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✽ 公子は祖母の慧眼の力に改めて感心する ✽ 第45章 公子の縁談1 (エリック視点)  


 まず目的の一つ達成した私は、次にランドール=ヴァルデ公子に会いに行った。

 

「お久しぶりですね、ランドール公子殿」

 

「お久しぶりです、エリック公子様。この度はその……色々と大変でしたね」

 

「ええ、まあ」

 

「お忙しい中わざわざ我が家へいらしたのは、例のお話ですか? 父に王位を継承しろという。

 父はそれを陛下が望むなら受けてもいいと言っていましたが、僕が反対していました。陛下や妃殿下に王位を狙うと疑われることを恐れて。

 案の定王妃殿下は、僕が優秀なユリアーナ嬢を王太子から奪って王位を狙っていると、疑っておられたそうですね。

 貴方の言ったとおりでした。でも、大人しくしていても疑われたのですから、僕は彼女を諦めなければよかったですよ。

 そしてあの愚か者を引き摺り下ろして、彼女とこの国を治めると決意を固めればよかった。今さら後悔しても遅いですが」

 

「その口ぶりだと、妹のことや王太子になることもすでに諦めたということですか?」

 

「ええ。彼女が殿下の婚約者になってすでに三年近く経っているのですよ。さすがに諦めましたよ。ヴァルデ公爵家を継ぐ者としての責任もありますしね。

 それに、もし彼女と結婚したとしても、やはりこの僕ではこの国の王としてはやっていけないと思うようになったのです。

 三人の従姉達の活躍ぶりを耳にして、僕はとてもじゃないがそんな真似はできないと思いました。だから、王位を狙おうなんていうだいそれた野望は捨てましたよ。


 今では、自分の公爵領の発展を考え、努力することが一番大切だと思っています。そしてそれがこの国のためにもなると。

 まあ正直なことを言えば、今となっては少し複雑な思いですが。

 だって、王位のことはともかく、ユリアーナ嬢ほど優秀かつ愛らしいご令嬢はこの国にはいらっしゃらないですからね」

 

 ランドール公子がユリアーナを諦めてくれたことは朗報だった。

 彼には悪いと思ったけれど、彼にいつまでも叶わぬ恋心を抱かせるよりはましだと、早く諦めがつくように仕向けたのは私だったのだから。

 それでも彼がなかなか婚約者を作らなかったので、まだユリアーナを思っているのかと気が気じゃなかったのだ。

 しかし、それは単に彼のお眼鏡に適うご令嬢がいなかったからのようだ。それなら都合が良いと私は思った。

 

 私は彼にある縁談を持ちかけた。そのお相手は、王家の血筋の彼にとって過不足ない身分のご令嬢だった。

 少々勝ち気でたまにそれが顔に表れることはあるらしいが、心根は良くかなり優秀な少女だと、そのご令嬢の姉から聞き及んでいる。

 しかも姉妹の容姿はよく似ているそうだから、おそらく妹も姉同様に相当美人だと想定できる。

 その話を聞いたランドール公子は喫驚した。そしてなぜかぽっと頬を赤らめてこう言ったのだ。

 

「つまり、そのご令嬢と結婚したら、エリック公子様と親類になれるということですか?」

 

「う〜ん。私というより末弟のマックスと義兄弟になるってことだけれど、私とはどうなのかな?

 まあ、縁続きになることは間違いないよね」

 

 私がそう答えると、ランドール公子は満面の笑みを浮かべて、ぜひその話を進めてくださいと返事をしたのだった。 

 そのランドール公子の縁談の相手というのは、弟マックスの婚約者の妹だ。

 つまりヤマトコクーン国王の次男ロイドネス公爵の三女である、スレッタ嬢の年子の妹、サリナ嬢だった。 

 


 ✽

 


 ブライアン王太子が婚約破棄を宣言した時、実は私も父と同じく、なぜ今なのだと非常に腹が立った。

 もちろんそれはユリアーナに対してではなく、あの愚か者に対してだ。もちろん二人の婚約は絶対に解消させる気ではあったが、時期が些か早過ぎた。

 それはどうしてかというと、マックスとスレッタ嬢の婚約式を近く執り行う予定だったからだ。

 本来、二人はもっと早く婚約をしていてもおかしくなかったのだ。

 しかし、マックスが私よりも早く婚約をすることを気にして断固と拒否したのだ。

 そうやって、私が早く身を固めるように促すつもりだったのだろう。私が一向に相手を見つけようとしなかったからだ。

 上の弟のスコットはすでに結婚しているのだから気にすることはない、と言ったのだが。

 そしてスレッタ嬢もまた、ユリアーナの婚約が解消になってからでないと、自分達は本当の意味で幸せにはなれない、と言ってくれたそうだ。

 

