、我が国を含む五か国が手を結べば帝国に対抗できる。そうすれば無駄な侵略戦争を起こさないようにできるはずだわ。

 それは多く国の人々の恒久的な願いだと思う。そしてそれは、祖母や父、そしてエリックお兄様が望んでいる世界に違いないわ。

 所詮私は裏方の一人に過ぎないけれど、自分の大切な人達の役に少しでも役に立てるのなら嬉しい。

 

 もちろん、一番の主役となるマックスお兄様とスレッタ様の婚約式を無事に成功させることが一番の目的だけれど。

 本来なら二人は、婚約どころかすでに結婚式を挙げていてもおかしくなかったのだ。

 それなのに、私の不幸な婚約が解消されるまでは婚約できないとマックスお兄様が告げると、スレッタ様はそれに同意して、これまで兄を待ってくれていたのだ。

 それを祖母から聞かされたときは、私は号泣してしまった。

 そんなにも兄に愛されていたのだという嬉しい気持ちとともに、愛する二人を長い間別れ別れにさせてしまって申し訳ない気持ちで。

 二人には絶対に幸せになってもらわないといけない。だから素敵な婚約式にしなければ。



  

「お客様を迎える準備は進んでいるかい?」

 

「ええ。我がモントーク公爵家の屋敷は今、簡易宿泊用の掘っ立て小屋に囲まれているわ。そして今は、その周りにさらに柵を張り巡らせているところよ。

 本当は堀でも掘りたいところだけど、後一週間では無理だとお父様は諦めたわ。

 でも、ケンドル叔父様があちらこちらに罠を仕掛けるらしいから、もしどこからか攻撃されても防御には問題ないそうよ。

 

 高貴な方々のお部屋の準備もどうにか整ったわ。と言ってもさすがに全員分の客室なんて無理だから、相部屋になってしまうけれど。

 お祖母様が確認を取ったら、皆様それで構わないとおっしゃったらしいわ」

 

「そりゃあ、お祖母様に直接文句を言える人間なんていないさ。帝国の皇帝ならわからないけれど」

 

「お忙しいのにわざわざお兄様が魔通話をかけてくるなんて、他に何か大切な要件があるのではないですか?」

 

「さすがだね、私の愛しいユリアーナは。

 実はね、申し訳ないが客人がもう一人増えるんだ。それを皆に伝えておいてくれないかな」

 

「まあ! どなたですの?」

 

「ランドール=ヴァルデ公子だ」

 

「えっ? ああ、スレッタ様の妹サリナ様と婚約されたのですよね?

 婚約者として、義兄弟になるマックスお兄様達の婚約式に参加されたいということですか?」

 

「まあ、建前としてはそういうことだろうな」 

 

「建前ですか?」

 

「ああ。実はランドール公子はサリナ嬢のご両親とはまだお会いしていないのだよ。

 婚約の許しは魔通話で行われたからな。だから、直接アズマン公爵ご夫妻や、両祖父母である陛下方とお会いして挨拶をされたいのだろう。

 そしてそのついでに、自分達の婚約のお披露目をする目論見なのだろう」

 

「それって図々しくありませんか? 費用は他家持ちで自分達のお披露目をしようなんて。

 その準備にどれくらいの費用と人件費が掛かっていると思っていらっしゃるのでしょう」

 

「ユリアーナも厳しいことを言うね」

 

「当たり前のことです。お金は降って湧いてくるわけではないのですから。

 他家のお世話などしている余裕などありません。

 そもそもロイドネス公爵様からお許しが得られたのも、ケンドル叔父様が発明した魔通話があったおかげでしょう? 

 それならば叔父様に感謝してスポンサーになるくらいしてもいいのではないですか?

 この魔通話を完成させるためには膨大な費用がかかったのですから」

 

「あはは、たしかにそうだね。でも、私には彼に少し負い目があってね」

 

「でもそれはお兄様の個人的なお話でしょう? モントーク公爵家とは切り離して考えて頂かないと。公私混同はいけませんわ」

 

「だ、大丈夫だよ。王都から参加する者達の費用は、我がモントーク公爵分を含めて全てヴァルデ公爵家持ちにしたからね。

 それと宿泊場所は自分でどうにかしろと言っておいた。だから公爵は留守番するそうだ」

 

「さすがですわ、お兄様。でも、ランドール公子様は野宿なんてできますの? 領内の宿はすでに空きなどありませんよ」

 

「それも大丈夫だ。彼も騎士団で基礎訓練は受けているから、野営も経験しているからね」

 

「そうですか。それなら良かったですわ」

 

「もしかして私も野営かな?」

 

「まさか。モントーク公爵家当主のお兄様は当然、当主の部屋にお泊りになるに決まっているではないですか」

 

「ねぇ、ユリアーナ、領地へ行ってずいぶんと性格が変わったのではないか?」

 

「お兄様、三か月(・・・)も経てば人は誰だって変わりますわ。そんなこと当たり前ではないですか。

 まあ、それに私の場合変わったというより、地の性格に戻ったという方が正しいかもしれないわ。

 淑女教育が始まる前の私って、思ったことをズバズバ言う子供だったでしょ?」

 

「ああ、そうだったな。そんな君が可愛くてしかたなかったよ。もちろん、立派な淑女になった君も好きだったけれどね」

 

「ねぇ、お兄様は領地で今後のことをよく考えるようにとおっしゃいましたよね?

