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✽ 公爵令嬢、領地(天国)で女子会をする ✽ 第54章 女魔王、動く!(ユリアーナ視点)


 お父様とお母様の仲が元に戻って本当に良かったわ。これまでお父様は自分の気持ちをほとんど表さなかった。それが拗れる原因だったのだと思う。

 ただでさえ無表情で感情が読めないのだから、言葉にしなければお父様の思いは伝わらないわよね。どんなに相手のことを思っていても。

 もっとも私は、エリックお兄様に豊かな表情や言葉でずっと愛を囁かれてきたというのに、全くそれを本気にはできなかったけれど。

 でもそれは兄妹だと思っていたのだから仕方ないわよね。


 それにしても、やっぱり言うべきタイミングにちゃんと口にしないと、取返しがつかなくなることもあるのね。良い勉強になったわ。

 私も今度お兄様に会ったら、ちゃんと自分から気持ちを伝えようと思っている。


   

 二月前にお兄様から、迎えに来るからここで待っていて欲しいと言われた。

 しかしお兄様はその後急遽当主にされてしまった。その上お父様が宰相職を辞任してしまったので、王城は右往左往の大混乱状態になっているらしい。

 ただでさえ忙しい人だったのに、これまで以上に超多忙になってしまったお兄様は、当分領地には来ることはできないだろう。

 だから私は、自分の進路を未だに決められずにいる。王都に戻るのか、隣国へ向かうのか。さすがに修道院へ入る気はなくなったけれど。

 もちろんこのまま領地に残って、祖母や両親の手伝いをしながら暮らすという選択肢もあるけれど。

 

 でもお母様は、時間を無駄にしたくないから早速公爵夫人教育を始めましょう、なんて言っている。

 たしかに私はエリックお兄様の婚約者だったらしいけれど、つい最近までブライアン王太子の婚約者だったのよ。だから、それ以前の婚約なんてもう効力はないのでは?と思うのだけれど。

 そう私が言ったら、側にいたお祖母様が何か良い事を思い付いたように、両手をパチンと叩いてから立ち上がった。そして、お母様や義叔母様達を引き連れてリビングから出て行ってしまった。

 

 そしてその三日後の晩餐の席でお祖母様は、みんなの前でこんな発表をした。

 

「今日までレイラだけじゃなくてナンシーまでここに滞在してもらったのは、これまで愚息達が苦労をかけてしまったことに対するお詫びとして、義娘達にゆっくり休養してもらいたかったからなの。

 でも、さすがにそろそろ王都に戻ってきて欲しいと、ヘンリーから毎日のように嘆願書が届けられているの。

 ケンドルからも、実験途中の研究を投げ出してきたから王都に戻りたいと泣き付かれていて、本当に煩くて仕方ないわ」

 

 お祖母様の言葉に、叔父様はやっと王都に戻れると思ったのか、パッと顔を輝かせた。ところがである。


「ケンドル、散々世話になった兄の世話が嫌だというのなら、貴方だけ一人で王都に戻りなさい。子供達のためにも、貴方でも居た方が居ないよりはましでしょうからね。

 ナンシーにはレイラ共々お願いしたいことがあるから、後一月ほどこちらに滞在してもらうことになったから」

 

 お祖母様の言葉に叔父様は一瞬呆気に取られたが、すぐにこう言った。

 

「ナンシーがまだここに滞在するというのなら、当然僕もここに残ります。

 でも、彼女達に頼み事ってなんなのですか?」

 

「実はね、マックスとスレッタ嬢の婚約式をこの屋敷で行うことになったの。

 だからそのパーティーを開く準備を手伝ってもらうことにしたのよ。

 婚約式にはスレッタ嬢の両方の祖父母の方々も参列なさりたいそうなので、準備がそりゃもう大変になると思うのよ」

 

 スレッタ嬢の祖父母といえば、ヤマトコクーン国王夫妻とブリテンド国王夫妻のことだわ。確かに警備やおもてなしの準備がかなり大変そうだわ。

 でも、結婚式ならともかくなぜ婚約式にまでそんな貴い方々が参列されるのだろう?

 そしてハッとした。一月半後に催される帝国の皇太子の結婚式のことが、すぐに頭に浮かんだのだ。

 

 結婚式の一年も前から、その国の長が必ず参列しろと、まるで命令するかのような上から目線で、彼の国は各国に招待状を送り付けてきたのだ。

 お父様とお兄様が苦虫を噛み潰したような顔をしていたのを覚えているわ。


「帝国はいい気になり過ぎている。このまま増長したら、他国に侵略戦争を仕掛けかねないな」

 

「ええ。でも周辺国は小国が多いですから逆らえません。連合すれば相手も容易く手は出せなくなるでしょうが、生憎音頭を取る国がありません。

 それならば我が国が……と言いたいところですが、近頃我が国は大陸で孤立気味ですから到底無理な話です」

 

 お父様とお兄様が執務室でそんな話をしているのを、たまたまお父様の書棚から本を物色しているときに聞いてしまった。

 屋敷でも国政を学べるようにと、私は父から自由に執務室に自由に入ることを許されていたのだ。

 でもこれまで鉢合わせすることがなかったので、お父様もまさか私が入り込んでいるとは思っていなかったのだろう。

 

