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✽ 公爵令嬢、領地(天国)で女子会をする ✽ 第48章 父の秘めた愛情(ユリアーナ視点)

 

 私が領地に来てから一月半が経った。ここはまさに天国だった。兄や従兄弟達が領地へ行きたがっていた気持ちがよくわかる。

 そしてそれを今私だけでなく、母や義叔母まで同じ気持ちでいるようだ。

 ほとんど屋敷に戻らない夫に代わって、二人は今までずっと家を守ってきたのだ。旅行をすることも、実家へ帰って泊まることもなく。

 それなのに、ここでは家や家族の心配なんてしなくてもいいのだ。

 ただ好きな人達とおいしい食事をし、楽しい話をし、そして美しい庭を散歩するのだ。時間も気にせずに。

 まあ、私はメイド見習いをしているので、そうそう母親達に付き合ってはいられないけれど。

 

 半月前に母と叔母が、のんびりと旅行しながらこちらへ向かうという手紙を寄越してきたときは仰天した。

 

「どうやら二人は息子達と喧嘩をしたらしいの。顔を見たくないから屋敷を出たらしいわ。

 もう子供達も大きくなったのだから、彼女達も好きなことをやればいいわ。

 これまで頑張り過ぎだったのだから、たまにはゆっくりするのも悪くないわ」

 

 あの淑女の鑑のような母達が長期間屋敷を空けるなんて尋常ではないわ。

 祖母はどうやら何故母達が家出のような真似をしたのか、その理由を知っているように思えた。

 その上でそう言うのだから、祖母に任せておけばいいのだろう。

 そう私は判断し、その後母と義叔母がやって来たときも、事情などは何も聞かなかった。

 話したくなったら、きっと本人達が話してくれるだろうと。

 

 そして思ったとおり、一週間ほど経ってから、母と叔母が王都で何があったのかを話してくれた。

 

「……というわけなの。旦那様にとって私はいてもいなくてもいい存在みたいだから、離縁しようと思っているの」

 

「えっ? 離縁?」

 

「ええ。でもすぐにというわけではないのよ。

 エリックの婚約者が決まったら、公爵夫人としての教育を授けないといけないから。それが済んでからの話よ」

 

 エリックお兄様の婚約者……その言葉にズキンと胸が痛んだ。

 本来なら兄はとうに結婚していてもおかしくない年齢なのだ。だから今さらこんな気持ちになるなんて馬鹿みたいだと思う。

 お兄様のことは諦めたじゃないの、と心の中で自分に言い聞かせてみたが、そんなに簡単に平常心になれるわけもない。

 つい俯いてしまった私の両腕を母が優しく触れた。

 

「そんなに悲しまなくてもいいわ。おそらく私が教えるのは貴女になると思うから」

 

「えっ?」

 

 思いも寄らない言葉に顔を上げると、母は慈愛の籠もった瞳でじっと私の顔を見つめていた。

 そして私の腕に触れていた両手を私の背に回して、ギュッと抱き締めてくれた。

 

「貴女の苦しみに気付いてやれなくてごめんなさいね。

 誰にも相談できずに辛かったでしょう。だめな母親だったわ」

 

 お母様は、私がエリックお兄様の出生の秘密を知っていることに気付いたのだ。

 

「そんなことはありません。お母様はいつも私の味方だったもの。

 お祖母様からお聞きになったのですか? 私が秘密を知っているということを」

 

「いいえ。お父様からよ」

 

「なぜお父様が?」

 

「そもそもお父様は貴女にエリックの秘密を知らせるために、ヘンリー様と居間で話をしていたそうよ。執務室ではなくてね」

 

 私は喫驚して声も出ず、大きく目を見開いたまま固まった。盗み聞きをしてしまったと、子供心に罪悪感でずっと後ろめたい思いをしてきたのだ。

 けれど、それは父がわざと私に聞かせるために仕組んだことだったというの? なぜそんなことを?

 疑問に思っている私に、母は呆れた顔をしながら、私に対する父の思いを教えてくれたのだった。

 それは祖母が言っていたとおりだった。

 

 私のことが可愛くてしかたなくて、領地の祖母の所へ行かせなかったこと。

 あんな愚かな王子となんて最初から婚姻させるつもりなどなかった。ただ、我が家と縁を結んで利益を得ようとする野心あふれる家の令息達から、私を守るためのカモフラージュだったこと。

 高位貴族夫人としても将来役に立つお妃教育をただで受けられること。(セコい!)

 国王陛下の思惑は知っていたが、そんな馬鹿らしい計画に乗るつもりなどサラサラなかったこと。

 私には最初から好きな相手と結ばせてやるつもりだったことなど。

 

 

 父は陛下に利用されていたのではなくて、反対に利用して私を守っていたというの?

 私がこの国だけでなく、他国からも縁談が持ち込まれていたとは知らなかったわ。

 公爵令嬢という家柄だけではなく、この国最強の女、いや女魔王とか守護神とか呼ばれているフランソワーズ=モントークの孫娘ということだけで、私は嫁に欲しいと求められていたという。

 いや、それだけではなく、私が祖母似だということで余計人気に拍車がかかったらしい。 

 似ているのは容姿だけだと思うのだけれど。

 

 高貴な方々からの申し込みを断るというのは、かなり面倒なことだったらしい。

 そのため父としては、いざこざを避けるためにも、さっさと私とエリックお兄様と婚約させたかったようだ。

 けれど、お兄様の出生の秘密を公にできるにはまだ時間がかかった。

 そこでどうしたものかと思案していたとき、王家から王太子の婚約者になって欲しいと望まれたようだ。

 そこで求婚してくる人達から私の身を守るために、王太子と婚約を決めたのだという。

 そして私がエリックお兄様のことを好きだとわかっていたから、いずれは王太子殿下と婚約解消して、結ばせてくれようとしていたらしい。

 どうやって?と思ったが

 

「あんな愚か者を将来国王にするつもりなどなかった。だから学園を卒業する前に、ブライアンを王太子の座から引きずり降ろして、婚約者を破棄するつもりだった。

 我がモントーク一族の力をもってすれば、どうとでもできるさ」

 

 父はそう言ったらしい。謀反も辞さないつもりだったということなの?

  

「そんなこと、面と向かって言ってもらわないとわからないわ。

 私はお父様に愛されていないのだと思っていたわ。あんな男と有無を言わさずに婚約させたから」

 

「まったくよ。政治的なことはともかく、せめて子供達に関することくらいは話して欲しかったわ。

 言ってもらえなかったから、私はあの人に逆らうようなことばかり言っていたし、軽蔑し、憎いとさえ思ったのだから。

 家族の問題さえ話をしてもらえないのでは、夫婦でいる意味がないでしょう、ねぇ?」

 

 お母様はお父様に何も話してもらえなかったことだけではなくて、自分が夫を信じられなかったことが辛いのかもしれない。

 でもお母様は悪くないわ。だってお父様って鉄面皮なんだもの。

 もう中年だというのに、お父様は美しい顔をしている。整い過ぎている上に表情がないから、まるで彫刻の人物像のようで感情が見えない。

 そんなお父様の気持ちなんてわかりようがないわ。まあ、お祖母様だけは、もしかしたらわかるのかもしれないけれど……



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