 しかし、愛する人がいるのに結ばれないということは本当に辛い。それをよくわかっているからこそ、私は弟にそんな思いをさせたくなかった。ただでさえ国が違っているために、逢うことさえままならないのだから。

 それ故に私はマックスに言ったのだ。私が婚約しているという噂は本当のことなのだと。

 特殊な事情があって相手の名は告げられないが、私には決まった相手がすでにいる。もちろん両親と祖母からも認められた婚約だと。

 だから、お前は兄のことなど気にせずに、せめて婚約だけは済ませて欲しい。世の中何が起きるのかわからない。

 だから、変な横槍が入らないうちに約束を交わして欲しい。スレッタ嬢は高貴な身分の方なのだから、いつ断れない打診がくるかもしれないのだからと。

 私の話を聞いてマックスは顔色を変えた。

 しかし、ユリアーナのことを思うとやはり……と、苦しげな顔をした。そこで私はこうも言ったのだ。

 身命を賭してでもユリアーナのことは守る。だから心配はしなくても大丈夫だと。

 すると弟はますます心配そうな顔をしたので、


「三年も前から、ユリアーナの婚約が解消になるように仕掛けをしておいた。

 やつはすでに罠に掛かっているから、後はじわじわと追い詰めるだけだ。だから心配はないよ」

 

 そう言って笑って見せた。

 するとモントーク公爵家の私設騎士であり、諜報を得意としているマックスは何かを察したようで、ようやく納得してくれた。

 こうして弟達の婚約式の日取りも決まって、やれやれと思っていたのに、予想よりずっと早くにあいつは婚約破棄騒ぎを起こした。

 そのせいで、ようやくマックスの婚約者を紹介できるはずだったのに、ユリアーナは領地の祖母の下へ行ってしまった。

 そして今度は母や叔母まで。

 しかも父は自室に閉じこもって出てこない有り様で、家令のボードバーグ卿としか話もしないのだ。


 こんな状況になってしまい、婚約式は延期になってしまった。

 スレッタ嬢や彼女のご両親であるロイドネス公爵夫妻には計り知れない迷惑をかけてしまった。これはモントーク公爵家の末代までの恥だ。

 とはいえ、あの完璧な淑女である母とユリアーナが逃げ出したくなるほど、ずっと辛い思いをしていたのかと思うと、やるせない思いがして、とてもそれを責められなかった。

 

 ところが、そんな不運を嘆いていた我が公爵家に、思いも寄らない朗報が届けられた。

 そしてそれがまさに「災い転じて福となす」となったのだ。

 なんと、スレッタ嬢が一つ年下のサリナ嬢と共にサーキュラン王国にやって来るというのだ。

 父のことを心配して見舞いに行きたいと言ったスレッタ嬢に、姉を一人で行かせるのは心配だとサリナ嬢が同行することになったのだ。

 しかも、彼女はこの国で婿探しをするつもりだと聞いて、すぐにランドール公子の顔が浮かんだのだ。

 

 これは最高の組み合わせではないか。

 サーキュラン王国の王弟の令息と、ヤマトコクーンの国王の孫娘。しかもこのご令嬢はブリテンド国王の孫娘でもあるのだから、こんな高貴なご令嬢は滅多にいない。

 この縁組は、マックスとスレッタ嬢のカップルと共に、祖母が繋いだこの二つの国との絆を、更に深めてくれることだろう。

 急ぎロイドネス公爵(ヤマトコクーンの国王の次男)へその縁談の話を持ち掛けると、あちらもすぐに乗り気になってくれた。


 しかもこちらが何も言わずとも、両国の王からは、サーキュラン王国の乗っ取りなど微塵も考えていないから安心してこの話を進めてくれ、ということが手紙に記されていた。


「我々は、モントーク公爵家の強さと恐ろしさを知っている。そして「女魔王」とはいつまでも仲の良い友人関係でいたいと願っている」

 

 と。

 

 私が最初に余計なことを書かなかったのは、何も祖母の友人だからと単純に相手を信用していたわけではない。

 ヤマトコクーン王国の事情をきちんと把握していたから、わざわざ余計なことを書いて、相手方の心象を悪くはしたくなかった。それだけだ。

 実は彼の国の王家は、これから先孫達の結婚相手を探すのに、大変苦労しそうだということを私は事前に知っていたのだ。


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