 それで私この三か月(・・・)、よく考えたのですが、修道院や他国へ行くのはやめることにしたのです」

 

「それは良かった」

 

「それで私、ここに残ってお祖母様やお父様のお手伝いをしようと決めました。

 お二人の崇高な理想を実現させるために、微力ながらお役に立てたらすてきだな思ったので」

 

「!!!!!」

 

「お兄様、お兄様、どうなさったのですか?もうご用がないのなら切りますね。魔石代も馬鹿になりませんから」

 

「ちょっと待ってくれ。

 王都組は明後日出発して、五日後の式の前々日に到着予定になっている。

 しかし私はヘンリー叔父上と共に今日王都を出る予定だ。明後日にはそちらに着くだろう。そう、皆に伝えておいてほしい」

 

「えっ? 何か急用ができたのですか?」

 

「急用というより、ヘンリー叔父上が義叔母上とすでに二か月も離れていてもう限界なんだ。それで一日でも早く会いたがっているんだ」

 

「なるほど。それはわかります。でもお兄様は?」

 

「私は正常でいられる境界線を今正に越えそうなくらい危機的状態なんだ。つまり、すでに危険水域に達しているんだよ。

 なにせ叔父上より一か月も長く君と会えていないのだからね。わかるだろう?」

 

「えっ?」

 

 魔通話からプツリと音がした後、何も聞こえなくなった。魔石エネルギー切れなのか、お兄様の精神が切れたのかはわからないけれど。

 いつも冷静沈着なエリックお兄様が、あんなに焦って戸惑った声を生まれて初めて聞いた。

 

 私が領地に残ると決めたと告げたからでしょうか。まあ、あれはエリックお兄様の反応を見るためにわざと口にしてみたのですが。

 自分の口で話したいから余計なことは言うなと、エリックお兄様は皆に口止めをした。

 それなのに、三か月以上も私を放置していることに、私以上にお母様や義叔母様達が腹を立てた。

 それでお兄様に危機感を持たせなければと義叔母様達が言い出したのだ。

 たしかにお兄様はあの言葉だけで危機的状態に陥ったようで、正直驚いてしまった。

 

 でも、私は別に義叔母様達の話に乗ったわけではなかった。お兄様に言った言葉は正直なところ半分は本心だった。

 お兄様が私をどういう意味で必要としているかどうか、現時点ではわからない。

 好きだという言葉は以前からもらっているが、それが妹としてなのか、異性としてなのかはっきりしていない。

 もう幼い少女ではないのだから、幸せを感じても、そのあやふやな言葉だけで一生側にいたいとまでは思えない。

 私も母や義叔母様達のように、自分の存在意義が欲しいのだ。

 そしてここにいれば、私のすべきことやしたいことはあるのだ。

 

 ここは辺境伯領や国境に近い。つまりヤマトコクーン王国やブリテンド王国、双子の王女殿下の嫁いだ国とも近いのだ。

 これまでも隣国とは互いに助け合い、良好な関係にある。

 我々が一つになり、他の近隣諸国との窓口になって国際交流の拠点となれるのではないだろうか。 

 偉大な魔王であるお祖母様なら、その代表者に相応しいと思う。

 それをお父様やお母様と共にお助けできたら、なんて素晴らしいのかしら。

 

 そして、新しい組織を作ることになったら、きっと新たに優秀な人材が必要となるに違いないわ。

 女性の社会進出の進んでいる国々なら、きっと優秀な女性を欲するはずだわ。

 もしそうなったら、そこが勉強会の仲間達の雇用先になる可能性も出てくるかもしれない。

 今の王都では女性の働く場所はかなり限られている。

 けれど、王都でなくても働く場所さえあれば、家族や嫁ぎ先で虐げられて逃げ出したいと思っている女性達でも、どうにか自力で生きていけるかもしれない。修道院へ逃げ込まなくても。

 

 エリックお兄様には私がいなくても、周りには優秀で素晴らしい親族やご友人がたくさんいるのだ。

 そしてお兄様に相応しいご令嬢もたくさん。私がいなくてもきっと困らない。

 お兄様は、子供だったころの約束にいつまでも縛られる必要はないのだわ。

 

 そう思いつつも、私の胸はズキズキと痛んだのだった。


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