 あの時の二人の会話を思い出した。

 そうか。ヤマトコクーン王国とブリテンド王国、そして我がサーキュラン王国が手を組めば、もしかしたら他の周辺の国々も仲間に加わるかもしれない。

 お祖母様はその二国とは確固たる信頼を得ている。おそらく現国王方までここにいらっしゃるということは、そういう思惑を予めわかっているからに違いないわ。

 私は思わず、お祖母様にこう口にしてしまった。

 

「シルベルトン王国の国王夫妻とバリスコット王国の国王夫妻にも、ご招待をお送りしたらいかがですか」

 

 シルベルトン王国の王妃は我が国の元第一王女でいらしたシェルリー様。

 そしてバリスコット王国の王妃は双子の妹の元第二王女チェルリー様だ。

 私のこの言葉にお母様や叔父様、叔母様達は驚いていたが、お父様とお祖母様はニヤリと笑った。

 

「さすがだな、我が娘は。よく気が付いた」


「うふふ。大丈夫よ。彼女達にも招待状はもう届けてあるわ。

 ついでにブライトン侯爵夫妻も招待したから、久しぶりに三姉妹が一堂に会せるでしょう」

 

 ブライトン侯爵夫妻? ああ。そういうこと(・・・・・・)なのね。と私はもう一つ納得してしまった。

 お母様が王都から携えてきた記録石の中身を、私は直接には聞かせてもらっていない。この国の内政に関する秘密の内容が含まれていたからだ。

 直接話を聞いていたお母様もあまりよくは理解していないようだった。

 しかし、お祖母様はお父様とお兄様の考えをほとんど理解していたようで、私に簡単な説明をしてくれていた。

 

 私が三年近く王宮に通っていたことで、今さら隠しても意味がないと判断したのだと思う。

 たしかに私は大枠を聞いただけで、お父様が何をしたかったのかをある程度理解した。

 これからお祖母様がしようとしていることは、お父様の考えとは少し違うのではないか思った。それで様子を窺ってみたのだが、どうやらお父様に不満はなさそうだった。

 着地点が同じなら、その道筋が違っていても別に構わないのだろう。お父様のその潔い考え方に改めて尊敬の念を抱いたわ。

 

 それにしてもお祖母様の人脈って凄過ぎる。四か国の王族を自分の元に呼び寄せられるのだから。だから女魔王なんて人々に呼ばれるのよね。

 実際は魔法を使っているわけではなく、愛情を持って接してきたから、相手の方がそれに恩義を感じているだけなのだけれど。


「でもお祖母様、よくこんなに早くに皆様と連絡が交わせましたね」

 

 お祖母様がこのアイデアを思い付いたのはおそらく三日前のはずだ。どうやって他国や王都と連絡をとったのだろうと思って訊ねた。

 すると、お祖母様はにっこりと笑ってこう言った。

 

「ああ、それはね、ケンドルのおかげよ。この子が魔電話という、伝達用の魔道具を発明していたのよ。

 その特許権を以前ナンシーから譲り受けていたので、この領地で製造して、信頼できる私の友人達に贈答してあったのよ。

 だからそれを使って連絡をとったのよ」

 

「なんだってー!」

 

 ケンドル叔父様が大声と共に立ち上がった。そして妻であるナンシーお義叔母様に向かって怒鳴った。

 

「僕の発明した魔電話の権利を、いくら母上とはいえ、なぜ勝手に譲ったりしたのだ!」

 

「お譲りしたのではなく買って頂いたのです。

 あの魔道具を作るために、貴方はご自分の個人資産を全て使い果たしてしまったでしょう? 

 それなのに、あの魔電話を使って資金を得ようともせずに、次の発明品の開発に夢中になって、我がバークス子爵家の資産まで流用しようとなさったでしょ。

 それで私も困ってしまって、お義母様に相談をしたのよ。

 そうしたら、婿養子の分際で働きもせず、養子先を食い潰そうとするなんてとんでもない。

 あんなだめ人間にしてしまった責任はご自分にあるからと、お義母様がかなり高額な値段で、その魔道具の特許権を買い取ってくださったのよ。

 貴方がただ持っているだけでは宝の持ち腐れだったのですから、こうして日の目が見られて良かったじゃないですか。ちゃんとお役に立っているみたいですし」

 

 ナンシー義叔母様は平然とこう言い放った。その話を聞いて、私だけでなく、ケンドル叔父様以外は皆がもっともだと頷いていた。

 

 口をパクパクさせている叔父様に向かって、お祖母様はにっこり笑いながらこう言った。

 

「発明者が貴方だってことはちゃんと話してあるから、貴方の功績まで奪ったわけではないわ。

 それに貴方ってたしかに天才みたいだけれど、それを活用し、商売する能力はなさそうだから、一族の中で経営や販売促進を得意とする者をナンシーに紹介しておいたのよ。

 今貴方が好き勝手に研究できているのも、優秀かつ慈愛深い妻とそのコンサルタントのおかげなのだから、二人に感謝するのよ」

 

 それを聞いた叔父様は脱力して、再び椅子に座り込んだのだった。

 

 

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